異世界転移者⁉︎
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「う、うーーん…」
女は、なんとか目を開ける。
ここは何処だ、腹が減って…
突如、目の前に料理がすっと出された。
「食えよ、俺の奢りだぜ!」
そばにいたらしいみしらぬ少年にそう言われる。
「あ…あぁ…!」
女は何もいえずに料理にかぶりついた。
ビーフシチューだ。無心で胃の中に放り込もうとするが、どうしても美味しく感じてしまう。
「どうだ、うめぇだろー!」
「アンタが作ったんじゃないでしょ」
えっへん!と胸をはるジンタローに、テルがコツンとツッコミを入れる。
「あはは…でも、いい食いっぷりだぞ」
「お水もありますよー!」
テルが出したコップの水も、女は一息に飲み干した。
「あぁ…ふぅ…」
女はやっと一息つく。
「おっ、落ち着いたかー?」
「ぷはぁ…美味かったぁ…
助かりました、ありがとう…腹ペコだったんですよ
私は…えぇと…うぅん…」
「ど、どうした?」
心配そうに顔を覗きこむジンタロー。
「そうだ…わ、私はテコナと申す者です」
そう言った女…テコナは、改めて礼を言った。
「ツケでいいよ、オレはジンタロー。そんでこっちはテル」
「お題のことは気にしないでよね!」
「あ、ありがとうございます…」
ぺこぺこしていたテコナだったが、急に「あっ…」と、慌てて聞き始めた。
「ここは何処か分かります?」
「ここか?ここはサルバドス大陸、アルファダム領域北東部のイルカ森林だぜ。まぁ田舎だし分からんか…」
ちょっとびっくりしたが、素直にジンタローは答えてくれた。
「は、はぁ…」
「どうしたんだよ、ピンとこないような顔してさ…頭打ったか?」
「い、いやぁえーと…ちょっと失礼…」
と言い、テコナはさっとジンタロー達から顔を背けた。
「…やっぱり、ここは異世界…?そんな、朝起きたらいきなり場所とか服とか体つきまで変わってるし…まぁ、これ超スタイルいいし、いっか!ふふふ…いや、そうじゃなくてっ、これからどうすれば…」
と、ぶつぶつ言っていて、いつの間にかそばにいたジンタローに気づいていないようだ。
「なんだ家無し?アンタ旅人なのか?」
「似たようなモンですよ…って、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ようやくジンタローに気付いたテコナは、悲鳴を上げて後ずさった。
「い、いつからそこに!?」
「えーと、じゃあこれから…の辺りからだな!」
「(見事に聞き漏らしているッ!?)」
テコナとしては、嬉しいような嬉しくないような。
「なんだ、家ねぇならウチに一晩寄ってけよ、この村宿屋ねーし…」
それなりの都市ならどこでも安く泊まれる宿屋があるものだが、ここはそれなり未満なので宿屋はない。
そもそもこの村に旅人が寄ることは滅多に無いのだ。
「いや…いいの?」
「いいよ、敬語じゃなくて」
テルがズコッ、とずっこける。
「いやそこじゃないでしょ…ジンくん、ほんとに大丈夫?ウチ物置なら空いてるけど」
「物置ってオイ…全然大丈夫だぜ」
「…って言ってますけど、どうします?テコナさん」
テコナの返事は決まっていた。
ショタに決まってんでしょ!とはもちろん言わずに
「あ、じゃあジンタローくんの家にお邪魔させてもらおうかな~…」
と、下心丸出しの返答をするのであった。
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「へぇ~、ジンタローくんって、加工屋やってるんだねー」
「ジンタローでいいよ、これでも15だし」
「あっ…ごめん」
そんなことを話しながら、二人はジンタローの家にやってきた。
梯子を登って、家の中にお邪魔させていただく。
「狭いとこだけど、どーぞ」
「へぇ…意外と広いね」
玄関などの概念はないようで、ベッドや本棚、タンスやテーブルなどが一部屋にまとまっている。
「靴は脱がなくていいよって…なんで裸足なんだ?」
「あっ?えっ、これは、服装がこれだったからで…いや、えっと…どこかに置いてきちゃったみたいでさ…」
「へぇ…そこに何個かオレのブーツあるから、サイズ合ってるのあったら持ってっていいよ」
指された方を見てみると、なるほど、革製の丈夫そうなブーツがいくつか並んでいる。
テコナは良さげな物を1セット見つけて、靴下とセットでもらうことにした。親切な子で良かったとつくづく思う。
「ちょっと待ってくれよ、今クッション出すからさ…」
「あぁ、いや、気を使わないで」
そう言ってテコナは絨毯の上に座り込んだ。
すると、視界の隅に何か変なものが入り込んだ。
部屋の隅っこに、大事そうに手袋のような物が置かれてある。
「ジンタロー、あれ何?」
テコナが指差す。するとジンタローは
「あ、アレはだなー、オレのおいちゃんから譲り受けたんだ!」
「おいちゃん…?そのおいちゃんって人にも挨拶しないと…どこにいる?」
困惑していたため空気が読めなかったテコナ。
ジンタローは少ししょんぼり切り出した。
「いや、その必要は無いぜ。…レイドおいちゃんは、3年前に病気で死んだ。昔は冒険者だったらしいし、色々無理したツケが回ってきたんだ。」
「…ごめんね」
「いや、気にすんな。オレがまだ3歳くらいのとき、オレの親から預かったらしい。オレに加工屋技術とか、色々教えてくれたんだ。あの工房も、昔はレイドおいちゃんの職場だったんだぜ」
「…そうなんだ」
テコナは深く反省した。辛い記憶を思い出させてしまった。
だがジンタローの目に、また輝きが戻った。
「でも、死ぬ直前に、おいちゃんはそれの設計図をオレに預けたんだ。今ここにあるのは、それを元手にオレが作ったやつ。設計図と一緒に書かれてあった地図の場所から取った珍しい鉱石を使ってるんだ。ほら!」
そう言い、ジンタローはテコナの前にそれを置いた。
鉄で出来た、手にはめる武器のようだ。手の骨格のような形で、指を通すのであろう穴がちゃんと空いている。二の腕まではめられるらしく、手の甲側は分厚い円柱形の鉄の塊が付いていた。
右手だけかと思ったら、同じような左手バージョンも出てきた。
「へぇ…それで、これは何?」
とテコナは尋ねるも、ジンタローは首を振る。
「マナチェンジ・ガントレットって名前らしい。でも本当の使い方はわからねぇんだ」
「分からない?」
「あぁ、設計図には作り方しか書かれてなかったんだよ。仕組みから、武器って言うことは分かるんだけどさ…でも、いつかは分かると思うぜ。
…さーて、暗い話ばっかりしてた気分だぜ!今度はテコナのこと教えてくれよ!」
「へぇっ!?わ、私はねー…え、えーと…あはははは…(ヤバイヤバイ、良い言い訳が思いつかないよぉ~…)」
テンパるテコナに構わず、ジンタローがずいっと迫る。