教育の効果と成立しない理由
私は、国家ってのは何かの「共通幻想」が無いと成り立ちえない。合理性だけでは、存在しえない。そういう感覚を持っています。ここは、その感覚が正しいと思って書いています。
なお、最初にそんなアイデアに触れたのは、司馬遼太郎先生の確か「この国のかたち」だったと思います。国が成り立つためには、圧縮空気みたいな物が必要と、そう書いてあった記憶があります。(何十年も前に読んで、今手元に無いので、記憶違いの可能性はありますが)
ホテルに帰ってから『学校』と『教育』の概念について、激しく激論を交わし、俺たちは疲れきった。二人の心を和ませるため、夕食後、軽く抱き締め合ってから、風呂を浴びた。
そして、ダブルベッドで横になりながら今日の議論を整理する事にした。
「なあ、俺の女になってくれよ。生涯大切にし続ける。決して、裏切ったりしないから」
俺は? 何を言っているんだ! 全く関係ない話だよ!
「ありがとう。何度目かのプロポーズの言葉と受け止めておくわ。でも、今日は弱気ね。心の溶かし方が足りなかった? 性欲処理が必要な事は分かっているから、キチンと対応したでしょ?
プロポーズに対しては、何度も説明した様に、ノーコメントを貫くしかないの。私も傷付きたくは無いの。あなたには、私が本当の事を言っているか視えない。
あなたの誠意に応えて、仮に私の真実の愛で応えた瞬間に……疑惑の目を向けられたら……心がボロボロになる。
躰の貞操を捨てる事の比じゃないわ。
あなたが、私を鳥籠から完全に解放したと確信が持てるまで、ノーコメントよ」
そうだ。問題なのは俺の方だ。後は、信じて、俺の性愛の全てを姫の前で曝け出すだけの話だ。でも……怖い。嫌われたくない。
「ごめん。議論が激しくて気弱になってしまった。必ず、姫を自立させて、そして、け、結婚してみせる」
「ノーコメントよw
では、本題に戻りましょう。
この世界で繁栄している国は、幼い子供達を集めて、共通の事を教える『学校』と呼ばれる教育機関──私に言わせれば洗脳だけど──を持っている。
その中で、法律の重視や職責の重要性も教え込まれる。この理解で正しい?」
姫が、右手で俺の手を握り、左手で俺の胸に手を添える。何時もの事だ。どうしても、真偽を確認したい場合は、姫はそうする。姫の準備が整ったのを見てから俺は答えた。
「ああ、正しい。ただ、そんなニュアンスで言われると、教師達は大いに反発するだろう」
「その教師は、何万人という数になる事もある。それで、本当に正しい?」
俺は、スマホを操作しながら答えた。
「ああ、正しい。日本の場合は、小学校の教員が約42万人、中学校の教員が約25万人居る。その他、幼稚園とか高校とかもあるから、教師の総数はもっと多い」
「ここで、私が『ふ・ざ・け・る・な』と言うから話が進まないのよね。お兄ちゃんが、私に嘘をついてないのは肌で理解している。お兄ちゃんが騙されている可能性は……無いという前提で話を進めるわ。
どうやったら、それだけの人数に同じことをさせる事が可能なの? 指揮系統を何段階も経る事になるから、てんでバラバラになるハズだわ」
俺は、答える前に姫の方に手を伸ばした。『あなたにとっては酷い羞恥プレイ。だから、お返しに私に恥ずかしい思いをさせても良いわ』と許してくれている事だ。姫に触っていると、恐怖や羞恥心を忘れて心がメロメロ溶けていく。
「だから、教師になるための教育体系もあるし、教える内容を記した基準となる文書もある。此方の世界でも指揮系統を経るごとにバラバラになるのは同じだ。けど、その対策もキチンと検討されているんだ」
「お兄ちゃんが、それを信じているのは判る。だから、信じるしか無いんだけど……季ノ国の常識からは推し量れないのよね。そうね~『士は己を知る者のために死す』今の言葉はキチンと翻訳された?」
「ああ、季ノ国でも同じ言葉があるんだな。非常に古い言葉で、人間の一つの真理を示した言葉として有名な言葉だ」
「……あるんだ……意外過ぎる。この世界では、人と人との信頼関係より、師弟関係や紙に書かれた言葉の方が重要なのかと思っていた……。そうでないと、教育体系や基準となる文書だけで、統制が取れる理由がないから」
え? どういう事なんだ? 何か矛盾でもあるのか? 俺は、意外な指摘に心がかき乱され混乱してきた。何か重要そうな事だが、考えがまとまらない。
「此処までで良いわ。これ以上やると徹夜の議論になりそうだから。でも、何か本当に重要なポイントが見えた気がする。本当にありがとう。
お礼に……今夜だけ、何を望まれても、嫌ったりしない。男としての成績表に反映しないって約束するわ。お礼が欲しいのなら言ってくれて良いわよ」
そんな風に煽られた俺が、どのような選択をしたかは……当然ながら厳秘だ。
そして、俺は、幸せな気分で、取材旅行を終え、日本に帰った。しかも、姫の自立まであと一歩という感じがする。絶対、結婚して真の意味で幸せになってやる。
今回分かった姫の世界と俺の世界の大きな違いは、莫大な人間の間に疑似的な信頼関係を構築できるような仕組みの有無だ。確かに、考えてみると変だ。何故、会った事も無い人間の言葉を信じる事が出来るんだ? 何故、口頭の約束より、紙の上の言葉を重視するのだ?
実は、俺が知らないだけで、この世界には魔術が──それも大魔術が──存在しているって事じゃ無いだろうか? だとしたら、凄いスクープだ。
どぶ板をさらって追いかけて、ネタを物にして売り飛ばしてやるぜ。
次は、「共通して出現するチートキャラ?」です。
この作品で書きたかった、テーマに直接触れます。




