彼女の拘り
彼女の拘りは、この話の一方のテーマに繋げていく予定です。
俺の家は、古くてぼろく見えるが、一軒家だ。上手い事、二束三文で買った。自慢の寝床だ。
車を留めて、彼女に付いて来るように言って、玄関で靴を脱いだ。
そしたら、何故か彼女が玄関の外で、俺を睨みつけている。
「さっきから、何て時に話しかけるのですか? 余りにも失礼じゃありませんか」
彼女の世界では、自動車運転中は厳格に私語禁止なんだろうか? でも、此処は地球だ。早めに地球の常識に馴染んで貰う必要がある。
「悪かった。だが、幸姫さんの世界と違って、此処では運転中に喋ったって誰も咎めたりしないんだ。許してくれよ。それより、中に入って寛いでくれよ。もし、ホテルの方が良いなら、手配するから、茶の一杯位は飲んでってくれよ」
「危険は無いのですか?」
まあ、不安だろうな。ボロ屋だし。
「幽霊屋敷とか貶される家だが、2年住んでみて、幽霊に出会ってない。内装は、業者を入れて綺麗にした。職業柄、見かけよりセキュリティーにも気を使っている。普通の場所よりは安全だ。出来れば、俺を信じてくれ」
しかし、彼女、話している間、もの凄く忙しく視線を動かすな。何か疚しい事とかあるんかな。
「判りました。ただ、言っておきますが、私は空手の達人です。下手な事をしたら容赦しませんよ」
へえ~、異世界にも空手ってあるんだ。
一瞬、もの凄く怪訝そうな顔をしてから、彼女は家に入った。キチンと靴とかも脱いでくれる。生活習慣とかは、日本と近い世界だったのかな。
しかし、一つ一つの仕草が凄く可愛い。上手く、此処に住むように誘導出来ないかな。そして、徐々に親密になって、何れは……
なんて夢想を一寸したら、彼女が冷たい目で言い放った。「け・だ・も・の」
しかし、彼女凄く鋭いな、まるで心の中を読めるようだ……いや、異世界からの転移者だ。そういうチートがあるかも知れない。
「若しかしたら、心の中が読めるのかい? それだったら、悪いが少し我慢してくれよ。可愛い女性を前にして、妄想しちゃうのは、男の本能なんだ」
彼女は、眉根を思いっきり寄せて、激しく視線を動かした。股間を見られるのは判るが、足先なんて何を見ているんだ?
「心の中が読めたら、こんなに苦労しません。この国には、そんな人がいるのですか?」
「俺が、知る限り、直接心の中を読める奴はいない。君みたいに鋭い人は、幾らもいるけどね。まあ、余計な事だった。中に入ってくれ、何が飲めるか分からないから、色々準備する。一杯のんで落ち着いてくれ」
俺は、キッチンに移動して、ソフトドリンクを何種類か用意して、それぞれの特徴を説明した。
「君の世界の常識が分からん。先に、毒味として一口飲んだ方が良いのか、その逆か、リクエストがあったら言ってくれ」
彼女は、さっさと、一口ずつ飲んでから、意を決したように話しかけてきた。
「こんなに、色々の飲み物が、常備されている。それに、警察の態度、若しかしたら貴方は、物凄く有力な一族の一員なのですか?」
異世界だから、経済、社会情勢は全然違うんだろうな。
「いや、俺には一族どころか身寄りが無い。
飲み物の種類は、この世界と言うか、この国では此れで普通だ。まあ、稼ぎは良い方だし、仕事がら警官の知り合いも居る。でも、有力者には程遠いぞ」
「そうなのですか。ところで、ここは何という国でどのあたりにあるのですか? 可能なら、帰還する手段を考えてみたい。言葉が通じるので、それほど遠い訳は無い筈ですし」
「うん? 気付いてないのか。恐らく、此処はトンでもなく遠い場所だぞ。ついでに、言葉は通じていない。幸姫……って呼んで良いか……は、此処の言葉を喋っている訳ではないし、俺も幸姫の国の言葉を喋っている訳じゃない。口をよく見るんだ。
いぬ・ねこ・とり……」
「え・え・えぇぇぇぇぇ」
自動翻訳に気が付いたのか、彼女は、驚愕の声を上げた。ショックだろうな。
「一体、どうやっているの? まさか! 喋るための口が別にあるの⁉」
俺を何だと思っているんだろうか。
「そんなもの無いよ。ほら、何なら裸になっても良いぞ」
そう言って、おれは彼女の前で一回転した。そうしたら、彼女は俺の喉と頬に手を当てて言った。
「さっきと同じことを喋って下さい。本当に、口から声を出しているのか確認します」
うわ。顔が近い。見れば見るほどタイプだ。たまらん。
「いぬ・ねこ・とり」
「どこを見ているのですか、け・だ・も・の」
ついつい、服の隙間から見える胸に視線が流れてしまった。
「私が、もの凄く不可思議な目にあっている事は良く判りました。何か判っているようですが、教えてください。誤魔化しは許しません」
彼女は、3歩下がって、胸をブロックしながら、説明を要求した。
「もちろんだよ」
そういって、俺はテーブルに座った。
「そうやって、直ぐ誤魔化そうとする」
? 俺、まだ、何も話してないんだが?
「単に、テーブルに座っただけだろ? それとも、其方の世界では立って喋る掟でもあるのか???」
「惚けないで下さい。誤魔化す気だから、体の大半を隠す。私を子供とでも侮っているのですか?」
何を言っているんだ? 全身が見えていないと困るのか? 異世界は不思議だなぁ。
「判った。あっちのソファーで話すよ。それで良いか」
そして、俺と彼女は、リビングに移動した。
移動しながら、デズモンド・モリスの「ボディウォッチング」を思い出していた。嘘による表情の変化を隠そうとすると、身体の別の場所に不随意運動がでる。
若しかしたら、そういう事が見えるのが普通なのだろうか、だとしたら凄く変わった世界だなぁ。
次は、「同居する理由」です。
作品のテーマに絡めて、同居する理由を作ってみました。




