転移者、まさかの金欠⁉︎
「ああは言ったものの、テコナ、おめぇはすぐには旅に出れねぇぜ」
「どっ!どうしてよ、ジンタロー!」
「金がねぇ。金も無しに旅に出ても、飢え死ぬだけだぜ」
「…ハイ」
「生憎オレもいくらか渡してやりたいところだが…自分のをかき集めるので精一杯だぜ」
「しょんなぁ…」
「と言う訳で、旅に出るために金を集める。コレが今の目標だ!」
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と言うことで、夜が明けた次の日。
雲ひとつない青空の下、ジンタローとテコナはローテーブルを挟んで作戦会議を開いていた。
「ジンタロー先生、お金を稼ぐにしてもどうすればいいですか?」
テコナが挙手して質問する。
「それについては4つの選択肢があるぞ。だけど、テコナが出来るのは一つだ。」
ジンタローが答え、テコナはこくこくと頷く。
「1・物を売る。売る物がねぇ。2・お宝を見つける。残念ながらここいらにお宝はない。3・盗む。これは論外。出来るのは、4・働くだな」
「働くかぁ…出来ることなら大体はやるよ?」
「この村には、住人の全員が使える共用のクエストボードがあるんだよ。金を稼ぐならそれだ。みんな事業を持ってるから、お前の存在は大助かりだろうぜ!例えば…薬草の採取とか、仕事の手伝いとか、あとはモンスターとか魔物の討伐だな!…ま、武器も防具もあるんだし、大丈夫さ!」
とジンタローは言った。
だが、テコナは少し不安になる。魔物とかモンスターとかって言われても、大丈夫だろうか?
そうジンタローに聞くと
「最初は薬草採取とか簡単なので金を稼いで、合間に戦闘の訓練をするのが1番効率がいいけど…。忙しくなるぜ?」
ジンタローがニヤリと笑う。
「じっ、上等!やってやりますよぉ!」
テコナはそう言い切った。
「ま、メシは朝昼晩と奢るし、寝床はここを使ってくれ!」
ジンタローはいつものようにニッと笑い、テコナはゴクリと唾を飲み込む。
これから、実質「就職生活」が始まるのだ。
ジンタローは実にからりと言う。
「ま、頑張れよ!」
そうと決まれば話はすぐに進む。
テコナは早速、クエストボードに足を運んだ。
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「クエストボード…あったあった。」
話にあったクエストボードは、広場にある業務用クエストボードの裏にあった。
『求むキノコ採取』『薬草の納品』などなど…朝早いからなのか、こんな物だ。
クエストの紙の契約部分に『テコナ』の名前を書く。これで受注完了だ。
「さてと…行ってこようっと!」
初のクエスト、スタート。
テコナはパシっと頬を叩き、森の入り口、つまり村の出口へ歩き出した。
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ちゅんちゅんと、小鳥が鳴いている。整備された道はないが、木々がそびえ立つ森なので非常に視界は悪い。
イルカ森林は、そんな森だった。
迷子になったら帰って来れなくなりそうだ。
と言っても、誰かがクエストを受注した日は、村で一日中狼煙があげられる。幸いなことに空の視界は開けているので、もし迷ったらそれを頼りにして行こう。
今回テコナが受けたのは、Fランクのクエストである薬草であるイヤシグサ、食用のゴマスリキノコの採集だ。
ジンタローによれば、都市部では危険度が高いが見返りも高いBランククエストなどが普通にあるらしいが、この平和な村では危険度の低いG~F、最高でもDランクが限度らしい。
報酬はしょっぱいが、初心者のテコナにはありがたい。調子に乗らずに頑張ろう。
テコナは木々に沿って歩いていると、大きな木の根本に、特徴的な青色の花を咲かせた草が数本生えていた。
「おっ、みっけ!」
イヤシグサだ。早速屈んで、根本をちぎって採取する。こうすれば根が残るので、また生えてきてくれるのだ。
今回のイヤシグサ採集は8つ。
「ひとつ、ふたつ、みっつ…沢山あるな」
イヤシグサは5つあった。それらを採取し、バッグに入れる。
「あと3つ…あるかな?」
辺りをキョロキョロ見回すと、少し遠くに群生を見つけた。
そこへ行って、それも取る。7つあったが、依頼達成のための3つと自分用に2つ取って、残りは置いといた。無駄使いするのも悪い。
「あとはゴマスリキノコだけだね」
テコナは独り言をつぶやいた。
ゴマスリキノコの納品は3つ。病気で寝込んでいた酒場のアリュウさんの依頼で、祖父の調子が良くなったと言うことで、好物のキノコ料理をご馳走したいらしい。
Aランククエストにもなると似た物が沢山あって大変なものもあるらしいが、幸いゴマスリキノコはこの地にしか生息していないようなので、毒入りキノコと間違えたりすることは無さそうだ。
ふと、テコナは木の下にベタベタした塊があるのを見つけた。
「…?何あれ?ま、いっか」
あまり気にせず、テコナは進んでいく。
それが、とあるモンスターが縄張りを主張する目印とも知らずに…。
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「えーと…ゴマスリキノコ…あっ、あったあった!」
ラッキーだったのか何処にでもあるのか、少し時間が空いただけですぐにみつけた。
早速屈んで採取する。こっちも結構あるな…。
ゴマスリキノコはとても美味しいらしい。私も食べたいな…
そんな能天気な考えにふけるテコナ。
だが、そんな彼女の背後に迫る影が…。
カタカタ、カタカタ、カタカタ。
「ん?」
不思議な音を聴いて、テコナが振り返る。
そこにいたのはーーー。
「カラカラカラカラカラカラカラカラカラっ!」
黒い体に赤と黄色の警告色の斑点がある、でっかいクモのような怪物がいた!
「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
テコナは超ビックリ、悲鳴を上げる。
「カカッ…カカカカッ…」
鋭いアゴをカチカチ鳴らす怪物。光る目は、確実にテコナを捉えていた。
はっきり分かる。怒っている。ここはこいつの縄張りだったんだ…!
「に、逃げないと…!」
慌てて立ち上がり、逃げ出そうとするテコナ。未知の相手と遭遇した場合は、さっさと逃げるに限る!
だが、その焦りが彼女の注意をそらしてしまった。
べちゃっ。
「…ん?」
何故だろう。右足が動かない。
べちゃっ。
左足も動かなくなった。
足元を見ると…。
ベタベタした白い糸を、踏んづけてしまっているではないか!
(そぉぉぉんなぁぁぁぁぁっ!)
踏んだり蹴ったりのテコナ、声にならない悲鳴を上げた。
「カラカラカカカッ…」
前足二本をシャキンシャキンと鳴らしながら、ドジな侵入者に迫る怪物。
「ううっ…まだ異世界転移2日目なのにぃ…」
半泣きで自分の運命を呪うテコナ。「だれか助けに来てくれる」とはちょっと思っているけど、目の前に恐怖をドンと置かれると、たちまち希望がへし折れてしまう。
(ち、近い…もう駄目だー…!)
その時であった。
たったったったったっ…
「おーいテコナー!あっ、見つけたぞー!」
全くこの場の空気に合わない明るい声で、ジンタローがのそっと現れた。