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第46話 復活のM(魔族)

「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 ネレムは声を荒らげる。

 横のハートリーも困惑していた。


 困惑していたのは我も同じだ。

 はい? と首を傾げてしまった。

 動揺していないのはヴァラグだけだ。


 だが、こいつは魔族の中でも堅物だ。

 我が仕置きした時以外、頬の筋肉1つ動かしたことがない。

 石の仮面でも被っているのではないかと思ったほどだ。


「なんですか、ネレム?」


「ルヴルの姐さん、言ったじゃないですか? 魔族は倒した、と」


「うんうん」


 ハートリーも激しく首を振って同調した。


「倒したとは言いましたが、殺したとは言ってませんよ」


「「え?」」


 ハートリーとネレムは声を合わせる。

 2人ともいつの間にそんなに仲が良くなったのだ?

 我がいない3日間の間に一体何があったのだろうか。


 さて、魔族は生きている。

 むろん死を望む者にはくれてやったが、全体の1割にも満たぬ。

 そもそも魔族となった者の中には、普通に人間社会に溶け込み生きている者もいた。

 人間と子を成している例も、珍しくはない。


 我が転生してから、1000年近く経っているのだ。

 その間、自然と人間社会になれていったのだろう。

 そもそもユーリのように野心を燃やした過激な魔族は少なかった。

 王都で暴れていた不埒者ぐらいだ。

 あの騒ぎだって、魔族に紛れて、王政への不満がある人間が暴れている姿が散見された。


 こうなって見ると、人間も魔族も変わらぬような気がする。


「そ、そうだったんだ」


「なんか、ちょっと複雑な気分ですね」


 我から事情を聞いたハートリーとネレムは、複雑な表情を浮かべた。

 結局、業の深さでは人間も魔族に負けていなかったと知ったのだ。

 ハートリーたちとしては、胸中穏やかではないものであろう。


「でも、ルーちゃん偉いよ。魔族の人たちを更正する道を選ぶなんて。わたしがルーちゃんの立場ならきっと……」


「ハーちゃんでも、同じ選択したと思いますよ」


「え?」


「だって、私たちは聖女候補生ですよ。人を癒やすのが私たちの使命ではありませんか? それがたとえ、魔族であったとしても……」


「あ……」


 我は聖クランソニア学院で学んだ理念を実践したに過ぎない。

 報いなく、人の身体と心を癒やすのが、我ら聖女の役目であるからな。


「さすがルヴルの姐さんっす! あたい、感動したっす」


「うん。本当に凄いよ、ルーちゃんは。もう立派な聖女様だよ」


 褒め言葉としては嬉しいが、まだまだ我は未熟だ。

 今だに回復魔術の深奥を掴めていない。

 いくつかの魔族と戦ったが、こいつらの圧倒的弱さ(ヽヽ)を治すことはできなかった。


 一体、いつになったら我は回復魔術を極めることができるのだろうか……。


「あの……。ルヴル様」


 ヴァラグが声をかける。

 そう言えばいるのを忘れていた。

 なんかこやつ、魔族の中でも一際影が薄いのだ。

 もっと派手な恰好をさせて、アピールしてはどうだろうか。


「ごめんなさい。別にヴァラグを忘れていたわけではないですよ」


「?」


「こっちの話です。まだ時間があるので、もう少し鍛錬をしようかと戻ってきました」


「左様でしたか。こちらのご学友も鍛錬に参加を?」


「とととと、とんでもない」

「ち、違います!」


 ハートリーとネレムは全力で首を振った。

 そこまで激しく拒否することはなかろうに。


「2人は見学です。構いませんね、ヴァラグ」


「ええ……。では、こちらに……」


 ヴァラグは、前に進むように案内する。

 一見、だだっ広い土地が広がるだけだ。

 何か施設があるわけでもなく、誰かがいるわけでもない。

 だが、ある場所から半歩踏み込んだ瞬間、景色ががらりと変わった。



「応!」



 裂帛の気合いが耳朶を打つ。

 その声にも驚かされ、ハートリーとネレムは仰け反る。

 そして目の前に広がる光景を見て、瞠目した。


 一見平原と思われたそこに現れたのは、峻険な山であった。

 その狭い足場の中で、男女問わず鍛錬に明け暮れている。


 ある者は大きな甕に並々と注がれた水を担いで山を登り、ある者は肩、肘、手、膝に水が入った皿を落とさずに中腰の姿勢をキープ、ある者は谷に宙づりにされたまま逆さ腹筋、指先に魔力を集中させて針の上で逆立ちしている者もいた。


 それぞれの額や身体に汗が滲んでいる。

 それどころか歯茎から血を滲ませていた者もいた。

 漂ってくる汗の臭いは、きつい鍛錬の証だ。


「る、ルーちゃん……」


「なんですか、ハーちゃん?」


「もしかして、この人たちみんな…………」


「ええ。魔族ですよ」


 我は笑顔で答えた。


 ん? なんでハートリーもネレムも、顔を青ざめさせているのだ。


「ざっと3000、いや5000人以上いるように見えますけど」


 今度はネレムが口を開く。


「そうですね」


「(国の一個師団に相当するじゃないか!? ルヴルの姐さん、何を考えているんだ? まさかこの魔族を持って、国に対して反旗を? 魔族の独立とか? 口では癒やすとか言ってて、裏では魔族を束ねて着々と反抗勢力をまとめるなんて。さ、さすがはルヴルの姐さんだ……)」


「ネレム? 何か言いましたか?」


「いえ! なんでもありません! ルヴルの姐さん、一生付いていきます!!」


 なんかネレムが思い違いをしてそうな気がするが、まあ良いか。


ネレムのルヴル像がまた大きくなっていく……。


本日は、拙作『叛逆のヴァロウ』のコミカライズの更新日となっています。

ニコニコ漫画、pixivコミック、コミックポルカなどで読むことができます。

12月15日に発売されるコミックともども、こちらもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] こうなって見ると、人間も魔族も変わらぬような気がする。 こういう視点で書くなろう作家は多い気がします
[良い点] なんだ?異世界に八極拳等の中国拳法に見られる騎馬式(もしくは馬式などとも)してるのがいるぅ! [一言] ある種の修行の定番なのかねぇ、思わず吹き出しました。 強い下半身を養い強い土台を作…
[一言] ネレムちゃんや。現場で聞いてたはずだけど、ルブル様は既にこくおーから自由にやっていいお墨付き貰ってるから、国に反旗を翻す必要はほぼないんじゃよ? もはや気にするべきは、国ではなく世界への侵攻…
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