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夢戻リダイアル  作者: やまは
現実七日、夢六日
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二章 25夢 捕まえて

 城に残ることで直面するもう一つの現実。


 ――『内通者』疑惑。


 次なる課題がユミには残されていた。その対策のために選んだ道が、アルメリアの裏の顔を覗き見る結果となり、人身売買への道を辿り、そして死んだ。

 知り得ない情報の保持。情報漏洩の観点から、ユミにそのライトが向けられるのは無理もないこと。情報源を開示すればいいとはいえ、その情報源は明かせない。明かすと死ぬ。その情報も得ている。そもそも、明かしたところで解決するなら開示しているというものだ。

 コウとカイといてもユミにとっては何の意味も持たない。身内的な観点が存在するためだ。

 それはユミがコウの『客人』という立場を保持しているためだ。ユミはコウとカイに貸しが一応ある。戦争終結に尽力した貸しだ。そのため、ユミにとって彼らがこの『異世界』での味方であることは、決して揺るがない。その恩恵がコウの客人。だから彼らの証言は意味を持たないのだ。別の人物が必要となる。


 ユミにとって証人となり得るのは、アルメリアとリコリスの二人である。他にもいるにはいるが、信頼できるのは今のところその二人しかいない。

 二人は言ってしまえば第三者である。当然、アルメリアとリコリスに貸しはない。それでも二人が気にかけてくれるのは、コウという――王子という権威に屈しているに他ならない。


 ――ただそれは、主観を除けばそうなるというだけのこと。


 王都へ赴くならまだしも、ましてや自室で一人籠っていたのではアリバイなど存在しない。それにアルメリアは危険分子だ。できれば離れていたいのがユミの本音である。

 だからこそ、この王城生活三日目。幾度となく掛け直し(リダイアル)したこの日を乗り越えられる可能性があるとするのならば、リコリスといればあるのかもしれないとユミは思ったのだ。


「……突然何を言い出す」


「コウ殿下から聞いたんです――『内通者』がいるって。だから私と一緒にいて下さい。お願いします」


「……自分で言っていて気づかんのか? お前の言っていることは支離滅裂だぞ。それとこれとで何の繋がりがあるというのだ。私がお前といることで何の利点になる」


 その言葉にユミは若干の違和感を覚えた。次に、試してると思った。

 リコリスの言葉が、行動が、それを裏付けている。言葉の隙かはたまたわざとかなのかは分からない。ただ付け入る隙はあるなと思った。


「利点があるかないかで言えば、はっきり言ってないです。リコリスさんはコウ殿下やカイさんとはちょっと違う。どちらかと言えばアルちゃん寄りですから」


「では何故私なのだ。殿下はともかく、カイやアルメリアでもその役は十分に勤まるはずだろ」


「それでもリコリスさんにお願いしたいんです! リコリスさんは今もこうしてここにいる。私のことなんか放っておいてもいいはずなのに、です! それが理由です! ダメですか?」


「駄目だ。不鮮明すぎる。私がここにいるのはアルメリアを待っているだけだ。それにお前に情けをかけているわけではない。お前を見張っているだけだ。お前もまた『内通者』である可能性がある一人というのを忘れているのか?」


「分かってます。私もその一人なのは分かってます。そうなるとコウ殿下やカイさんじゃダメなんです。リコリスさんじゃないと……」


 コウとカイはこの後用事ができる。となるとユミはアルメリアと二人きりになる。できるだけそれは避けたい。


「だから何故私なのだ。ならばアルメリアでいいと言っているだろう」


「いやです! リコリスさんがいいんです!!」


 立つユミと座るリコリス。バチバチと目と目の火花散っていた。

 ユミにとってこれだけは引けない。引くことのできない戦いだ。大体、女の部屋でくつろいでいるのはどうなんだか。いくら貴族といえど、コンプライアンス的にはどうなのだ。父と娘ほどに年の差が離れているだろう。優雅な時を過ごしていて、若干腹が立つ。こちとら死んでんねんぞ。死んだ時の気持ちが分かるのか。暗いねん。真っ暗闇に放り出されて、何もできずにスッと意識が飛ぶ。そしたらまた始まる。


 ――――この地獄が。


 ――――『リダイアル』するこの地獄が。


 ――――分かってたまるか。


 しばらく時が流れる。一歩も引かないユミに、リコリスはついに折れた。目を逸らし、ため息をつきながら、


「……お前がそこまで私にこだわる理由はなんだ。私がいたといえど、それだけでお前の『内通者』疑惑が完全に晴れることはないのだぞ。ならば同じ娘であるアルメリアといる方が何かと都合がいいだろ。そう言っているのだ」


 リコリスは見解を述べた。至極真っ当な回答。例題と対比する解答例だった。百点に付け加える要素はない。しかしそれは、彼の物語がそこで終わっているからだ。その先――未来が見えていないのだ。だが逆に、それは普通のことでもある。

 ユミはその先を見ている。その先を知っているからこそ、これからに対処する術をたった一人で模索している。その最中だ。


「確かにそうです。ホントはアルちゃんといた方がいいです。――リコリスさん、怖いですから」


 若干機嫌を損なったリコリスの表情が窺え、「そ、そういう意味じゃないですよ」とすぐさま訂正して、


「リコリスさんがコウ殿下にホントに信頼されてる人なんだっていうのが、私があなたに頼りたいホントの理由です。コウ殿下の剣を預かるなんて、それこそリコリスさんが信用されて、信頼されてる証に他ならない――違いますか?」


 ユミは徐にリコリスへと歩み寄って、核心を切り出した。

 コウの剣、王家の証付き。そのような代物を預けるに値する人物が、信頼されていない訳がない。信用も自然とついて来るものだ。

 誰でも頼られるのは嬉しい。ましてや忠誠を誓っている人物から直々の信託だ。たとえ命令と言えど、揺らぐことのない信頼関係がそこにはある。

 その証に、ユミの投げかけた疑問に対し、リコリスは面持ちを真面目に取り組みだしていた。

 嘘のつけない人だ。付け入る隙を突いたことに間違いはない。それでも真摯な態度は崩れない。次を待っている。だからユミは本気でリコリスを口説く。それが信頼関係を築く方法だから。


「――あなたと出会えたことは、私にとっての『運命』です。私の『赤』が繋いだ一つの糸。あなたがほどいても、私は必ず結びます。結び直します。――それともまさか、こんな厄介者を野放しにするような人ではありませんよね?」


「当然だ。お前のような者をのさばらせておくほど、私は甘くはないぞ。それこそリコリスの爵位に泥を塗ることになる」


「でしたらリコリスさんは私との糸、結んでくれますよね?」


 ユミはスッとリコリスに手を差し出した。あの時弾かれたその手を。あの時交わらなかったその手を。今度こそは、との思いも胸に。

 リコリスは立ち上がった。ユミは見上げた。その表情に、雰囲気に、大丈夫だとユミは思った。信用し、信頼しているのだ。何も怖がることはない。


「これは決してお前のためではない。殿下のためだということを忘れるな」


 半ば負け惜しみのような発言を前置き、リコリスはユミのその手を今度は確かに取ったのだった。


「ありがとうございます、リコリスさん」


 その締めにユミは、リコリスに笑顔を見せた。しかしそれもすぐさま手離された。「締まりのない顔を作るな」との文句を垂れてきて、ユミの表情は素に戻る。内心ムッとするが、今はいい。よそう。手を取ってくれただけありがたい。高望みしてもダメだ。これで満足。そうしておこう。


「――ただし、条件はいくつかある」


「……え?」


「まず、お前が私に合わせろ。次に場所を変える。そして最後に、自分の身は自分で守れ――では早速だが行くぞ、ユミ」


 突如の急展開に、ユミの思考は追いつけずにいた。突き出された条件の意味がのみ込めなかった。

 ユミと相反するように、リコリスは行動を始め、扉を目指して歩き出した。ユミは対応するための時間が欲しく、「――ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」と慌ててリコリスと扉の間に割って入る。向かい合う形となり、「こ、ここじゃ、ダメなんですか?」と改めて質問する。しかし、「駄目だ」と一蹴。挙句、「部屋に籠っていて何になる」とのありがたくもあり、インドア派には突き刺さる痛い言葉が送られてきた。


「――いい忘れていたが、私もお前と同じ疑惑をかけられている一人だぞ。人目につく場所の方が何かと都合がいい。お互いに見張り、見張られていれば『内通者』も自然と浮き彫りになってくる」


「た、確かに……で、でもアルちゃんはまだ戻ってきてませんけど……」


「ならば書き置きでも残しておけ。私たちは資料室にいるとな」


 リコリスはユミを退けて、客間を後にした。思いのほか優しく払い退けられたことはうれしかった。

 一人部屋に残されたユミ。急いで寝室の机の上へ向かう。勉強の跡が残ったそこで、紙にアルメリア宛の書き置きを残す。

 文字の読み書きの成果がここで役に立つ。それでもまだ日本語のようにスラスラとはいかずに、時間は掛かったが、確かに書き切って、客間のテーブルの上に置いた。


『リコリスさんと一緒に、資料室にいます』


 そう書き残した紙だけが、部屋から急いで去って行く『赤』を静かに見送っていた。

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