姫の自立と真情
残虐な話があります。
作者は自分の世界が好きなので、ついつい季ノ国を落としたくなるようです。
その後、色々あったが、1週間で退院し、日本に帰国できた。有難い事に、入院中に書いた手記が売れた上に、俺の本も増版が掛かった。ケガの影響で、仕事に穴が開く分を補填できそうだ。
今、姫と二人でシャレたレストランの個室で食事をしている。気分は、完全にデートだ。このまま、我が家にお持ち帰りと考えるとムフフフフ、幸せだ。しかし、食事中、姫が意外な事を言った。
「あなたを愛している。でも、私は、安いアパートを見つけて、一度引っ越すことにする。このまま一緒に住んで居たら、自立した事にならないから」
「……俺の事……まさか……そんな筈は」
「それ以上言わないで、『あなたを愛している』と言ったでしょ。真情を語っているのに疑われるのは、傷つくのよ」
「でも、暫く会えなくなるんじゃないか?」
「そうね~、うーん。独立したら財政的に苦しいから、あなたの都合で良いから、夕食とか奢ってよ。多分、暫くはケチケチの食生活になるから、週一回でもあなたの奢りで精の付くものが食べられたら嬉しい。どの程度奢ってくれる?」
うぅ、実は俺も財政的な問題を抱えているんだ。
俺の顔色を読んで、姫は続けた。
「それなら、週一回は誘ってね。誘いが無くなったら、愛が無くなったと解釈するから。栄養が十分で無いと愛だって育める訳はないので。ああ、そうだ上等な物ならお酒付でも良いわ。此方の世界のお酒についても勉強したいから」
男は甲斐性だ。金の事で、女を逃すのは男の沽券に係わる。
「姫、嬉しいよ。俺も、姫の事を愛している。美味い食事と酒で、モット親密で深い関係を育んでいこう」
「け・だ・も・のw でも、私が愛した、ケダモノさん」
それから暫く恋人同士の会話を楽しんでいた。会話が途切れた時、姫が意を決したという感じで、別の話題を持ち出した。
「あなたに聞いて欲しい。聞いた上で、私をあなたの女にするか決めて欲しい。私の季ノ国での過去の話よ」
何だ? 男性経験とか婚約者とか? まさか、子供がいるとか?
「け・だ・も・の! 馬鹿らしくなる。彼方に、どんなグチャグチャ、イチャイチャな仲の男がいても、関係ないでしょ。それに、信じて貰う必要は無いけど、あなたが最初の男だわ。キスも初めてだった。
そうじゃ無いの、季ノ国の魔術の話よ。季ノ国には、実は魔術がある。多数の生贄を必要とする儀式、だから滅多に使われない。でも、季ノ家は、何度か魔術を行使して大きな利益を得て来たわ。
別に、此方の小説にあるような火の玉を出したりとかのツマラナイ物じゃない。真に価値ある知識を得る魔術なの」
「預言みたいなものなのか?」
「神は関係ないから、その言葉は不適切だわ。でも、広大な知識体系を確信を伴って入手できる魔術だから。神が関わらない事を除けば、預言に近い。
少し、話が逸れたわね。
今、季ノ国は、大きな難題に直面している。季ノ国が大きくなりすぎて、季ノ家だけでは統治の限界が来ている。さらに、季ノ家も大きくなりすぎて、ボスによる統率に限界が来ている。それを、解消するために、私が暗殺される3日前に魔術が行使された」
姫は、俺と見つめ合ったまま、暫く沈黙した。そして、俺の手を取り、姫の左胸に当ててから、話を続けた。
「これから、事実を話す。あなたは私を悪魔と感じるかも知れない。でも、私に対する情欲だけでも残ってほしい。
その魔術では、何年にも渡って溜め込んだ100人の死刑囚を生贄にした。ボスの代替わりの為の示威行為も兼ねて、盛大に生贄の儀式が行われた。季ノ家は恐ろしい、ボスが命じれば、少女でも憐れな命乞いを無視して、無慈悲に刃を振る。それを示すために、季ノ家の若い女性が総動員された。
事前だろうとその場であろうと、怖気づいて刃を振るえなければ、家族ごと季ノ家から外されて、身分が不安定になる。だから、どの娘も必死だった。
でも、訓練もせずにトドメをさせる者は稀だわ。重症を負わされた生贄にトドメを刺すのは、荒事に通じた数名、私もその一人だった。
この儀式で願ったのは、『統治の限界への方策』だったの。多分、私が世界を渡ったのは、この魔術の影響だわ。だから、魔術の力で季ノ国に戻される事になると思う。それが、何時なのかは判らないけど」
おぞましい話に、俺は動揺している。それが、胸に当てた手から姫に流れ込んで行くような気がする。何を言っても嘘は一瞬で見抜かれるだろう。
「そんな事は関係ない。俺は、姫を愛している。姫が欲しいんだ」
俺は、この世界の作法に従い、嘘を言った。今は嘘でも、貫けば真実になるのが、この世界の道理だ。
「ありがとう。でも、私の真情は季ノ家の作法でしか返せない。今からの言葉、他家から、婿を迎える場合のテンプレなのよ。でも、嘘は混じらないから、誤解しないで。
あなたの嘘を受け入れる。何時か我が家への恐怖を乗り越え、嘘を誠とし、幸せが末代まで続く事を願う。私も、その実現に最上の誠意を捧げる。
永遠の愛を誓うとは、言えないし、言わない。愛が移ろいやすい事は叩き込まれたから。だけど、誠の誓いを捧げる事は可能、そう躾られたし、裏切られたら殺せば良いだけだから」
希ノ家の婚約か結婚の誓いの言葉なのだろうが、重すぎるぜ。
次は「エピローグ」です。今日中に投稿します。




