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古傷が痛む

──私の古傷が痛んだ


入る前から嫌な予感を感じ取っていたからだ。


私は恐る恐る玄関のドアの鍵をはずし、開けた。


気が付いたら病室にいた。



──私の背中の古傷が痛む


同時に頭も痛い。


見回すと、近所のおばちゃんと警官、医者が取り囲んでいた。


みんな無言で下を向いている。


…いつものように学校から帰り……


ドアを開けた後……中に入って寝室で見たもの…。


目に入ったのは血だらけの両親だった。


母が、父が、無残な姿をしていた。


瞬間、叫んで倒れ込んだ。


その後聞こえたあの足音と掛け声は、


近所のおばちゃんのものだったようにも思う。


警官が促し、私はついて行く。なおも追憶は続く。


うちは共働きで、平日は二人とも朝早くに出掛け、帰るのは遅い。


いつもなら帰っても二人とも居ないのに、何で家にいたんだろう……。


そうか…あの日は…私の誕生日…。


両親は、二人そろって休みをとってくれたのだろうか…。


そんなこと、今まで一度もなかった。


私より仕事優先だった。


だけど今日は違ったのだ。


なのに、二人は………。



──どうしても痛む、子どもの頃に負った古傷


それにも増して頭がどんどん痛くなる。


私は殺風景な一室に来ていた。


警察が話しかけるが、ぼうっと適当に答えた。


前から、誕生日くらい一緒に居てほしいと思っていた。


二人にもそのことは言っていた。


昨日も断られた。


だけど本当は、驚かせようとして断っていたのだ……。


今朝も、いつも通り支度をしていた。


父も母も私も。


しかし二人の支度は演技だったのだ。


私は両親から愛されていたのだ。


私は警察から開放され、親戚の家に住むことになった。


布団の中でも考える。


私は気付いていた。


悲しさの中にある満足感。


この日は初めて二つの夢がかなったからだ。


一つは、誕生日に両親が"働きに行かず"に"家に居た"こと。


もう一つは…………



──うずくのは、小さい頃に受けた虐待の古傷だ
































【解説】


語り手は両親から虐待を受けていた。

『誕生日に両親が"働きに行かず"に"家に居た"こと』ということから、語り手は虐待されていたが、誕生日は両親と一緒にいたかったのだろう。そのため、すでに死んでしまっていたが、両親が家にいたことが嬉しかった。語り手は愛されていると知ったから。これが一つ目の夢だろうか。


そして、もう一つの夢は「両親に死んでほしい」「両親から離れたい」といったところだろう。


『悲しさの中にある満足感』

夢が二つも叶い、自分を虐待していた両親が死んだことに満足感を得ている。悲しさは、両親は自分を愛していたことを知ったが、すでにこの世にいないことだろうか。


『悲しさの中にある満足感』という言葉と、二つの夢が叶ったという言葉からも、悲しみ以上の満足感を得ていることがわかる。


虐待されたからこその恨み、ということだろう。


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