訓練訓練、ときどきクエスト
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※豆知識
この世界の通貨は『金貨』『銀貨』『銅貨』が使われています。
銀貨は銅貨100枚分で、金貨は銀貨100枚分です。
(これはただのコラムみたいなもんです。次から本編に移ります)
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それから、1週間が過ぎた。
テコナはクエストを受けまくり、それに合った報酬をコツコツと貯めていた。
頑張るテコナを見て、ジンタローの加工屋魂にも火がついた。
自分が旅立ってしまうと加工屋がいなくなってしまう。ならば、今のうちに彼が最高の道具を作らなければならない。
テコナもクエストの合間を見つけては、ジンタローと剣技の練習をしていた。
元から戦闘トレーニングをしていたジンタローはやはり強かったが、テコナもなんとかついていった。
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「てぇぇぇぇりゃぁぁぁっ!」
「ほいっ…と!」
テコナの気合の入った木刀の一撃を、ジンタローは難なく防ぐ。
「まっ、まだまだぁっ!」
「そいでもって…そりゃっ!」
ジンタローはさらに繰り出される攻撃を弾き、軽く木刀をテコナのおでこに優しく叩きつけた。
こつん。
「あっ…また負けた…」
テコナはうなだれる。やっぱ強すぎでしょ、ジンタロー…。
実践的な練習を積むのが1番だ!と言うジンタローのアイデアで、こうしてトレーニングしている。
「そんなツラすんなって!たったの1週間でこんなに行けたら上等さ!それに、どんどん剣さばきに磨きがかかってるぜ!」
ジンタローはけらけら笑って言う。
「うん…そうだね!」
テコナも顔を上げる。自分では感じなくても、ちょっとずつでも成長してるんだ。こんなところでめげてはいられない。
いつかの為に、今はキツくても耐えるんだ。
よし、さっきの反省は、体勢が前のめりになりすぎたってことだ。テコナは反省点を頭に入れる。
「よっしゃー!ジンタロー、もう一回!」
「うし、かかってこい!」
バッと立ち上がったテコナに、ジンタローがニッと笑う。
「せりゃー!」
「おっと!…やるな!へっぴり腰が改善されてる!」
「へへっ…私だって、成長するんだからね!」
「言うようになったじゃん!だけど…」
ジンタローは最初こそ弾いていたが、次第にひょいひょいと避け始めた。あ、当たらない…。
そしてやっぱり、頭に優しく、
こつん。
「い、痛い…」
木刀だもの、1回目は我慢できたが、やっぱ痛かった。
「こいつはマジな話な。次の課題、攻撃がワンパターンすぎ」
「ゔっ…」
それは最近自覚していた。戦いになると、どうしても冷静な判断が出来なくなり、無理やりになってしまう。そして結局、縦横振りのどっちかしか出来なくなるのだ。
「流れるように剣を使える奴は強いっておいちゃんが言ってたぞ!オレは剣使わないから分からんけど…ほら、弾かれた反動を力で無くすんじゃなくて、そのまま逆回転とかに利用してみたら?って、難しいか!」
ジンタローは「やっぱ忘れて」なんて言っているが、次やってみよう…テコナはそう考える。
なんとなくだが、できるような気がするのだ。
「オレ達は、旅に出るんだろ?じゃあ、今頑張らないとな!」
「そーですね、先生!」
「絶対出る!だから頑張ろうぜ!」
「うん!」
「でも、今日はこれからクエストだから、続きは明日だな」
「…はい」
「よし、じゃあ行くぞ!」
そう言ってジンタローが荷物を担ぐ。な、なんで?
「へ?」
「もうこっちは金貯まったし、テコナの金策付き合うよ」
「本当に!?」
「ああ、もちろん!」
ジンタローはやはりニッと笑う。だが、ジンタローの強さは本物だ。
ありがたいったらありゃしない!
「あ、それじゃあ、代金のご相談なんですが…」
「…えぇっ…」
「冗談だよ」
ジンタローはそう言って笑うが、最近こんなことが多い。
ジンタロー…もしかして、本性現した?
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「エルダーウルフの討伐って…どうするつもりだったんだよ?」
イルカ森林に二人でやってきてクエストの内容を知ったジンタローは、呆れた声を出した。
「いや~…ジンタローにもついてきてほしいって頼もうと…」
「まぁ良いんだけどさ、ちょっとノープランすぎやしないか?」
「あ、あはは…」
そんなことを言いながら、森の中を歩いていく。
エルダーウルフは森林を縄張りにする気性の荒いモンスターだ。
普段は森の奥に群れを率いて生活しているので人間との関わりは無いのだが、群れを追い出された個体は人里近くまで侵入するので、自治体の長などから討伐依頼が出ることが多いらしい。
この依頼は商店のトモトからの依頼で、最近外に出た村人が続々襲われ、重傷を負う者も出てきたので何とか討伐してほしいとの事だ。
しばらく時間が空いた後、とある池にやって来た。
ジンタローは知らないが、テコナが異世界転移して来た所だ。実はテコナ、朝起きたらなんかこの池にいたんだよね。
野生のシカやヤギ、その反対側では小さなオオカミ2、3匹が喉を潤している。
「おおっ、のどかだなぁ…水遊びでもするか?」
「冗談だよね?で、でも…どうしても私の水着姿をみたいって言うなら…」
顔をほんのり赤くして、ほっぺに手を置きクネクネするテコナ。顔もスタイルも良いのに、第三者が見ると誤解を招くだろうほど気持ち悪い…。
そんなテコナが偶然視界に入って無かったジンタローはキョロキョロ辺りを見回し、ため息をついた。
「残念だがテコナ、ここいらにはエルダーウルフは見当たらないなぁ。他の場所に…」
と言いかけたジンタローだったが…
ふと何かを察知して身構えた。
ザワザワと森が揺れている。
「やめてよ…そんな急に言われても…」
「テコナっ!静かにしろっ!」
「は、はひぃっ!すいません!」
完全に自分の世界に入っているテコナを、ジンタローが呼び戻した。
「ど、どうしたの?」
「とにかく隠れよう!」
二人は近くの木の影に身を潜め、池の様子を伺った。
数秒後…。
ガサガサ、パキポキっ!
「ぐるるるるるるる…」
全身が茶色っぽい色に覆われた、3メートルはありそうな巨大なオオカミが、森の奥から現れた!
「ジンタロー…あいつが!?」
「そうだ、エルダーウルフ!」
小声で話し合う二人。
エルダーウルフは池のそばまでやって来て、首を傾げて辺りの様子を確認した。
そして、池の水をごくごく飲み干す。
「だ…大丈夫かな、前みたいに食べられたりとかされないかな…?」
「そこは大丈夫だよ。エルダーウルフの主食はキノコとかなんだ」
「よかった…」
「でも、縄張り意識が強いから、準備してない時は関わるなよ。下手に刺激すると爪と牙で八つ裂きにされるぞ」
「それ、戦う前に言わないでくれます!?」
青ざめるテコナを完全無視、ジンタローは
「後ろから奇襲をかけよう。その方がゆっくりと弱点を狙えるから…」
そう言いながら、そろりそろりと近づいていく。
テコナもそーーっと後に続くが…
なんか、鼻がむずむずする。
(ちょっ…!こんな時に…!?)
テコナはしばらくは我慢できたんだけど。
「ふぇ…ふぇぇ…」
「!?」
ジンタローがギクリとした顔でテコナを見る。
「ふぇぇぇぇっくしょい!」
エルダーウルフが、ぬっとこちらを向いた。