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FANTASIA―ファンタジア―  作者: 伊勢祐里
第二章「ブリキの王国編」(中)
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一幕 10話「捜査」

 窓の向こうに、大柄の男が立っているのが見えた。ブラウンのスーツを羽織り、タブレットのような物をロボットたちに見せていた。その男は刑事アンドロイドらしく、母ロボットが、素直に彼の質問に答えている。タケルたちは、息を潜ませながらじっとその様子を見ていた。



「連邦捜査局のFR‐007MKⅡ、通称コナーです」


「連邦捜査局の方がこのような地で何の捜査でしょうか?」



 コナーという男は、タブレットをポケットにしまいながら、少し遠くを振り返った。彼が見た方にいたロボットたちは、わずかに怯えているようにも見えた。



「昨晩、破壊行為が行われたという報告を受けました。一体のロボットが被害に遭っているはずです。話を伺わせて頂いてもよろしいですか?」


「一体誰の報告ですか? 私達は、報告などしていませんが? それに、あなたたちラフマーンの人々は、ここのことなど捨てたではありませんか」



 コナーは、少し眉尻を下げた。困ったような表情は、とてもアンドロイドには思えない。



「誰からの報告であるかは、お答え出来ません。ロボット同士は、破壊出来ないシステムになっているはずです。もし、犯人がこの町の者ならシステムが破損している可能性もあります。危険なのはあなた達ですよ」



 そう言われ、反論出来なくなったのか、母ロボットは押し黙る。コナーは、覗き見るロボットたちを睥睨すると、こう続けた。



「今から、町のロボットを一体ずつ検査していきます。異常のあるものは、データの修正をします」


「待ってください。検査ならこちらで出来ることです。わざわざお手間を取らせることはありません」


「本当にそうですか? ならどうして、昨晩のうちにやらなかったのです? データの修復など出来る者はいないのでしょう?」


「それは……」



 恐らく、レイが見つかることを恐れているのだろう。連邦捜査局だと言ったあの男は、ラフマーンと呼ばれる摩天楼に棲むアンドロイドに違いない。だが、タケルが気になったのは、壊されたロボットの話だった。



「なぁ、」



 その疑問をレイにぶつけたのはサトシだった。



「壊されたロボットってなんの話だ?」



 レイは、小さく息をこぼすと肩を落とした。いたたまれなくなったのか、リラがその細い肩を撫でる。真綿のような柔い手が、レイの背筋を滑り降りた。



「昨晩遅く、物音で私は目を覚ましたんです。少し雨が弱くなった明け方ごろでした。窓から覗き見ると、遠くで、父が誰かと話しをしていました」



 彼女の話す父とは、恐らくロボットのことなんだろうな、とタケルは勝手にイメージをふくらませる。



「声は聞こえませんでしたが、しばらくすると激しい破裂音が聞こえ、父がその場に崩れました。私は、怖くなって…… しばらくの間、震えていました。激しい音を聞いた町の者も母も同じでした。それからしばらくして、町の者何人かが、父の元へと近づきました。動力源が破壊され、頭部にあったメモリーチップが抜き取られていて…… 父は死んでいたのです……」


「この町で、そういう武器を持ってるロボットはいるの?」


「いえ…… そんなものこの町にはありません。恐らくラフマーン製の武器だと思います」



 サンダを仕掛けていた理由が分かった。そんな事件があったから警戒していたというわけだ。捜査を嫌がる彼女たちの様子に納得したタケルとは対称的に、サトシは思うことがあるらしい。



「調べられたくないなら、ラフマーンの仕業だ、と言えばいいだろ?」


「それは出来ません…… ロボットたちは嘘がつけないのです。見ていないものを見たとは言えません…… そうなると、自ずと目撃をした私が出ていかなくてはいけなくなります」


「でもさっき、検査は出来るって嘘を…… !」


「検査は出来ます。データの修正が出来ないだけです」



 なるほど嘘ではないな、とタケルは感心する。言葉の綾だ。ただ、ラフマーン製の武器の可能性が高いとはいえ、犯人がここのロボットでないという証拠にはならない。捨てられたもの拾ったりすれば犯行は可能だ。サトシの言い分は、この刑事には通用しないとレイは分かっているのだろう。



「いいでしょう。ひとまず、現場だけでも見せていただけますか?」



 コナーは、諦めた様子ではなかったが一度意見を退けた。言い合いをしても意味がないと判断したのかもしれない。母ロボットが事件現場へとコナーを案内していく。少し距離を置いたところで、二人が話しているのが見えた。昨日、レイが目撃したのと同じ距離だろう。確かに、この位置からでは話す声までは聞こえない。



「お父さん…… 残念でしたね……」



 リラだってこの間、両親をなくしたばかりから痛いほど気持ちが分かるのだろう。優しいリラの言葉を受けたレイの笑みは、やはりアンドロイドには見えない。複雑な感情が混じり合ったその瞳が、タケルたちを捉える。



「……ありがとう。でも、ロボットだって永遠の命ではないのです。いずれ錆びて、腐り壊れてしまいます…… それが今朝だったということです」



 朽ち果てることも運命だと言い切った言葉とは裏腹に、彼女の瞳には怒りが滲んでいるように思えた。こみ上げる感情をひた隠しにすることは、嘘だと言えるようにタケルは思えた。ロボットは嘘をつけなくとも、アンドロイドならつけるのだろうか。それとも彼女が人間に限りなく近いアンドロイドだからなのか。



「あんたの父親を壊せるような武器がラフマーンにしか無いにしても、一体目的はなんだったんだ? ここは捨てたオンボロのロボットたちしかいないんだろ? 何のためにそんなことを?」



 サトシの疑問はこの事件の確信を突いている。彼女の父親が狙われた理由はなんだったのか。それらは、推測できないわけじゃない。タケルよりも少し早く、アルが答えいたどり着く。



「そんなものこの娘であろう」



 赤い翼がギュッと細くなりレイの顔を指さす。レイに驚いた表情はなく、サンダを強く抱きしめ、眉根に小さなシワが寄った。



「アルその言い方…… 、まるで彼女のせいみたいじゃないか」


「そうだとは言っていない。客観的な憶測だ。ラフマーン側からすれば、誤って捨てられたものを取り返しに来るというのは、至極と当然と言える」


「それはそうだけど……」



 彼女をかばいたくなるのは、その健気な雰囲気のせいだろうか。まるで人間みたいなその仕草と空気感に、つい感情移入してしまう。作り物と分かっていても、心が揺さぶられてしまう。



「なぁ? データを抜かれてるって言ってなかったか? それだとすでにラフマーン側にあんたの居場所はバレてるんじゃないのか?」



 サトシが慌てたような口ぶりでそう言った。確かに彼女の父は、メモリーチップを抜き取られていたと言った。



「タケル、この娘は、父親が命をかけて守ったものであろう? やらねばならぬことがあるぞ」



 ここまで話を聞いておいて、放っておくわけにもいかない。アルにそう言われ、タケルの決意が固まる。すでに彼女の居場所がバレてしまっているのなら、なんとかこの場所から彼女を連れて逃げ出せないだろうか。そんな決意をサトシに伝えようとした瞬間、外から大きな声が聞こえて来た。



「待ってください!」



 それは母ロボットの声だった。その叫び声から、間髪入れずにトタンの扉が開いた。

次回は月曜日の19時ごろ更新予定です!

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