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魔導騎装のソニックファング  作者: 恵二/KG
第一章「覚醒、そして発動」
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第5話:翡翠の騎士

 ライたちの押し込められている部屋のドアが唐突に開け放たれ、完全武装した兵士が二人現れた。

 捕虜の監視をしに来たにしては物々しく、二人が身を強張らせる。


「ライ、ユファ。無事か」

「えっ?」

「俺だ」


 兵士がヘルメットを脱いだ下から、よく知る赤毛の男の顔が現れた。


「アランさん? なんでこんなところに?」

「もしかして助けにきたとか?」

「その通りなんだがね。お前達だけか? カズトはどうした?」

「わからない。同時に捕まったのに、あいつだけどこか別の所に……」

「そうか……」


 話をしながら、アランは二人の枷を解いていく。


「よし、俺はカズトを探す。お前たちはこの人と一緒に脱出するんだ」


 アランはもう一人の兵士を指した。


「えっ、誰だ?」


 それはライとユファの知らない人物だったが、見たところ自分と同年代の女性であることに驚いた。


「ロザリーってんだ。よろしく!」


 女性はバイザーを上げて素顔を見せると、笑って名乗りながら、二人に拳銃を手渡した。


「えっ? なんでこんなものを」


 ライは目を点にする。


「身を守るためさ。アンタ達も自警団の端くれ、撃ち方はわかるよね?」

「そりゃ、習ってはいるけどさ……」


 映画で見るシチュエーションではあるが、燃え上がるような感情は、ライの心には特に湧かなかった。


     +


 アランが居住区にたどり着いた時、カズトは気絶したままだったが、アランが何度か呼びかけると目を覚ました。


「ううっ……? ア、アラン!?」

「本当に無事だったか」


 アランは胸を撫で下ろすが、すぐに気を引き締め、手元から護身用の拳銃をひとつカズトに渡した。


「ここからずらかるぞ。ついて来い」


 カズトはその言葉に頷き、アランの誘導に従って陣地内を駆けていく。

 しかしその進路は、このまま外かライ達の所へ向かうのだとカズトが予測したのとは違っていた。

 二人が階段を登り、タラップを駆け、時折遭遇する兵士を無力化しながら向かったのは、FAの駐機場だった。


「カズト、そいつに乗れ」

「え? そいつって?」


 アランが顎で示す先には、白い騎士型のFAがあった。

 ただしそれは例の白騎士とよく似ているものの、差し色が翡翠色で、各部の形状に微妙な違いがあった。


「乗れって、つまり?」

「頂くのさ」

「何を言ってるんだ? さっさと逃げ出したほうがいい。それで領主の所でアイリシアの無法を訴えて――」


 カズトの提案は至極優等生的であったが、アランはそれを否定する。


「無いな。領主にアイリシアと本格的に敵対する度胸はないし、そんなことをしたところで無駄だ」

「無駄って……」

「早くしろ。敵が来る」

「そんな無茶な。大体俺はFAの教習なんか受けていないし」

「FAは、だろう?」


 アランは意味ありげに笑いかけて、カズトを白いFAのコックピットに放り込むと、自分は別の場所に駆け出した。


「ちょっと待って! どこへ行くんだ?」

「サポートがいるだろう? 俺は俺で使い慣れたのを貰う」

「もう滅茶苦茶だ! こんなもんに乗せられたって! 操作も起動方法もわかるはずが――」


 カズトはコックピット内部を見回して愚痴を言う。

 だがその時に妙な感覚を覚えた。デジャヴとでもいうのだろうか。


(……わかってしまう?)


 戸惑いを覚えつつも、既視感のままに、カズトはほぼ無意識にコンソールを操作していく。

 すると足元からズウンと振動が響く。機体の腹に埋め込まれたエンジンが起動し唸りを上げたのだ。

 それに伴い正面のモニターや計器が灯り、こんな情報が映された。


【Wizard Armor Type-04 "Gladius" / Unit.02 "Jade Knight"】


「ウィザードアーマー……、翡翠の騎士か、いい名前じゃないか」


 カズトはそう呟くと、自分の気分が高揚していることに気づいた。


「もう、なるようになれ!」


 高まった気分のままに、そして若干やけくそ気味に、カズトはフットペダルを踏みこんだ。

 翡翠の騎士はそれに応えて一歩一歩、しっかりと歩み出した。

 その様子を外から見ていたアランは満足気な表情を浮かべた。


     +


「ジェイドナイトが動いているだと!?」


 緊急事態の報を受けて私室を飛び出したルーカスは驚愕した。

 ジェイドナイトは本来ルーカスの搭乗機として持ち込んだのだが、トラブルのために起動に手間取り、代わりに予備機である“白騎士”ことグラディウス・スタンダードタイプを使っていたのだ。

 故に目の前で自分用の機体が、自分なしに動いていればそういう反応にもなる。


「誰だ? ダーキスかハインドか?」

「それがその……」


 伝令に来た兵士の歯切れは悪い。


「乗っているのは部外者ですよ。強奪というやつです」


 いつの間にか現れたハインドが代わりに答えたが、どこか暢気さがあった。


「何だと? 一体どういうことだ!」

「どういうこともこういうことも、少年達を奪還しに来た侵入者が、ジェイドナイトに少年の一人を乗せて――」 

「何? あいつらだと? お前が拘束していたはずだろう! 一体何をしているんだ!!」

「申し訳ありません」


 もっともな指摘にハインドはしおらしく返事をするが、若干わざとらしかった。


「私の機体は動かせるか?」


 詰問はそこまでにして、ルーカスは愛機の整備状況を整備員に聞いた。


「装甲の取替えだけで済みましたので、いけますが……」

「ならば良い」

「出るんですか?」

「当たり前だ。このような時に出ずに、魔導騎士が名乗れるか!」


 威勢良く吠えると、ルーカスはヘッドギアを装着する。




 一方その時建屋の外には二機のFAがいた。

 一機はアイリシア軍の主力機【スクデリア】でフレイ中尉が搭乗し、もう一機の砲撃戦仕様機【ゼクトリア】を従えて周囲の警戒に当たっていた。

 しかし彼らの注意は完全に外側に向いており、自分達の陣地内部で何が起きているか、彼らは知らなかった。


「ええい! まだ動きはないのか?」


 フレイは苛立ちに耐えかねて愚痴をこぼす。


「敵は姿を見せんのか!」

「それが、まだ捉えきれません」

「ふーむ、敵襲というのは取りこし苦労だったか?」


 何もないならそれでいいのだが、気を張らせておいて面倒だと愚痴は言いたくなる。

 その時建屋の方から1機FAが歩み出てきた。


「ジェイドナイト? トラブルは解決したのか。搭乗者はルーカス殿か。いったい何事か?」


 確認のために呼び掛けるが、ルーカスの返事は別の所から返ってきた。


「フレイ中尉! ジェイドを止めろ!」

「どういうことでありましょうか?」

「私はスタンダードの方だ。ジェイドは奪われた!」

「何ですと? それは一体どういう――」

「説明の暇はない!」

「はあ、了解いたした。おい、貴様も手伝え」


 フレイは僚機と共にジェイドナイトの前に立ちはだかる。

 ものがものだけに火器や刀剣の使用ははばかられたので、二機がかりで空手で抑えにかかり、激しくタックルをかました。

 ゴウンと激しい衝撃が、ジェイドナイトの中のカズトを襲う。


「おわっ……がっ!?」


 激突の勢いでジェイドナイトは後方の壁に激突した。壊れかけの施設の壁だが、要所要所に補強は入っており、一気に崩壊するようなことはなかった。

 しかし衝撃はコックピット内部を襲い、衝撃吸収用エアバッグは働いたが、勢いあまってカズトはゴリっと唇を噛んでしまった。

 口元から流れた血を拭うと、カズトの苛立ちは頂点に達した。


「こっちはいろいろと……ムカついてんだよ!」


 自分達を策謀に巻き込んで日常を奪い、更にまだ何やかんやと企てる連中への怒り。

 その感情に任せて、ジェイドナイトが鉄拳をスクデリアに向け振るった。

 スクデリアは盾を掲げてそれをガードしてしまうが、カズトは拳を引っ込めない。


「何がアイリシア魔導騎士団だっ! お前達なんかが、おこがましいんだよ!」


 カズトは吠え、そのまま拳を押し込んだ。機体のパワーの差だろう、ジェイドナイトがスクデリアを押し返す。

 しかしそれだけではない。

 突き上げた拳とカズトの怒り、そしてジェイドナイトに搭載された装置が、カズトに潜在する“能力”を呼び覚ます。

 ジェイドナイトの双眸が輝き、機体に張り巡らされた回路を“力”が駆け巡り、振り上げたままの右の拳に集った。


「うおおおおおおおっ!」


 咆哮と共に右腕から“能力”がほとばしり、衝撃波の牙へと変わって、スクデリアの左腕と首を食いちぎり、胸部の装甲を噛み砕く。


「ば、馬鹿なあああぁぁぁぁ!」


 フレイの断末魔のような叫びとともに、スクデリアは力なく仰向けに倒れこんだ。


挿絵(By みてみん)

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