ガントレットの本領発揮!
「おっ!テコナ!無事だったか!」
テコナの目と鼻の先に、自分を睨みつける怖い怪物がいるこの状況、どこをどう見たら無事に見えるのか!
「ぜんっぜん、無事じゃないんですけど!?」
テコナは必死のツッコミを入れた。実質テコナもツッコんでいる場合ではないのだが…。
「安心したぜー?てっきりエルダーウルフにでも食われちまってるかと…」
「多分エルダーウルフじゃない別の物に食べられそうになってんのよ!」
テコナはもう涙目だ。
だが、ジンタローは
「いーや、助かってるぜ」
と言う。
そして、不敵な笑みと共に言い放った。
「だって、まだ死んでねぇからな。それなら、どんなヤツからでも助けてやれる!」
「カラ…カラカラっ!」
ジンタロー登場によりスルーされていた怪物が、新たな侵入者についに敵意を持った。
こっちが危険と判断したのか、テコナを放置しジンタローの前に立ちはだかった。
「へっ、賢い野郎だ!…へぇ、ヴェノスパイダーか、よく会うな」
ジンタローは余裕の表情。
その怪物…ヴェノスパイダーはじりじりとジンタローに迫る。体格はジンタローの5倍ほどありそうだが…。
「うっし、いつでもこーい!」
ジンタローはようやく拳を胸の前に構えた。
「あっ…マナチェンジ・ガントレット」
テコナは、マナチェンジ・ガントレットの変化に気付いた。骨格部分だけで、正直ショボかったあの姿ではない。薄黒く光るたくさんのアーマーパーツが、複雑に組み込まれている。
ヴェノスパイダーはグググと後退り…
ばっ!と、ジンタロー目掛けて飛ひかかった。確実に仕留めるつもりだ!
そのまま鎌のように鋭い前足を振り下ろす。
「嘘っ、速い!ジンタロー!」
テコナが悲鳴を上げる。まさに一瞬の出来事だった。
だが…。
ジンタローは足を引き、身体を逸らすだけで避けた。
首を切断するはずだった前足は空を切り、腹部がガラ空きになった。
ジンタローはニヤリと笑って、引かれた拳をぐっと固めて…
「くらってみろ!必殺…!#魔法拳__マナ・ストライク__#っ!!」
その声に反応するかのように、一瞬だがガントレットが白い光に身を包んで…
渾身のパンチを繰り出した!
それは吸い込まれるようにヴェノスパイダーの腹部に当たり…
次の瞬間、
ドガァッ!
と言う音と共に、ヴェノスパイダーが吹っ飛んだ。
しばらく宙を舞ったあと、大木に衝突し煙を上げる。
ポトリと落ちてきた時はもう、腹部を空に向けていた。気絶したのだ。
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「う、嘘ぉ…一撃?」
まだ目に映っていたことが信じられないテコナ。
ジンタローはバックパックからナイフを出して、絡まった糸を切ってくれた。
「ま、無事で何よりっ!心配だったからついて来てホント正解だったよ」
「えっ…心配してくれたの?」
「あぁ、キノコ取る途中にモンスターと出くわすのは目に見えてるからな。キノコが生えてるってことは、そいつを食べる野生動物もいるって事だ。テコナにはそれを教えてなかったからな」
「そっか…」
テコナはうなだれる。はい、注意不足でした。
でも、それよりテコナは知りたいことがあって。
「ジンタロー…さっき、何したの?」
ナイフについた糸を拭き取るジンタローに、テコナが尋ねる。
「ん?殴った」
「いや、ただ、殴っただけじゃ、あんな飛ばないよ…」
「…おぉ、そっか。そういや話してなかったな」
といい、ジンタローはすらすら語り出した。
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「このマナチェンジ・ガントレットは、言ってなかったけど、こいつもアバラスメタルで出来ているんだ。
テコナのそれは、これ作った時の余りで作った。って、おいおい、そんな顔すんなって!
こいつにテコナからもらった輪廻の宝玉を組み合わせると、過剰なまでに大気中のマナが反応するんだ。
それを使って、マナをガントレットにガッチガチに纏ったパンチを打ち出したんだ。
そうだ、せっかくだし、輪廻の宝玉についても教えてやるよ。
輪廻の宝玉は、周りのマナを吸い込んでチャージして保存、それを瞬間的に排出することが可能な世にも珍しい宝石なんだ。言うならマナのタンクみたいなもんだよ。
ん、仕組みだって?うーん…
マナってのは、凝縮するほど強い魔法を発動できるんだよ。でも普通なら、限界まで凝縮したマナなんて普通にあるもんじゃない。
でもマナチェンジ・ガントレットは輪廻の宝玉があるだろ?輪廻の宝玉は、チャージされて宝玉のなかでぎゅうぎゅうに濃縮したマナを一気に排出できる。
つまり、人工的に凝縮したマナの環境を作りだせるんだ。
それとマナとのひっつきが良いアバラスメタルとの組み合わせは、効果抜群!
ただ拳に魔力を集中させるだけの魔法でも、とんでもない魔力を生み出せるんだ。
分かったか?
…分かってねーだろ…ま、こんな長話したら、こんなもんか。」
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テコナは、ぼーーーっとしながら頷いた。
「うーん…まぁ難しいか!あはは…
まぁ、マナチェンジ・ガントレットは魔法の効果を増幅できるってことを覚えといてくれたら問題ないさ」
「ゴメン難しい…でも、分かった
それと…助けてくれてありがとう」
「よせよせ。それで、納品物は取れたのか?」
ジンタローの質問に、テコナは笑ってバッグを掲げる。
「バッチリ!全部取ってるからだいじょーぶ!」
「おーっ、ナイスだ!んじゃ、長居は無用だ、帰ろうぜ」
「そだね。あぁ、早く家に帰りたい…」
「今日は久しぶりに酒場で一杯やるか!オレの奢りで行くぞ!
あそこのぶどうジュース、美味いんだよなぁ…
あ、酒もあるからそれでもいいぞ~!」
そんな事を話していると、急に何者かの気配を感じた。
二人が振り返ると、倒れていたヴェノスパイダーがゆっくりと起き上がる所だった。
「!!!」
慌てて剣を抜き、構えるテコナ。さっきのようには行かないぞ!
と張り切るテコナを、手でジンタローが制する。
ヴェノスパイダーはこちらを見て、よたよたと必死ににげていった。
「よしてやれ、深追いするとかわいそうだ」
「え?やっつけてないの、分かってたの?」
ジンタローは頷く。
「あぁ、手加減したもん」
そうけろっと言うジンタロー。
だが、テコナはふと考えた。
相手が自分を殺そうとしている中では、とても難しいだろう。
ジンタローには、そんな余裕があったのだ。強者の余裕なのか、はたまた優しいのか…。
「どうしたよテコナ、シンミョーな顔してさ」
「えっ?あぁ、なんでもないよ、はは…さ、帰ろ!」
「あぁ、そーいや、超はらぺこだな!」
二人は狼煙を目印に、村へ戻っていった。