旅の準備
「さーて、マナチェンジ・ガントレットはこれで一段落だ!他のパーツは後で付けとくとして…
そうだ、テコナ、なんか作ってほしいもの考えついたか?」
そうだ。テコナは思い出した。確かそんなことを言っていたっけ。
でも、正直ここで一生平和に暮らすのも悪くないなぁ…テコナはそう思っていた。
冒険なんて危ないしめんどくさいし、何よりジンタローは親のトラウマでやりたがらないだろう。
そう思ったテコナはそこで、あえて話を変えて
「そういえば、ジンタローはマナチェンジ・ガントレットを完成させて、その後はどうするの?売るとか?」
テコナの問いに、ジンタローはキョトンとして…
「あっはっは!ンなわけねーだろ!」
と笑い飛ばした。
「おいちゃんは、昔冒険者だったってのは、前話したよな。」
テコナはコクコクと頷く。
「オレは…おいちゃんの様に、このサルバドス大陸を、いや、このアルゴンカグヤ中を旅したい。それが、オレの夢っつーか…目標だ」
ジンタローは、キラキラした目でそう言った。
「…!」
テコナには、それがグサリと胸に突き刺さる。
気がつけば、頬を冷や汗が流れていた。
ジンタローは、全く恐れてはいなかった。
『おいちゃんのように死にたくない』ではなく、『おいちゃんのようになりたい』とはっきり言ったのだ。
それが覚悟なのか本当の夢なのかは分からない。
だが、転移者のテコナには、それに心が震えていた。
彼女は、ジンタローとテコナには月とすっぽんのような差があることを理解した。
自分は、あの世界と同じような人生を歩もうとしていたのだ。
スリルなんて微塵もない、退屈な毎日。
毎日のノルマをこなし、生きるだけ。
日常を抜け出す気力などない、同じような毎日が続くような生活だ。
ーせっかく転生したのに、これじゃ勿体無い!
テコナの心がそう叫ぶ。
「どうした?まだ考えるか?」
ジンタローが心配そうに声をかける。
だが、やっとテコナの意思は固まった。
「…じゃあ、ジンタロー」
「よしきた、なんでもこい!」
「武器と防具を作って!どんな冒険にも耐える、最っ高のヤツを!」
「…?」
ジンタローはそれを聞いて…無言でこちらを睨みつける。
さては、試しているな?そう感じた彼女は、スッと切り出した。
「私も、世界を旅する。そう、決めた」
ジンタローは俯いて………ニッと笑った。
「よっし合格だ!任せろ、とびっきりのヤツを作ってやるよ!」
ジンタローはそう言って、胸をどーんと叩いた。
「じゃあ、武器と鎧を作る!出て行くにしろそうでないにしろ、1日待ってくれよな!
さぁーっ!仕事だーっ!」
そう言ってジンタローはテコナを家に押し込み、「これでメシ食っといて!」と小銭を預けて工房に直行した。
「もう…後戻りできないな」
テコナは、自虐的な笑みを浮かべた。
だが、悪い気分は一ミリもしない。不思議と、わくわくが強まってくる。
気づけば、ジンタローの武器の完成が待ち遠しくなっていた。
~~~~~~~~~~~~~
どれほど時間が経っただろうか。
森に、夜がやってきた。
村の周りは真っ暗だが、村中にあるランタンに火が灯り、暖かくも幻想的な明るさが村を包んでいた。
「ご馳走様でした!」
「またどーぞー!」
テルの威勢のよい声を背に感じながら、食堂を出てきたテコナ。
ジンタローはまだやってるらしく、工房にあかりがついている。
「ジンタロー好きだといいけど」
そう言ってテコナは、テイクアウトしてきた爆弾おにぎりをチラッとみた。
ジンタローの夜食にと注文してすぐ帰る予定だったのだが、テルさんに加えコック達までニヤニヤしながら、
「あらあらぁ?もしかして…ネムリダケもご入用ですかぁ?」
「ねーちゃんも悪だねぇ…あの純粋な少年を…」
「こいつなら、ジンタローも気にいるはずだぜ!そしてコレをくれたアンタのことも…」
なーんてからかってくるもんだから、ついつい言い返すうちに遅くなってしまった。
工房を覗くと、ジンタローは出来上がったらしい剣を見つめていた。
手に持って回してみて、ボロがないかしっかりと見ている。
とても真剣な目だ。少し話しかけ辛い……。
「じ、ジンタロー?」
「おう、テコナか」
頑張って声をかけたら、すんなりジンタローは振り返った。
「剣は完成したからさ、こんなもんだ」
そう言って、鉄製の鞘に入った一本の剣をテコナに渡した。
「抜いて見てくれ、なんか追加あったら…」
そう言うジンタロー。テコナは頷き、ゆっくりと剣を抜いた。
シャァンと言う気持ちの良い音に合わせて現れた剣は両刃ではなく、カッターナイフのような形をした片刄の剣だった。
細身の剣だが鋭い切れ味を放っており、よく見ると剣の軸には一つの青い線が這っている。
「こいつは希少金属、アバラスメタルが使われているんだ。アンタがどれだけ戦おうと、マナが味方だ。決して折れることはないんだぜ」
よく見てみると、わずかに電気が流れているようだ。
(私達の世界で言うとこの「電磁ブレード」か…)
テコナはそう結論付けた。それを裏付けるようにジンタローが
「そいつには微弱だが電流が流れているんだ。そいつは代物だぜ?触れた物に電流が音速を超える速度で入り込んで、物体の中を駆け回って物の劣化を誘い、そいつが物体を構成する粒子を刺激して、☆$%*が:^〒<+*°で→€々<♪を#*×☆*だからそれが々|=°で<+・:々\☆♪#で…」
と、テコナには全くわからん専門用語を得意げに並べまくるジンタロー。要約すると『よく斬れるよ!』と言う訳か。
「鎧の方も作っといたぜ!こっちは動き易さ重視だから、アバラスメタルは使ってないけど…でもでも、特殊繊維を上下鎧の隙間に入れといたから、コレがダメージを軽減して…」
やはりそこはいろんな意味で職人、話は長いが大事なことも言うジンタロー。
ブツの方をみると、なるほど、茶色のレザーアーマーと言ったところの物が、革製ズボンと合わせて壁に掛かっていた。
「コレで、お前も冒険者デビューだな!」
ジンタローは、ニッと笑った。
「うん…!本当にありがとう、ジンタロー!」
「よせやい。さて、料金のほどなんですが…」
「うぇぇぇっ!?」
「だはは、ジョークだよ。オレは恩はきっちり返す男だからな」
ジンタローに「ほんとぉ?」と聞いて見つめる。
もちろん、笑顔のウィンクが返ってきた。
旅立ちの時は近い。