マナチェンジ・ガントレット
その時テコナは、パッと思いついた。
「そうだ!ジンタロー、ちょっと待って…」
と、テコナは持っていたリュックを取り出した。
彼女が目覚めた時から持っていた物だ。
その中身をガサゴソ探る。テコナも開けるのは初めてだ。
「?」と言う感情をもろに出したジンタローだが、彼を満足させる物が入って無いだろうか?
「えっと…」
水筒、石ころ、マッチ、変な宝石、財布…
そこらに放り散らかす。人の家だが、別に仲良いしそこはいいでしょ!
「ジンタロー、なんか気になる物ある?」
「いや、別に」
(ヤバイヤバイヤバイ…)
しかし話はいい具合に変わった。
「おっと、言い忘れてたことがあるぜ」
ジンタローが切り出した。
「このマナチェンジ・ガントレットは、実は未完成なんだ。」
「へ?そうなの?」
「あぁ、『輪廻の宝玉』って言う宝石が必要らしくてさー…なんでも、『テンセイシャ』とか、他には『テンイシャ』とかしか持ってねぇらしいんだけどさ…ん?どした?」
「い、いやぁ何でもない、何でも…(危ない危ない、びっくりして叫びそうだった…)」
テコナは『テンイシャ』に当てはまる覚えしか無い。まさに図星だ。
「うん?まぁいいけど…それはこの世界では取ることが出来ないらしいんだよ、昔おいちゃんがよく話してくれたぜ」
「そそそそ、そうなんだー…」
さっきから焦りまくりのテコナ。そんなもんあったっけ!?
「それさえ有れば完成なんだけどなぁ~…でも、いつか見つけるぜ!」
「あ、が、頑張ってね~」
よくは見ていないが、リュックの中にそんなものは入ってなかった。
ここでジンタローの希望を折るわけにもいかないし、テコナは笑って誤魔化した。
また、気をそらすためにがちゃがちゃバッグを探っているフリをする。
ーーが、テコナはふと思い立った。
(そういえば、レイドさんはどうして転生者のことを知っているんだろ?)
ジンタローにそのことを聞こうとした、その時であった。
バッグに突っ込んだ手に、コツン、と何かが当たった。
「ん?」
それは手に取れる大きさだったので、取り出してみる。
「わっ…キレイな宝石…」
透明な宝石で、よく見ると中に変な模様がある。
「ん?なになにー?」
覗き込んだジンタロー。
すると急にジンタローが…
ばっとテコナからそれを奪い取った。
えらく動揺している。
「おおおおお、お前、ここここ、これ……どどどど、どこで…」
「えっ?」
テコナにはなんのことやら。
そのままジンタローは無言で部屋の一角にダッシュし、タンスをガサゴソやる。
そして、一枚の古めかしい紙を取り出した。
「ほらっ!これ見ろよ!この宝石っ!この宝石こそが輪廻の宝玉なんだっ!」
興奮したようにばっと紙と宝石をずいっとテコナの前に突き出す。
その紙には丁寧に描かれた、テコナが出した宝石にそっくりなイラストが書かれている。
「やった…!やっと見つけた!これでおいちゃんの託したマナチェンジ・ガントレットが完成するぞ…やったーーっ!」
ジンタローは飛び上がって喜び、それからハッとしたようにテコナに向かい合った。
(ま…まさか用済みとか言われないよね…?)
さっきからジンタローのテンションがめちゃくちゃで、テコナはビビリ上がっていた。
だが、ジンタローは…ばっと床に頭を擦り付けた。
「お願いしまっす!どーかコレ、譲ってくださいっ!」
「へっ!?」
フツーにお願いされちゃった…。
「ど、どーぞ…」
別にテコナが持っていても役に立ちそうにないので、おっかなびっくり返事を返す。
「やったーーーっ!そうこなくっちゃ!
そうと決まれば、早速作るぞー!」
ジンタローは再びタンスに戻り、設計図を取り出して、マナチェンジ・ガントレットをひっつかんで家を飛び出して行った。
「あらら…行っちゃった…」
テコナが扉を開けても、そこにジンタローはいない。
…と思ったら。
「あっテコナ!」
「うわわっ!」
いきなりジンタローがひょこっと顔を出した。
「せっかくの機会だ!なんか作って欲しい物あるか?お礼と思って!出来ることならなんでも作るぜ!」
わくわくした表情でジンタローが言う。
「えっ?え、えぇーと…」
「ひとまず行こう!オレもうテンションがバクハツしそうなんだ!」
そう言うと、梯子をさーっと降りていった。
「これ、ついてこいってこと?」
テコナも後を追って、梯子を降りていった。
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テコナが見ているなか、ジンタローは鉄製の箱を取り出してがさごそやり、とあるパーツを取り出した。
「ほら、これが外側部分だよ」
「外側部分?」
「さっき見せたのはマナチェンジ・ガントレットのベースになる部分だ。あれの上からこれらをくっつけて補強する」
そう言ってジンタローは箱の中身を全て取り出した。
鎧のパーツのようだ。たくさんの鉄板があり、あれを全て付けてもさぞかし動きやすいだろう。
「これは手の甲の第3パーツだよ。これに輪廻の宝玉を入れる隙間を作ってたんだぜ。正直使う時がくるとは思ってなかったけど…」
そりゃそうだ。そもそも完成予定が無かったのだから。
ジンタローは、右手のパーツに慎重に輪廻の宝玉をはめた。
「こいつをはめて、冷やして固定してっと…これでよしっ!うっしゃあ、完成だーっ!」
「でも一つしか無いけど、片手分だけでいいの?」
「いいんだよ。左手は別のをはめてる」
そう言ってジンタローは「ほら」と左手のパーツをテコナに見せてくれた。
見てみると、なるほど、輪廻の宝玉…ではないようだが、綺麗な宝石がはめられている。
「こいつは光属性魔法石の純結晶なんだ。転生は神様によって行われるから、光のこいつと輪廻の宝石が反応しあってパワーアップしたり、離れすぎると磁石みたいに戻ってくるらしいぜ」
「へぇ~、ジンタローくん、物知り~」
「いや、設計図音読しただけ」
「あ…そ、そう…」