表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/89

第8話 星空の下の奇跡

今日って祝日だったんですね。

頑張って、複数投稿できるように頑張ります。

引き続き応援よろしくお願いします。

「またね、ルーちゃん!」


「また明日。ご機嫌よう、ハーちゃん」


 我とハーちゃんは、寮の前で別れの挨拶を交わす。

 なかなか悪くない。

 学校から寮までの道のりは決して長くないのだが、それでも1人で帰っていた時よりも、ずっと何か身体の中が充実しているように感じる。


 魔王の時は天涯孤独だった。

 だが、我はそれを好み、むしろ徒党を組むものを冷たくあしらったこともあった。

 しかし、今我はそうした黒歴史を悔いている。


 友達、最高ではないか。


 だが、そうなると魔王も人間も欲が出るものだ。

 もっと色んな者と友達になりたい。

 我はそう思うようになった。


 そのためにはどうしたら最善か。


 首を捻りながら、学院から学院内にある学生寮に戻ろうとしていた時、我は道ばたで蹲る老婆を見つけた。

 見かけない顔だ。

 おそらく学院を訪れた来賓者であろう。


 我は学舎に残って、ハーちゃんと一緒に自習していたため、すっかり夕方だ。

 生徒はすでに学生寮に戻り、教官殿の姿もない。

 校舎はがらんとしていて、赤い夕日の光と細く長く伸びた我の影があるだけだった。


「どうしました?」


 我は駆け寄る。

 どうやら老婆は足をくじいたらしい。

 目が悪く、道の凹みに気付かず、足を踏み外してしまったようだ。


 老婆の足の容態を見て、我はピンと来た。


 仮に我が老婆の足を治せば、同窓の友の見る目を変わるのではないか、と。

 善行を積むことは人の信頼に繋がると、母マリルが以前言っていた。

 今回の機会だけではなく、同じような善行を積んでいけば、皆の見る目も変わってくるのでは、と思ったのだ。


「私がお婆さんの足を治してもよろしいでしょうか?」


「あなた? ここの生徒さん?」


「はい。まだまだ未熟者ですが」


「そう。じゃあ、お願いできるかしら」


 任された!

 我はふんと鼻息を荒くする。

 油断はできぬが、回復箇所はたかだか足の捻挫だ。

 この程度であれば、転生する前に幾度も治してきた。


 最高の回復魔術を施術してみせよう。


 我は手に魔力をためる。

 強く、強く、強く、時に禍々しいぐらい魔力が光る。

 その度に破裂音が鳴り響いた。


 夕闇が白く染まる中、老婆は我に質問する。


「あ、あの……。捻挫を治すのに、そんなに魔力が必要?」


「ご心配なく。すぐ立てるようにしてみせますよ」


「え? ちょ……。本当に…………?」


 手に十分の魔力を握り、我はいよいよ患部に向かって掲げる。

 狙いを定め、我はありったけの魔力を解き放った。



 さあ、回復してやろう!



 空が、大地が、そして我と老婆が、白く染め上げられる。

 膨大な魔力は回復魔術の餌となり、老婆を包んだ。

 完璧だ。

 寒気がするぐらいに……。

 我はそう確信した。


 やがて魔力の光が止む。

 再び夕闇の聖クランソニア学院の敷地に、我らは戻ってきた。


「これで治っているはずです」


「は~~あ……。びっくりした。足の怪我が治る前に、心臓が飛び出るかと思った。あ、ありがとう。回復魔術って随分と大げさなのね」


「すみません。ちょっと力が入りすぎたかもしれません」


「回復魔術っていうよりは、攻撃魔術みたいだったけど。じゃあ、よっ――――あれ、痛ッ!!」


 老婆は顔を歪めた。

 また足をさする。

 見ると、足の炎症は全く治ってなかった。


 む?


 あれ?


 もしかして……。


「あらあら……。治ってないみたいね」


「すすすすすみません。も、もう1度――」


「もういいわ。さっきのを見たら、今度こそ心臓が止まりそうだし」


 老婆はぼそっと呟く。


 くっ! まさか捻挫如き、治せぬとは……。

 油断? いや、違う。

 たとえ油断であったとしても、それもまた我が未熟だったということ……。


 捻挫だと侮った我が、未熟だったのだ。


「すみません。あのせめて家まで送らせてもらえないでしょうか?」


「家まで? でも、私の家――ここからだとちょっと遠いわ。馬車を使わないと」


「大丈夫です」


 我は軽々と老婆を背負う。


「あらあら。お嬢ちゃん、力持ちなのね」


「鍛えていますから。さあ、どこですか?」


「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えようかしら、あっちよ」


「わかりました。あっちですね」


 我は老婆を示した方を向く。

 ぐっと足に力を入れると、思いっきり跳躍した。

 高度は上がり、一瞬にして王都にあるあらゆる建物より高い場所に到達する。

 今にも、徐々に姿を現し始めた星に手が届きそうだ。


「ひゃああああああああああ!!」


 我におぶられた老婆が悲鳴を上げる。


「大丈夫ですか?」


「あ、あなた……。随分と高く飛べるのね」


「はい。鍛えてますから」


「今時の聖女はどんな鍛え方をしているのかしら。それにしても、綺麗ね」


 老婆は顔を上げる。

 夜空に浮かぶ星を見て、子どものような声を上げて感動していた。

 気持ちはわかるぞ。

 昔と比べて、随分様変わりしたが、それでも星々の輝きは、いつ見ても綺麗なものだ。


 しばし、我は老婆と一緒に夜空の星を楽しんだ。



 ◆◇◆◇◆



 ルブルは老婆を家まで送り届ける。

 家の前には、老婆の帰りを待っていた使用人が立っていた。

 老婆を引き渡し、ルブルは帰ろうとするが、寸前で止められる。


「あなた、名前は?」


「ルブルです。じゃあ、また。お元気で、おば様」


 ルブルは短く自己紹介する。

 スカートの端を摘まみ、優雅に一礼した。

 踵を返すと、そのまま風のように学生寮へと帰っていく。


 夜の闇に紛れるルブルを見ながら、老婆はあることに気付く。


 奇しくも新月の空に浮かぶ満天の星に違和感を覚えた。


「あら……。私、目が――――」


 と呟くのだった。


面白い、あ。そっち、と思った方は、

是非ブックマーク、下欄の広告下の☆☆☆☆☆評価をよろしくお願いします。

今ランキングにない面白い作品を模索してます。

どうかご支援いただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス10巻 11月14日発売!
90万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~

コミカライズ9巻1月8日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる⑨』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


新作投稿しました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
↓※タイトルをクリックすると、新作に飛ぶことが出来ます↓
『宮廷鍵師、S級冒険者とダンジョンの深奥を目指す~魔王を封印した扉の鍵が開けそうだから戻ってきてくれ? 無能呼ばわりして、引き継ぎいらないって言ったのそっちだよね?~』


ツギクルバナー

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] 目がぁぁぁぁぁぁぁあああ
[一言] そっちかいΣ( ̄□ ̄;)!
[一言] 四天王最弱から飛んできました! 新作始まっていたんですね!(^^)! 一気にここまで読んじゃいました。 炎の四天王(?)の決めゼリフがこれからも活躍しますように!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ