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いかにして彼がそう呼ばれるようになったか1

俺が違和感を感じ始めたのはいつからだったか。確か、最初はトロールが家付近まで来た時だ。トロールといえばBランクに相当するかなり危険な魔物だ。背丈は平均でも5メートルを超え、でかい個体となると8メートルに到達する。こん時家に来たのは約7メートルの個体だったか。まあそこはいい。

もともと女帝家族だったのは知っていた。母は強く、父は謎の包容力を持つような家庭。

しかし俺は幼い頃から父はやるときはやる男なんだと思っていた。

この時までは。


トロールが家に接近、いよいよやばいぞといったところで腹を括ったのは、いつもの通り母だった。そん時のことはまだ記憶に新しい。


『あなた!子供達をお願い!終わるまで出てくるんじゃないわよ!』


『お前、大丈夫なんだろうな…』


『余計な心配よ。さ、早くしなさい』


『くれぐれも無理はするなよ!』


父は俺と姉3人を抱きしめ、『大丈夫、母さんは大丈夫だからな』と言い聞かせた。

しかし俺の心はそんなことより「いやあんたがいくんじゃねーのか」ということでいっぱいだった。

この時が最初の違和感。しかしうちの家庭だけが珍しい例なんだと無理やり納得し、この時はことなきを得た。


が、本格的にこの世の真実に気づいたのはそれから間も無くのことだった。うちの家は村から少し離れた山の上にあるのだが、別に村と疎遠というわけではなく、繋がりは普通にある。

この日初めて俺は姉に連れられ村に降り、近場の公園で近所の子と遊ぶことになった。

ぶっちゃけた話俺が齢5歳レベルの子達と遊ぶのは精神年齢的にかなり辛いものがあったが、まあ今そこはいいだろう。


はじめての近所の子との交流、ターニングポイントはここだっただろうか。

姉に連れられ行った公園には、姉の友達であろう女子達が既にいた。


『あ、レミ(姉その1)!お前何弟連れて来てんだよ!今日は探検するって行ったろ!』


『そうそう!男がいちゃ面倒くさいことになるじゃん!』


『うんうん。私も連れてかない方がいいと思うな』


何をぬかしてんだとイラッとくるより先に、会話の意味不明さに困惑した。


『大丈夫、別に探検に連れて来たわけではないもの』


『うーん、確かに男の子のエリオ君にそういうのは似合ってないかな?』


『だねー。男の子のエリオに探検とかは危なくて似合ってないもん。ほら、おままごととかして来なよ』


するわけがないだろう。見ると砂場には少年が3人おり、恥ずかしそうにこちらを見ていた。たしかに幼い頃は女が男勝りというのはよく聞くが、男が気弱とはあまり聞かない。それに極端すぎやしないかと思った。

そして決定的、男が女々しい、しかし男を基調とした人形を取り出して人形ごっこをし始めた時、俺は雷に打たれた。

もはや何がおかしいかは明白。

俺がはじめて貞操逆転の事実に気がついた瞬間だ。


そこから理由を突き止めるのは容易だった。

前世で古来より力が強かった男が現代でも少し上に扱われたが、今世は女が男より強いから逆転したのだ。魔法によって。

しかも今世の男と女の差は、前世のよりはるかにあいている。

前世は力が男の方が強くとも、女が喧嘩とかで勝つという話はよくある。それは技術面だったり、単純に女の方が鍛えてたりで簡単に覆せるものだ。

しかし今世はどうだ。男と女にあいた魔法という存在の差は、埋めるには広すぎる。

地力が全く違うのだ。

もしこの世界で男vs.女をしようものなら、瞬間的に男は駆逐されるだろう。


だからと言って俺は劣等感はなかったし、魔法を使いたいともあまり思わなかった。姉は溺愛してくれたし、友達ともうまくやれた。

そんな俺にまたしてもターニングポイントが訪れる。


『エリオ!それ、魔法じゃん!』


『しかも、ファイアね。』


『さっすがー!エリオ君はやっぱり私の弟だね!』


『それは語弊があるわ。長女は私なのだから私の弟よ』


『何言ってんのー、エリオ君と一番仲良い私の弟だからこそだよー』


『そんな事実はないし、なにより意味がわからないわ』


いや意味以前にどうでもいい。友人も顎が外れるほど驚いていたし、父もしばらく固まって母が頭をチョップするまで復活しなかった。俺は最初これはすごい魔法なのかと思った。

が、違った。

姉達と比べて見た結果、俺の魔法はゴミカスだったことが判明した。後で知った話だが、姉は俺と同い年の頃に俺の数倍の規模で魔法を使いこなしていたらしい。俺だけが特別などということはない話だった。

しかしそれでも世の男と比べたらかなりの素養の持ち主だそうで、来年に控えた学園の入試を急遽変更。姉達が通う"ローリアナ学園"に入りなさいと親の強い勧めにより、偏差値と比例して勉強量が跳ね上がった。

姉達は俺が同じ学園に通うことを半端なく期待したらしく、3人で半ば取り合う形で勉強を教えて来た。3人とも一長一短の教え方をしてくるので、俺としては協力して教えて欲しかった。

姉達が優秀だったのか、運が良かったのか、俺は一応その年にローリアナ学園に合格した。どうやら実技で行った魔法がかなりの高レベルだったらしい。あくまで男の中でだが。

こうして、俺は春からローリアナ学園に通うこととなった。

ローリアナ学園は寮制で、1年のうち節目で家に帰宅、それ以外は基本的に寮で生活というのが決まりだ。まあ、姉達は普通に破ってよく帰ってきているが…。

自分達が勧めてきたのに子供が全員寮に行ってしまうことに涙ぐむ父、珍しく少し悲しそうな顔をする母を見て本格的にめんどくさい両親だと思った。




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