幸姫の仕事振り
主人公は、どんどんメロメロになって行く予定です。もう、完全に「あばたもえくぼ」状態です。
幸姫は、努力家というだけでなく、学習能力も高い。
助手にしてから二週間、幸姫は今日も安物のスーツをピリッと着こなして、カバン持ちをしている。
実は、若手の女性技術者、研究者の日常にスポットを当てた企画を進めており、彼方此方の研究所を回っている。
女性の方が話し易いのだろう、幸姫の方が上手く話を聞き出す感じがある。それに、観察眼も鋭い。幸姫の助言を元に、追加取材のポイントを決めたら、当たることの方が多い。
何とか、クライアントを説得して、クレジットに幸姫の名前も載せたいな。
でも、上手く幸姫の自立に繋げる為には、履歴書をどう埋めるか……考える必要があるな。
今日も、帰宅してから二人で取材の作戦会議をした。可愛い事に、美味しいお茶も淹れてくれた。最近は、多少鼻の穴を拡げても、黙っていてくれる。少しは、信用して貰えたのかな。
仕事の話が終わったので、俺は話題を変えた。
「明日は、取材の予定が無いから、休みにしよう。少し買い物に付き合って欲しい。洗濯機、掃除機、食洗機を更新したいんだ。使う物の立場で、意見が欲しいんだ」
「良いわよ? 出来れば、家事の時間が節約出来る高機能な物が欲しいけど……うーん。
デートしたいなら、正直にそう言えば良いのよ。良くして貰っていると感謝しているから、お礼にデート位なら付き合うわw」
胸をズキューンとされた。そうか俺は、幸姫とデートしたかったのか。
「スケベは事は禁止ですからね。け・だ・も・のw」
鼻息が荒くなっていたのだろう、久しぶりのセリフを聞いた。
「もっとも、プレゼントによっては、キス位は考えて良いわ。減るものじゃないから」
「…………キ、キスしてくれるなら、何でもプレゼントするぞ、宝石か? ドレスか? バックか?」
何かどうしても欲しい物があるのだろう。下手な演技しか出来ないが、作戦に引っ掛かった振りをしよう。あんな、可哀想な姿は見たくない。
すると、そこには、表情を消した幸姫が居た。
「私は駄目ね。ボスの言う通りだわ。騙すべき相手に同情されるなんて情けない。
でも、欲しいの。それが何なのかは判らないけど。
幸介さんが知っている、私の自立に必要な何かが。
それを準備するか考えている事は観える。でも、同時に私を手放す事になるかもと恐れている。
直球勝負しか出来ないけど、お願い。必ず恩は返す。
命と純潔なら、純潔を捨てる覚悟はある。結婚して子供を産めと言われても……止むを得ない。従う」
可哀想に。俺がウジウジしているから、こんなに悩ませたんだ。
「悪かった。もっと前に、相談していれば、こんなに苦しめなかった。
考えていたのは、この世界での幸姫の履歴をどう捏造するか? そういう問題だ。
本来、金では買えないし、金で処理しようとすれば、別の弱みを作る可能性がある。
幸姫の素質は、高い。元の世界で良い教育と、恐らく難しい実務をこなしてきたんだろう。問題の無い履歴書があれば、俺以外でも雇う者が居るだろう。最初は、安月給だろうが、努力すれば、何れ生活を安定させられる。
俺の元から去るかもと、考え無かったかと言われれば……考えた。だが、躊躇している理由は別だ。俺でも簡単には用意出来ないんだ」
「履歴書が、そんなに難しいの? 30分あれば書けそうなのに?」
「書くだけなら、簡単だ。というか、何個か試しに作ってある。短期間のバイトだけなら、それで何とかなるだろう。でも、調べられれば直ぐに嘘がばれてしまう。
この国に住む者は、生まれた時から、役所に登録して、様々な記録が残っているのが普通なのだから。
そして、嘘がバレた時……幸姫の場合……最悪、外国からの破壊工作員の嫌疑を掛けられる。
日本語を含めた諸外国語に堪能で、観察眼が鋭く、武術の心得があり、覚悟や度胸もある。しかも日本人なら必ず知っている筈の知識が欠落している。俺が警察なら、破壊工作員の潜入を疑って、徹底的にマークする」
「そして、『職責』のギアスを掛けられた何十万もの警官や『刑法』を支持するさらに大勢の国民に追い回されるのですか……絶望的過ぎますね。何か良い手は無いのですか」
「俺は、社会の裏も知っている。上手に履歴を捏造するような業者も知らないわけじゃない。彼らなら、怪しまれない、簡単に調べただけでは嘘がバレない、そういう履歴を作る事も可能だろう。タダな、プロだけに、要らぬ所まで看破される危険があるんだ。
履歴を捏造したいなんて依頼は、結婚するために売春婦だった履歴を抹消したいとか、良い仕事に就きたいから見栄えの良い履歴にしたいとか、そういう話だ。
履歴が無いので1から全て作ってくれ。
あまりにも、怪しすぎる依頼だ。彼らだって、破壊工作員の手引きなんかしたくない。警察と国民を本気で敵に回すようなトラブルは、勘弁してくれだ。だから、仕事を受けると同時に、徹底的に調査するだろう。そんな事されたら真相を看破されない自信はない」
「難しい課題なのですね。でも、今の話だと、現時点でも相当問題なのでは無いですか?」
「確かに、そうだ。
幸姫の実の両親がロクデナシで、学校にも通わせずに日本中を連れまわしていた。更には、外国にも密入出国を繰り返していた。
今の状態だと、こんな説明しか無い。だから、早めに何らかの手を打たなきゃいけないのは事実だ」
「私の為に、その手を打って貰えませんか。お願いする事しか出来ないけど、お願いします。どうか私を憐れに思って助けてください」
泣いて懇願している幸姫を見て、俺は心を抉られて狂いそうだ。えーい、ウジウジするのは止めだ。危ない橋だろうが何だろうが渡ってやる。
「俺が何とかしてやるから、そんなに泣くなよ」
涙の奥で、幸姫の目がキランと光ったのは、見間違いじゃないだろう。でも、構わない。
次は、「法律の起源について」です。




