最強の女騎士だった私は後輩に全てを奪われる。
この小説を読んで面白かったら、感想をお願いします。何かしらダメな点を挙げていただくと今後の執筆の参考にさせて戴きます。
私は端的にいえば最強だった。
この国において、私より強い者は居なかったし、私より地位が高い者も一部しか居なかった。だから、私はみんなから恐れられる。魔物に襲われている村を助けた時でさえダメだった。
そいうのは物心ついてからなのでいい加減慣れてしまったが、それでも思うところはあった。しかし、そんな私にもつい最近婚約が決まった。相手は私が通っている学園の同級生であり、この国の第二王子だ。
そんな人と婚約を結べたのは、たった1人の大親友である後輩の尽力があってのことだ。そして、第2王子と私が付き合い始めた切っ掛けは些細な所からだった。
「「あっ」」
突然何かに手がぶつかる。その瞬間横を見る。すると、その人はこの国のトップに君臨している一族の1人だった。いつも周りが人で囲まれている彼がたった1人でこの人気のない図書館に来ることに、珍しさを覚えながら、私は無言で立ち去ろうとした。
───パシッ。
「まって!!!」
咄嗟のことで一瞬手が出そうになる。
「あっ、ごめん。いきなり手を掴まれて迷惑だったよね…?でも、この作家のファンに出会えたのは初めてだったんだ!!この人の小説面白いのにあんまり有名じゃなくてさ…。せっかく同じ趣味の人に会えたんだ。だから語り合いたいんだ!ダメかな…?」
その人は必死そうに語りかける。私は他に借りてた本を早く読みたくて、断ろうかと思ったが、いつだったかの後輩の言葉を思い出す。
『センパイはさ、そんなに美人なんだからもっと交友関係広げないともったいないですよ?いつまでもボッチなままだと、やっぱり心配ですから。』
あの子に心配をかけ続けるのは申し訳ない。それに、私を怖がらずに話しかけてくれたことに少しはお返しをしたいと思った。
「はい。分かりました。」
返答をした瞬間、さっきまで真っ赤で泣き出しそうだった顔が喜びに変わっていく。
その後は喫茶店で語り合い、次の約束まで決まっていた。そんな感じで2人で会ってるうちに、私は彼と会うのが楽しくなっていった。そのことを後輩に話すと、
「きっと恋ですよそれーー!」
いまいちピンとこなかったが、後輩は人間関係は百戦錬磨といつも言っていたし、そんな後輩が言うのならそうなのだろう。
私は後輩に相談に乗ってもらいながら、彼との仲を深めていった。彼女は交友関係が広く色んな付き合いがあると思ったので、今まではしつこく会いにいくには迷惑だと思ったが、彼女曰く恋の相談は全てに優先されるらしので、遠慮なく休み時間や休日にも家まで行って相談をさせてもらった。そしてただ、仲を深めていく中で彼女はどんな手段も選ばないと言ってた割に、キスとそれ以上だけは禁じていた。
「ダメです!!先輩は結婚するまでぜーーーったいやっちゃいけません!」
そういうもんなのかと聞いてみるとそういうもんだとしか答えなかった。そそんなこんなでおよそ1年半。
たった1年半で、婚約まで決まってしまった。そんなこんなで、とうとう私に学園卒業の時が来た。
毎年恒例の卒業パーティー。私達は卒業パーティーのときに婚約発表を行うことになった。
そして当日。問題なく、パーティーは進行していきとうとう婚約発表の時が来た。私達はパーティー会場の北側にある、壇上に登る。上から見た時に最も来て欲しい人の姿がないことに気付く。少し残念だったが、交友関係の広い彼女のことだ1、2年生は自由参加のパーティーには来ていないのだろう。気をとり直して、婚約発表に意識を向けた。
「今から、君達に発表がある!この中に気づいている者も多いだろうが、私とここにいる彼女の婚約についてだ!」
私は彼の言い方に違和感を感じた。婚約についてとはどういうことだろうか。この場は普通に婚約を発表して、終わりのはずでは?そんな疑問に答えるかのように彼は口をひらいた。
「私は、彼女との婚約を破棄する!!!」
どよめきがひろがった。彼の言う通り、私達の婚約に気付いていた者は多かったようだ。それなのに、突然の婚約破棄。驚くのも無理はない。私も驚いている。何に?それは突然の婚約破棄にショックを受けていない自分自身にだ。薄々勘付いてはおり、気付かないフリをしていた問題にぶつかった。
私は彼に恋をしているフリをしていた。違う。そうじゃない。私は人並みの恋をしているフリをしていた。おおよそ人を逸脱してしまったが唯一人のフリが出来たのが恋だったのだ。
そんな自分の心の内を暴いていく私を無視し、王子は続けた。
「そして、真の婚約者は彼女だ!来てくれ!」
そして私達が出てきた方とは反対側から出てきた人物を見て、私はこのパーティーで口に入れた物を全て出してしまいそうになった。
「驚くのも無理はないだろう。何故、外務大臣の娘であり私の元婚約者の唯一の友人である彼女が私の婚約者なのか!それを今から語らせてもらう。」
そこに居たのは、私の後輩だった。人外と恐れられ、誰からも歩み寄られず、ただ灰色だった私の青春を明るくしてくれた人。本当の気持ちを自覚してしまった時は手遅れだった。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
気付いたら家に戻っており、自分の部屋に居た。私は部屋に篭り、誰とも会わなくなっていった。そして、それから3週間が経った。
走馬灯のように駆け巡る日々。初めてはいつだったか。気が付いたらそこに当たり前に居て私の世界のなくてはならないものになっていった。気づかされる醜い独占欲。彼女が誰かと一緒に歩いている度に針で突かれたかのような感覚があった。私が、王子の話をしてもなんてことなさそうに聞く彼女に苛々した。全てはこの感情に繋がっていたことに、気づかされる。
きっと私は彼女にどうしよう、恋をしていた。
だが、この気持ちは迷惑だ…。私のような化け物が近づいたら、彼女の幸せを壊してしまう。彼女だけじゃなく、彼女が大切にしている人彼女を大切にしている人の幸せまで壊してしまうかもしれない。私のような化け物より、この国でトップクラスの権力を持つ彼の方は幸せにしてやれる。私は邪魔者だ。いっそのこと1人で消えてしまおう。
─────カサ
ドアの隙間を紙が通り抜けるような音が聞こえる。
ドアの方を見てみると、手紙があった。私はそれを開いて、中身をみる。
送り先は隣国からだった。どうやら私は、この3週間の間に悪魔にでもされているらしかった。あの場で王子が何か言った結果だろう。だが、否定は出来ない。好きな人を抱きしめただけで、壊してしまいそうなこの体は悪魔でも間違ってはいない。どうやら私を保護したがっている様子だったが、このまま悪魔としてこの国で、逝くのも悪くないと思えた。幸い両親は5年前に亡くなっている。私を人間扱いしてくれた数少ない人の両親が悪魔の親と罵られないのは安心だ。ここまで私を支えてくれた執事達やメイド達の再就職先も早く決めなくては。そんな風に考え始めた時だった。私は手紙の文字に違和感を覚える。それはとても見覚えのあるような字だった。それに気付き始めたら、止めようがなかった。
理由がない。そんな義理もない。でも彼女の親の立場を考えると可能な気もしてくる…。何故?
なんのために?さっきまで死のうと思ってた私の思考は彼女の意図を探るのに全力だった。
もし、彼女が私を嫌いになって、離れたんじゃなく、何か考えがあってのことだったら?
そう思うと途端に会いたくなった。身勝手な自覚はある。本当に彼女のことを考えるなら身を引くべきだ。
でもこの気持ちに決着をつけてからでも遅くはないはずだ。体は自然と1年半の間に通い詰めた彼女の自宅に向かって行った。
──走る ──走る ──走る
気がつけば、彼女の部屋である2階の窓向かって思いっきり蹴りをたたきつけていた。
勢いのまま部屋で読書をしていた彼女に倒れかかる。咄嗟に手で口を塞ぎ、声を上げさせないようにする。
彼女は慌てていたが、私だと分かると落ち着いていった。ジェスチャーで声を上げないと合図したので口から手を離す。
「この手紙はどういうこと?」
簡潔に聞きたいことだけを聞く。彼女は一瞬表情が固まった後、答える。
「はぁ?知りませんけど。そんな手紙。そんなことより、ご苦労様でした〜。私のために、あんないい男紹介してくれて!先輩の後輩だって言ったら簡単に警戒を解いてくれて、攻略しやすかったですよ。」
その反応で全て分かった。彼女は嘘をついている。善良な彼女は嘘をつき慣れていない。声が微妙に震えているし、手紙のことを聞いたときに表情が固まったのが何よりの証拠だ。私はそれで満足だ。私を嫌って離れたのならわざわざこんな手紙は送らない。きっと悪魔と世間から罵られている私を助けるために、親の力を借り、他国へ逃がそうとしてくれているのだろう。そんな彼女の真意を読み取り、私は彼女にしっかり向き合う。
「ねぇ聞いて欲しいことがあるの。」
「なんですか?恨み言ならいくらでも聞きますけど。どうせ何言ったってあなたが国民みんなから嫌われていることには変わりないし、私が悠々自適な生活を送ることには変わりないんですから。」
「そうじゃないの。貴方にお礼を言いたいのは。」
「お礼?」
「そう。お礼。王子と仲良くなるための相談に乗ってくれてありがとう。
私を怖がらないでくれてありがとう。 私の青春を照らしてくれてありがとう。3年間私の友達でいてくれてありがとう。私の後輩でいてくれてありがとう。そして私に恋を教えてくれてありがとう。
3年間ずっと貴方のことが好きでした。」
私の彼女に対する、積み重ねた重いを余すことなく伝える。彼女のこれからを願うように、これまでに感謝をしながら。
そんな私の言葉を受け、我慢してきたものが吹き出たように彼女は叫んだ。
「なんで…。そんなこと言うんですか!私は貴方の全てを奪ったんですよ!!地位も名誉も婚約者も!貴方に命を救ってもらいながら!」
「ううん。貴方は私から奪うどころか、私が欲しかった物全てくれた。私に可愛らしく甘えてくる後輩。化け物として頼るんじゃなく、人として対等に助け合える友達。全てを投げ出しても構わないと思える恋。全部全部貴方がくれた。私の全ては貴方がくれたんだよ。それに貴方のすることなら事情があるはず。それを教えてくれないかな?」
「私にそんな風に言ってくれるんですね…。わ分かりました。言い訳にしかならないけど、全部話します…。
半年前くらいの時だったんです。たまたま王子のクラスの前を歩いてたら、聞こえてきて、そ、それで。王子が先輩に近づいたのは、力をり、利用して第一王子に勝つためだって。わ、私なんとか2人を引き剥がさなきゃって、ほ、本当にごめんなさい…。」
嗚咽混じりに彼女は語ってくれた。全ては私のためだった。それだけがどうしようもなく、頭を駆け巡る。
泣き続けている彼女を見て、思わず抱きしめる。化け物のような力を持ってしまった私だけど、力強く抱きしめることはできないけど、人間らしい恋を教えてくれた彼女には人間らしく、抱きしめることはできた。
「ねぇ。せっかくだから返事を聞いてもいいかな?」
「なんのですか…?」
「告白の。」
「私で良いんですか…?」
「貴方じゃなきゃいけないの。」
「私も、4年前故郷を助けて貰った時から、ずっと好きでした。」
「そっか、そんなに前から思ってくれたんだ。」
私は彼女の思いがけない告白につい笑みを浮かべる。そして私は彼女にある提案をする。
「先輩!早く船出ちゃいますよ!」
「今行くね!」
私達は今魔物を退治しながら、世界中を旅している。もともと外務大臣の娘である彼女は世界に強い関心を持っていたし、魔物の被害が広まっているので少しでも平和を取り戻すのにちょうどいいだろうと提案したことだった。
「ねぇ次はどこ行こうか?」
「そうですねこっから北のとこなんてどうですか?」
そんな会話をしながら船に揺られる。
私は彼女にひとつだけ嘘をついた。私は彼女に何も奪われてないと言ったが、彼女に奪われたものがあった。
それは───
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