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3話:How much is your life?

 エイミィが連れられてやってきたのは刑務所であった。


「こ、こんなところで一体何をするんですか?」

「だから僕のスキルを見せるためだよ」

「そういうことじゃなくて、もっと具体例に教えてくださいよ……」


 慣れた様子で刑務所の中に入っていくジャンについて行きながら、今にも泣き出しそうな顔をするエイミィ。そんな光景にアイナがジャンを咎めるように見つめてくる。その視線に観念したのかジャンは軽く喉を鳴らして語り始める。


「スキルを使うには、当然のことながらレベルを提供してくれる人が必要だ」

「それってここに収容されている人ですか…?」

「話が早くて助かるよ」

「で、でも無理矢理はいくらなんでもダメなんじゃ」

「その点の話はアイナから詳しく聞くといいよ」


 いくら犯罪者だといっても、モルモットのように扱うのはどうなのかと、抗議の声を上げるエイミィにアイナがジャンを引き継いで語りだす。


「普通の囚人にはもちろんやらない。ただ、いつまでも更正しようとしない囚人は別だ」

「それってどんな人達なんですか?」

「高いレベルにものを言わせて、他の囚人や警備隊の者に危害を加えるような者達だ」

「つまり、そうした人からレベルを取ることで無害化するってことですか?」

「大まかに言うとそうなるな」


 そう、レベルという他者との実力差を明確するものがあるため、高レベルの人間が犯罪者になってしまうと牢の中に閉じ込めておくのも一苦労なのだ。


「勿論、私達も鍛えている以上生半可な囚人なら簡単に押さえられる。だが、30レベル以上の人間となると、こちらもそれなりに強い人間を常に傍で見張らせなければならない。そうなると有事の際に使える戦力が減ってしまう」


「だから僕みたいなレベル屋が、経験値をもらう代わりに囚人の無力化に協力してるのさ」


 簡単に言えば、ちょっとした裏取引のようなものだが、結果的に治安維持に貢献しているので多目に見られているのだ。


「でも、それって人権的に大丈夫何ですか?」

「問題ないよ。レベルが下がったことで健康に害が及ぶなんてこともないしね」

「勿論、レベルは下がるが服役中にも関わらず、暴力行為を働いた罰金のようなものだ。文句を言うのならば日頃の行いを恨めということだ」


 二人があっけからんに言うのでエイミィも、なんとなしに納得する。実際問題、レベルが下がると傷害等の再犯率も自然と下がるので、レベル屋はこういった方面からは重宝されている。


「なるほど、よくわかりました」

「理解してもらえてよかったよ」

「さて、話している間に着いたぞ」


 アイナの言葉に二人は足を止める。

 そこにあったのは頑丈そうな扉で、奥からは何やら怒声が聞こえてきている。


「何かがあっても、私が責任を持って守るから安心してくれ」

「あの……そう言われると逆に心配になるんですが」

「大丈夫だよ、アイナの腕は本物だから。それで、今回のお客さんはどんな人なのかな?」

「強盗殺人未遂で投獄されたバロンという男だ。レベルは35。因みに以前は窃盗罪でここに入っていたから2回目だな」

「35って、私より20以上高い……」


 やれやれといった顔で肩を落とすアイナ。

 中々表情変えない彼女がここまで感情を露にするというのは、余程腹を据えかねているということなのだろう。


「35レベルか、大分稼げそうだね」

「ほ、本当にそんな人と会って大丈夫なんですか? 35ってかなり高い人ですよ?」

「エイミィ君は心配し過ぎだよ。会ってみないことには何も始まらないよ」


 そう苦笑しながらエイミィに告げ、ジャンは扉をノックする。


「誰ですか?」

「レベル屋のジャンだよ」

「ああ、ジャンさんでしたか。早く来てください。取り押さえるのも疲れました」

「だったら、とっとと俺を離せやカス共が!」

「それをいうなら、君が大人しく罪を償ってくれれば丸く収まるんだけどね」


 中から聞こえる穏やかならざる声に、少しだけ表情を引き締め、ジャンは部屋に入っていく。そして、その後ろからエイミィと彼女を守るようにぴったりと隣に寄り添ったアイナが続いていく。


 三人が部屋に入って目にしたものは、二人の警備隊の男性に両脇を押さえられた、頬がこけ目も血走った如何にも危険といった風貌の男だった。


「君がバロン君だね」

「ああん? 誰だ、てめえ」

「僕はジャン・ジャッジマン。しがないレベル屋さ」


 バロンの人を殺すような視線にも怯むことなく自己紹介を終え、ジャンはチラリと警備隊の男性達に目をやる。すると、とっとと終わらせてくれと言わんばかりに、頷いてくるのでジャンは一つ苦笑いをしてバロンに向き直る。


「さて、自己紹介も済んだことだし、さっさと終わらせてしまおうか」

「てめえ、何するつもりだ?」

「安心してくれ。君を傷つけるしとはしない。ただ、君のレベルをもらうだけだから」


 その宣告と同時に、ジャンは右手の裾を捲し上げ、胴体の方から黒く染まっていく腕を露にする。


「え!? あの手何ですか!?」

「心配するな。あれがジャンのスキル『|Level eaterレベルイーター』だ」


 驚くエイミィへ説明する、アイナの声に呼応するように、ジャンは指の先までどす黒く染まった軽く腕を振り、バロンの心臓に狙いをすます。


「な、なんだよ、それ!?」

「さあ、よく見ておくといい。これが僕のスキルさ」


 精神を集中させるように息を大きく吐き、ゆっくりと狙い定める。

 そして、一息にその右腕でバロンの心臓を――貫く。



「―――How much is your life?」



 その言葉と共に、突き刺していた腕をゆっくりと引き抜くジャン。

 突き刺されたバロンは、慌てて自分の胸を確認するが、そこに傷はなく血の一滴も流れていなかった。しかし、確かにジャンは腕を突き刺していたらしく、掌の中にはゴルフボール程の結晶が握られていた。


「お、おい、お前…俺に何を…?」

「毎度あり、確かに君の経験値は頂いたよ」

「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ……あ? なん…だ。体に力が入らねえ…?」


 何が起きたのか理解できずに、ジャンに殴りかかろうと暴れるバロン。

 しかし、先程までは警備隊の拘束も破りそうだった剛力も影を潜めている。

 今では暴れる子どもを抑えるような目で、警備隊に見つめられるだけだ。


「慣れるまで時間がかかるけど、害はないから安心していいよ」

「慣れるだと?」

「そう―――レベル1の人生にね」


 その言葉でバロンは全てを理解する。

 自分はこの男に自らのレベルを、人生(・・)を奪われてしまったのだと。

 その余りの衝撃に叫び事も出来ずに呆然としたまま、彼は警備隊に引きずられ、再び牢の中に連れていかれる。


「これで今日は終わりかい、アイナ?」

「ああ、毎度悪いな。経験値はいつものように持って帰ってくれ」

「助かるよ。さて、エイミィ君、一度店に戻るとしようか。詳しい話は歩きながらするとしよう」

「あ、はい」


 アイナに軽く会釈を済ませると、ポカンと口を開けていたエイミィを呼んで帰り道を歩き出す。


「えっと…今のがスキルなんですか?」

「そう。あれが僕のスキル『|Level eaterレベルイーター』だ。能力としては相手の経験値を吸収・固形化するもので、相手の心臓を貫くことで発動する」

「心臓を貫くってなんだか物騒ですね。ビックリしちゃいました」

「あはは、よく言われるよ。まあ、普通のお客さんにはもっと穏便なやり方があるから安心して」


 それを言われると困るといった風に、頬を掻きながら笑うジャンに、エイミィは見た目はともかく便利なスキルだなと思う。レベルを奪えるのだから、モンスターなども強制的にレベルを下げて戦えば簡単に倒せるのだから。


「私も取得した方が良いんでしょうか?」

「それはお勧めしないね。このスキルはこれ1つ以外覚えられなくなるから」

「ええッ! 他のも全部消えちゃうんですか!?」

「残念なことにね。ま、人のレベル(人生)を奪うんだから軽くはないってことかな」


 あっけからんと告げるジャンとは反対に、エイミィは飛び上がらんばかりに驚く。

 レベルが上がればスキルポイントが溜まり、それを使用することで魔法や攻撃技などのスキルを覚えることが出来るのだが、ジャンはそれを全て捨てているというのだ。


 確かに、無くても生きてはいけるものだが、全てを捨てるというのは生半可な覚悟ではできないはずだ。一体、何を思ってこのスキルを取ったのかと聞いてみたくなったが、喉元まで出かかった言葉を飲み込む。人の過去を詮索するものではない。


「さて、これでスキルと仕事内容の説明は大体終わったかな。初めに説明したように、君には接客や店番、後は事務処理の手伝いをしてもらうことになる。そこまで責任がかかるような仕事はないから、その点は安心していいよ」

「あ……はい」


 言われて初めて、自分がバイトの件で来たことを思い出すエイミィ。

 そこで改めて考える。

 今までの見たものは驚くようなことばかりだったが、特におかしな内容は無かった。


「時給は募集用紙にも書いていた通りに2000ゴールドだ。さて、受けてくれるかな?」


 そして、何より給料が高いのは魅力的だ。

 上司のジャンも特に危ない人間という印象は無い。

 故に彼女は決断した。


「はい、これからよろしくお願いします―――店長!」

「ああ、よろしく頼むよ、エイミィ君」


 ぱあっと、顔を輝かせて笑うジャンにエイミィも笑い返し、握手を交わす。

 この瞬間が、彼女が様々な人生と出会う物語の幕開けであった。


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