プロローグ 夢と現実
夢は二つある。
「わたし、おとうさんのおよめさんになるー!」
「――ああ、でもやっぱり、おひめさまがいいー!」
「――でもでも、けーきやさんもいいなー」
夢とは変化するものである。
「将来の夢は、美容師です」
夢とは現実を連れてくる。
「夢? 夢なんてないよ。今更、夢見たって何になんの? もう遅いって」
彼女はとうに諦めていた。
彼女にとって夢とは所詮、その程度の夢でしかない。だが、夢とはそういう一面を持ち合わせたものでもある。
夢があるから頑張れる、などとほざくのは、夢を叶えた一握りの選ばれし者だけだ。普通は砕け散って爆散する、爆弾のようなもの。
時限爆弾。いつかは悟る。
夢は見れば見るほど辛いだけの代物でしかない。そして悟る。残されたのは現実ただ一つ。いくら着手しても、その先が見えないという途方もない黒の絶望。そんな世界を抗って生きていく。この先、彼女は何十年と。
それでも、一筋の光はある。それもまた夢だ。
とても小さな夢。小さな喜び。小さな楽しみ。小さな感動。些細な夢へと変化して、それを叶えて、叶えて、死んで行くのだ。
だが、誰しもが思うだろう。本音ではもっと大きな夢を見たい。ずっと夢を見ていたい。
もしも、夢が叶うのだとしたら――。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――続く。
「……は? なにこの小説。夢、夢って、うざっ! ポエムか! 死ね!」
自分で選んだ小説にふてくされながら、彼女はそのウィンドウを閉じた。そのままベッドへとダイブ。仰向けになり、バタバタと足を動かす。
彼女もまた、夢を見ていた少女の一人だ。ただ、有り余る時間をどう潰すか、今の彼女にはそれしかない。
当然、夢などあるはずがない。あるとすれば、彼女の名がそれを冠している。
――『柊・夢美』
自分が見た夢は一体何だったのか、それを彼女は自分自身へと自問するが、答えは訪れない。それはもう、忘れてしまったものだから。
それから夢美にはもう一つの夢が訪れた。それは、暗闇と共にやって来る、空想の色を持った自分だけの世界である。
――夢とはあまりにも残酷なものである。