第6話:閃熱の矢
「何ッ!? 何だ、あの武器は? あんなもの、あの機体には内蔵されていないはずだぞ! ということは、まさか!」
自機の起動を待つ間にコックピットで一部始終を見たルーカスが目を剥いた。
同じ光景を、ダーキスとハインドは愛機の前で見ていた。
「火器ではないさ。あれは彼の力。ルーンドライブによって増幅された彼の魔導力だ」
「ええ。しかも彼のあの力は――」
「衝撃波か。このような偶然があるものか」
「ということはつまり、私達の見立ては間違っていなかったということですね」
ハインドの口端が吊り上がった
ダーキスの顔は仮面に隠されているが、その下はハインドと似た表情のはずだ。
「ああ、間違いない」
と頷いた後で、感慨深そうにつぶやいた。
「ようやくだ。ようやく見つけた。やっと君に会えたな……」
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「ライ、あの機体!」
「あれは、俺のFAをスクラップにしたやつ!」
ロザリーに誘導されていたライとユファは、憎き白騎士の姿を見つけて足を止めてしまった。
しかしそれは、スクデリアを撃破したジェイドナイトである。
「でもちょっと姿が違うわ。それに白いのはもう一機ある」
「本当だ。でも何で味方同士でやりあってるんだ?」
ロザリーは事情を察していた。
「あれに乗っているのは多分、二人の友人だよ」
「カズト? カズトがあの白いFAに乗ってるの?」
「冗談はよせよ! あいつFAを動かしたことなんてないぜ!」
「それより今のうちにアタシ達も逃げるよ。こいつに乗りな」
ロザリーは困惑する二人を停めてあった軍用車両に押し込む。
わき目でジェイドナイトを見やりつつ実務的で平静を装うロザリーだが、内心はそうではなかった。
(面影があるだけじゃなかった。似てるだけじゃなかった)
ロザリーの心は歓喜と郷愁と憧憬に占められていた。
(魔導力も使えるとなると、やっぱりあの子なんだ)
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「ええい、抑えるなどと考えたのは甘かったか! この際破壊して構わん!」
ルーカスが指示を出すと、指揮下のゼクトリアがジェイドナイトにマシンガンとキャノン砲を向けた。
だが次の瞬間に銃撃を受けたのはゼクトリアの方だった。
「何だっ? 建物の中から!?」
とっさに防御したゼクトリアは驚愕した。味方機であるスクデリア二番機が自分を撃っていたのだから。
「まさかあれもか?」
その通り、それは正規のパイロットが搭乗しようとしているところを、アランが掻っ攫ったのだった。
「やはりアイリシア系は身体に馴染む」
「アラン? そいつに乗ってるのか?」
その時ゼクトリアが体勢を立て直し、再びジェイドナイトに攻撃を仕掛ける素振りを見せた。
しかしカズトのほうが早い。
「どけえぇっ!」
今度は距離がある。ジェイドナイトは銃器を持っているかの如く右腕を敵機に向け、弾丸のごとく波動を撃ちだした。
波動弾はゼクトリアのシールドごと左腕を吹き飛ばし、さらにそこにおまけのアラン機のマシンガンが襲い掛かり、ゼクトリアを破壊した。
「よし、今のうちだ。ついて来い!」
「ついてくったって、どこに……」
「早くしろ。次が来る」
ロザリーの運転する車両を先頭に、ジェイドナイトとアラン機が続き、陣地から離脱していく。
「貴様らあっ!」
配下のFAを二機も破壊され、ルーカスは怒りに燃えた。
しかしそれは、部下を心配してというより、己を愚弄された気がしたゆえの怒りである。
ともかく逆賊を逃す気はなく、愛機を起動させて追いかけようとしたその時だった。
前方の空がきらりと光ったかと思うと、そこから陣地建屋に向けてビームが一直線に伸びてきた。
「なっ! 閃熱兵器だと?」
ビームは命中こそしなかったが、天井をかすめてガラガラと崩していく。
「うわーっ!? 潰される?」
その下では兵士や作業員が右往左往していた。
「ちっ、仕方がない!」
白騎士が左腕の盾を掲げ、足元の人間達に瓦礫が降りかかるのを防いだ。
「貴様たち、無事か?」
「はっ、はい! 何とか。ありがとうございます、ルーカス様!」
「ええい、奴らの仲間の援護射撃か! しかし閃熱兵器などと、まさか彼奴等の背後には……?」
ルーカスの頭に、いやな想像が湧いた。
しかし考えている暇もなくビームは次々に襲い掛かる。
ただしビームの雨は無限に続くわけもなく、一旦砲撃は止むものの、ルーカス達が足を止められている間に逆賊との距離が広がっていた。
「このままみすみす逃がすものか! FA隊! 出られるものは全てついて来い! すぐに逆賊を追うぞ!」
ルーカス機を先頭に、三機のFAが続くが、隊にはあと二機FAがあった。ルーカスはそのパイロットにも命令する。
「ダーキス、ハインド! 貴様達もだ!」
「やれやれ。命令される立場ではないんですが」
「ルーカスの尻拭いが今回の私達の仕事だ。一応行ってやろう」
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「このビームはいったい?」
肉眼では見えない遠方からの攻撃に、カズトは思わず驚く。
「ウチの団のリーダーの狙撃さ」
「今のは誰だ?」
聞き覚えのない少女の声にまたも驚く。
「俺が雇った傭兵団のメンバーだ」
アランが平然と答える。
「傭兵団ウェンスデイムーンのロザリー=ブレインだ」
「ロザリー……?」
少女の名前をカズトは無意識につぶやく。
何かが引っかかる。しかし状況は考えている暇を与えてくれない。
「ライとユファはアタシが保護してるよ」
ジェイドナイトのモニターの隅に、ロザリーの運転する車両と、後ろの席でこちらを見つめるライとユファの姿が映った。
この状況への様々な疑問や納得できない点はあるが、カズトはひとまず安堵した。
その時、ジェイドナイトのコックピット内部にアラーム音が響いた。どうやらロックオンされたらしい。
しかしそこへ、また一発二発とビームが飛び掛かり、陣地をかすめていくと、警告音は収まった。
「それで、いったいどこへ?」
「ひとまずウチのリーダー達と合流する。先導するからついて来て!」
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陣地跡の一帯からさらに北方にある丘陵地帯。そのうちの一つの頂に、グリーヴの操るマーベリックが狙撃手の如く潜んでいた。
構えるのはただのライフルではく、FAの身長を軽く超える長大な砲である。後方からはチューブが伸び、その先には、FA数機分の大きさはある大型キャリアがあった。
「マスター、こちらのジェネレーター出力が40%低下、エナジースマートガンの発射はしばらく不可能です」
そのキャリアのブリッジにいるエオリアから、グリーヴに通信が入る。
「むう、そうか。向こうの状況はどうだ? あいつらは逃げ出せたか?」
「ええ、きちんとこちらに向かっています。もっともあちらさんもですけれど」
「まあ、あいつらに当てちゃったりしないように気を遣っていたからなあ。で、連中のほうの数は?」
「FAが全部で四機……いえ、もう二機増えました。速度からすると、ロザリー達がここに来る前に接触してしまいます」
「よし、わかった。ここからは接近戦だな」
そう言うとグリーヴはスマートガンをキャリアの格納庫へと放り込んだ。
「じゃあ迎えてやるか」