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彼女の世界

 賭けると宣言した幸姫(こうき)は、それから大人しく話をしてくれた。


「私の季ノ国は、近隣では最も力がある国で、首都である季の他に、6つの街があります。四代も続く有力なボスがおり、争乱も少なく物資も比較的多く、上手く運営されています」


「ボスというのは王という意味だろうか?」


「王? 始めて聞く言葉ですが、どういう意味ですか?」


 さっきのホテルの例を考えると、『王』が訳されないってのに何かネタがありそうだぞ。


「うーん、こっちの世界の『王』って言葉は、非常に一般的な言葉で、実は凄く意味の幅が広い。

 四捨五入して言うと、その国で一番偉い人で、基本その国の人は『王』の命令には従う必要がある。また、親から子へと『王』の役目を世襲する。というか、『王』の血筋以外の者が『王』になる事は出来ない。そんな感じの言葉だな」


「前半は、ボスと同じですね。でも、後半は何を言っているか分かりません。その『王』と呼ばれるボスが、子供を次のボスにしようとしているという意味ですか? ボスは、普通にそれを願うと思います。でも、それが出来るかどうかはボスと子供の器量と運次第です」


「ボスは世襲されない事が多いの?」


「自慢しているように聞こえるかも知れませんが、季ノ国のように4代も世襲出来るケースは、歴史上も滅多にありません」


「一寸待って、世襲されない場合、ボスはどうやって決めるんだ? 選挙とかするのか?」


「ボスを決める選挙??? そんなの成立する訳はないでしょ。何を無茶苦茶な事を言っているのですか? 夢想家は凄いおとぎ話を作ることがあります。でも、そこまでお花盛り盛りのファンタジーな設定は聞いた事がありません」


 幸姫が何を言っているのか判らない。俺たちは、何か奇想天外な小説について話し合っていたのか?


「世襲でも選挙でもないとすると、一体どうやって???」


「普通は殺し合いです。非常に有能なボスの場合は、見せしめの殺人と利益誘導でケリを付けます。酷い場合は、何年もボスが決まらず、延々と殺し合いが続きます」


 何というバイオレンス……幸姫の世界は、想像以上に殺伐としているようだ。余りの話に、俺は絶句してしまった。理解も想像もしたくないよ。

 そうしたら、幸姫は俺の身体全体を舐めまわすように見てから言った。


「驚いているようですが……この一億二千万人もいるような国のボスはどうやって決まったのですか? 若しかしたら、国の意味合い自体が違うとか……」


 絶句している場合じゃない。少しでもネタにするんだ!


「この日本という国には、一番偉い天皇陛下というお方と、一番実力のある内閣総理大臣という人がいる。

 天皇陛下は世襲だ。内閣総理大臣は、形式的には天皇陛下による任命、実質は選挙により決まる。

 幸姫さんが、お花盛り盛りファンタジーという、ボスを決める選挙を普通にやっている」


「頭が痛くなる。そもそも、ボスを決める選挙を取り仕切る人は誰なのです? そんな事が出来る人が居るなら、その人が本当のボスでしょ?


 あ……そういう事か、選挙前に死体を並べて、投票者全員を脅迫するのですね。そうかそうか、候補者同士が殺し合って一人に減った後なら、そうやって選挙を成立させる事が出来るのですね。

 でも? そんな事をして何が嬉しいのですか?」


 コッチの方が、頭痛くなるよ。俺は、一生懸命に総選挙や衆参議院、首班指名選挙について説明した。


「つまり、ボスになるために命を懸ける必要などない、ここはそういう、究極のお花畑の国だ。ケダモノはそう言いたい訳ですね。  ふ・ざ・け・る・な

 でも、自分の目が曇っているとか、ケダモノはマジで人間でない──例えば超高級な人形──と考えるよりは、異世界で何か常識が違うと考えた方が楽ですね。今は、其方に賭けましょう。ケダモノに、騙されていたとしても、対策は無いのですから。

 そういえば、お腹が減りましたね。何かお願いできます?」


「ああ、昼飯にしよう。チャーハンでも作るよ。そういえば、何か食えない食材とかはないか?」


「何でも食べますよ。それと、どんな不味い物でも、不平を言わずに食べる事位は出来ます。そう躾けられていますから」


 レトルトのチャーハンを作って、テーブルに運ぼうとして、ハテ? 困った。


「テーブルで食事をすると、下半身が隠れるのだが、幸姫の国では食事中に会話をする事は問題ないのか?」


「??? さっきの場所に透明なテーブルがあったでしょ。何をトンチンカンな事を言うの? 季ノ国でも、食事中の会話は重要よ。下手をしたら最も重要な事かも知れない」


「透明なテーブルを使うのか、会話中は全身を見せる事に拘るんだな」


「当たり前でしょ。足の指先以外の全ての動きを制御して、反意を隠してボスを奪い取った例もあるのよ! ボスに近い者ほど、身体を隠すのは非常に不躾な事になるわ。私なんか、年に一度は裸に近い格好でボス──私のお爺さんだけど──の前で反意が無いか宣誓する必要があったのよ!」


 は⁉ 何て羞恥プレイ。どんな世界なんだ、それは?


次は「季ノ国の統治方法」です。

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