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第1話 転生、3日前

6月25日ブレイブ文庫より発売!

『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第1巻!!


「さあ、回復してやろう」

すべての術理を修めた最強魔王様が、唯一極められなかったのは回復魔術だった。

回復魔術を極めるため、人間に転生した魔王様の勘違い学園コメディ!

イラストはふつー先生です!


挿絵(By みてみん)

 ん? なんだ、これは?


 我は覚醒した。

 重たい瞼をぐぐっと持ち上げてみる。

 だが、見えるのは暗闇だけだ。何も見ることができない。

 1つわかることがあるとすれば、ここが水の中であるということぐらいだろう。


 転生は成功したのか。あるいは失敗したのか。


 それすら我にはわからぬ。

 しかし、不思議だ。

 水の中にいるというのに、息苦しさをまるで感じない。


 事態を冷静に見極めようと、我はしばし黙考することにした。


『はあ……。はあ……。はあ……。はあ……。はあ……』


 激しい女の息づかいが聞こえる。

 それと共に水の中は激しく揺れた。

 随分と揺れる馬車があったものだ。

 いや、馬車ではない。


 ここはおそらく女の子宮(はら)の中だ。

 そして我は、その女の子どもなのであろう。

 転生は成功したようだが、どうやら我はまだ産まれていないらしい。

 まさか母親のお腹の中で目を覚ますとはな。


『奥様! お早く!!』


 母親とはまた別の声が聞こえてくる。


『わかっています』


 息を切らしながら、母親は言葉を返した。

 再び腹の中が激しく揺れ始める。

 母親が我を身ごもったまま走っているのだ。


 やれやれ……。

 転生早々何事だというのだ?

 我がついに転生を果たすのだ。

 花火とはいかぬまでも、喇叭(ラッパ)の用意ぐらいはしてしかるべきであろう。


 などと愚痴っても仕方あるまい。

 そもそも我がいつ転生するのかは、我すら知らなかったのだ。

 他の者が知っているとは考えにくい。


 このままでは埒が明かぬ。

 ともかく状況確認せねば。


 【念視(ザイン)


 我は透視する魔術を使う。

 生まれたばかり故、少々制御に難があるが、これぐらいの初歩魔術であれば、難なくといったところだ。


 【念視】で外を見ると、そこもまた真っ暗だった。

 どうやら夜の森を、身重の母親は走っているらしい。

 一体どういうことだ?

 まさか我が身ごもっている段階で、持久走というわけではあるまい。

 訓練を欠かさぬところは感心だが、臨月の母親がすることとしては、些か無茶が過ぎるのだが……。


 母親の蛮行に少々辟易していると、音が聞こえた。

 身を揺るがすような音に、木の上で羽を休めていた鳥たちが一斉に羽ばたく。

 直後、森が紅蓮に光った。


 炎息(ブレス)だ。


 巨大な炎が森を縦に蹂躙する。

 幸いにも我を身ごもった母親から遠く離れていたが、凄まじい威力だ。

 一瞬にして巨木が炭に変わる。

 熱風が腹の中にいても伝わってきた。


『きゃあああああ!!』


 母親の側付きと思われる老女が、悲鳴を上げる。

 腰を抜かしたらしく、その場に倒れた。

 その視線は森の木よりは遥か上に向けられている。


 炎息の炎によって、森は紅蓮に光っていた。

 その光に照らされたのは、巨大な魔獣――――。



 黒竜(ガラミッド)だ。



 竜種最強の魔獣。

 我も修業時代は何度も相手をしたものだ。

 最初は苦戦したが、最後は髪1本で倒せるようになった。


 竜の鱗は生物の中でも、特に硬いと聞いていたが、鍛えた我の髪には敵わなかったらしい。


 どうやら黒竜は母親を探しているようだ。

 よもや修業時代に散々倒してやった恨みを、ぶつけに来たのではあるまいな。

 獣の割には、頭が回るヤツである。

 褒めてやりたいところだが、手を伸ばそうにも我は母親の腹の中だ。

 これでは殴ろうにも殴れない。


『奥様、私を置いてあなただけでも』

『何を言っているのです! さあ、立ちなさい』


 全くだ。

 腰を抜かしたぐらいで置いていけなど。

 冗談も程ほどにせよ。


 やれやれ……。仕方ない。



 回復してやろう……。



 側付きがほんのりと光る。


『こ、これは? 回復魔術? 奥様、いつの間に魔術を学ばれたのですか?』

『私じゃないわ。でも、これは――――』


 母親は自分の腹を押さえるのがわかった。


 感心している場合か。

 早く逃げろ。

 このままでは死ぬぞ。


『奥様! なんだか私、すごく力が出てきました、失礼!!』


 側付きはシャンと立ち上がる。

 その溢れんばかりの筋肉を見せびらかすように、謎のポージングを始めた。

 すると、母親を軽々と持ち上げる。

 そのまま夜の森を疾走し始めた。


『え? ええ? あなた、いつの間にそんなにたくましくなったの? というか、いつの間にそんなに筋肉質に?』

『私にもわかりません。回復魔術を受けたら、力が溢れ出てきたのです』

『回復魔術に、そんな効果があったかしら』


 母親は首を傾げる。

 そういう疑問はいいから、とっとと走れ。

 向こうがこちらに気付いたぞ。


 黒竜(ガラミッド)の首がこちらを向く。

 大きく翼をはためかせると、巨体が浮き上がった。

 低空を維持しつつ、空から我らを追いかける。


『ひぃ! ひぃいいいいいいい!!』


 側付きは走る。

 遅い。

 回復魔術をかけたというのに、この側付きの動きの鈍さは何も治っていない(ヽヽヽヽヽヽ)


 折角、人間に転生したというのに、まだ回復魔術を極められぬとは。

 回復魔術の道は、なかなか険しい。


『まずい! 追いつかれるわ!! あなただけでも逃げて』

『奥方様を置いてなんて無理です。それにお子様もいるんですよ!!』


 全くだ。

 転生した直後に死ぬなど、笑い話にもならぬ。


 やれやれ……。

 黒竜に我が魔術をくれてやるのは、少々もったいない気もするが、致し方ないか。


 黒竜の口内が赤く染まる。

 再び炎息で周辺を焼き払うつもりだ。

 ふん。調子に乗るなよ。


 黒蜥蜴…………。



 【地獄焔(ヴェルファリア)】!



 腹の中から我は魔力を放つ。

 その瞬間、黒竜は黒い炎に飲み込まれた。

 自慢の炎息を吐き出すことなく、炎の中に溺れるように沈んでいく。


『ひぃいいいいいいいぎゃあああああああああああ!!』


 断末魔の悲鳴を嘶く。

 昔、何度となく聞いた末期の叫びだ。


 一瞬にして黒竜は炎の中に溶けていく。

 最期は跡形もなく、ただ黒竜の影が残るのみであった。


『な、何が起こったの?』

『さ……さあ」


 母親と側付きは、ただ呆然と見つめるだけだ。

 おそらく何が起こったのかすらわからぬのだろう。


 黒竜如きで手こずるとは。

 人間も相変わらず脆弱だな。

 以前よりも弱くなっているのではないか。


 ふわっ……。


 眠い。

 この姿で【地獄焔(ヴェルファリア)】は少しやり過ぎたか。

 一応加減はしておいたのだがな。

 本気でやれば、この辺り一帯消し飛び、我が母親をも巻き込みかねん。


 さて再び眠りにつくことにしよう。

 それまでのしばしの別れだ。


 母上殿……。


あと、もう1話投稿予定です。

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