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獣と英雄のイクノス  作者: 樫谷 和樹
第一章 暖かさの欠片
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第一章 16話 『埋められない距離』

 お久しぶりです!全話見直しと、表現の修正を行ったので見てくれれば幸いかなあと思います。それとお待たせして申し訳ありませんでした!!(汗)それでは第16話どうぞ!

 


 「アーッハッハッハァッー!!!!!!」


 高笑いを上げながらクロアに痩せ身の男――ストリーゴが迫ってくる。突進という単純な技だが得体のしれない敵からやられると恐怖が倍増される。クロアは剣を構え、それを正面から受けようと身構えると、ストリーゴは直進するのをやめ、急に左へ飛んだ。

 次の瞬間、ストリーゴが回避行動をとった地面から火柱が立ち上がる。


 「ま~たあなたですか? 私はそこの少年に用があるんです、邪魔しないでもらいたいっ」


 苛立つ様子を隠しもせずにログを睨みつける。そのログは不敵に笑いながらも、内心ヒヤヒヤしていた。


 「やっぱりあいつ魔力感知に優れてやがる。こりゃ俺の苦手な相手だ……」


 二回、ログは不意打ちの赤の魔術をストリーゴに放ったが、一回目は相手の魔術で作られた岩の鎧で防ぎ、二回目はおよそ放つであろう場所の魔力の高まりを感じ取り避けた。無論ログとて悟られないように魔力の動きを最小限に抑え、次こそはと挑むも失敗。こういう手合いはログの苦手とするところだった。


 「魔術による不意打ちはどうやら無意味みたいだから、武闘派お二人に任せるぜ。俺は後ろから魔術で援護する」


 「正直、あなたの魔術で私たちが焼かれないか心配なんだけど、しょうがないわね。クロア、いける?」


 行ける?と言われてもクロアは対人の実戦経験はほぼゼロといってもいいぐらいだ。ワイバーンに襲われたときの謎の剣技は今でも感覚として残っており、発揮できると思うが、まだ体がついて行ってないような気がしていた。そんな付け焼刃の状態でセフィラと連携できるか心配だが覚悟を決めるしかない。


 「やるしかないからね。なるべく邪魔しないようにするよ。あとログ、僕も焼かれるのは遠慮したい」


 そんな二人の軽口にログは苦笑いしながら、しかし多少の怒気を含ませて返答する。


 「お前らっ、俺の魔術もちったぁ信用しやがれ!焼かなきゃいいんだろ!《エム・ベリル》!」


 ログは手をストリーゴに向け魔術を放つ。先ほどとは違い炎ではなく風を司る緑の魔術。渦巻く大気が弾丸となって突き進む。

 

 「ハハっ!そういえばあなたっ、マルチカラーでしたねっ!!」


 とっさに岩の壁を前方に出現させ、風の弾丸を防ぐ。岩の壁をガリガリと削りながらも、やがては消えてしまう。魔術を放つことは分かっていたストリーゴだったが、ログがマルチカラーだというのを失念していたのだが防がれてしまった。ストリーゴはにやりと笑みを浮かべる。

 しかしこれがログの狙いでもあった。ストリーゴは魔術で岩の壁を前方に作った、ということは必然的に相手を視界から外すというわけで……


 「ハッ!!」


 クロアが岩の壁の横から躍り出る。剣を振り上げストリーゴ目掛け切りかかるが、クロアが感じた手ごたえはとても硬いものだった。やはり、というべきかストリーゴの手は岩に覆われ、その手でクロアの剣を掴み、身動きが取れなくなる。


 「ワタシの魔術はそんな武器では到底壊せませんよ~?」


 「なら、これならどうかしら? 【時限を謳いし者(クロノス)】」


 セフィラの異能が発動する。【時限を謳いし者(クロノス)】は対象の時間を遅くする力、これでストリーゴの動きを遅くさせその隙に攻撃しようという作戦だったが。セフィラの異能を受けているストリーゴは何故か笑みを深めていた。


 「あなたの異能も見ていましたよ。時間を遅くする力、とても脅威だ、恐ろしい。しかしそれは彼我の実力差があってこそ力が発揮されるものでは? あなたがこの力をグレムルに使った時、魔力がグレムルの体を包んでいるのが私には見えました。恐らく魔力事態に異能が宿っており、魔法抵抗が弱いグレムルには通じるのでしょうが……」


 狂人だと、何も考えていない奴だと決めかかっていた相手は、驚くほどの観察眼の持ち主だった。たった一回、たった一回見られただけで大体の事を見抜かれたセフィラは、冷や汗を垂らす。


 「ボクには効きませんねえええええ!!」


 「うわあっ!」

 「きゃあっ!」


 ぶんっ!と握っていた剣をクロアごと持ち上げ、セフィラに投げつける。クロアは唯一の武器を手放すわけにもいかず、なされるがままだった。二人は壁まで飛ばされる。ストリーゴの見掛けにもよらない膂力があるようだった。


 「クロア! セフィラ! くそっ《アルム・ランケア》!」


 空中に生み出されたのは円錐状の岩槍。その数は六本、人よりも大きいそれは当たるだけで体が貫けるだろうと思えるほどの鋭さがあった。それを見てもストリーゴは笑みを崩さない。


 「このワタクシに魔術で、しかもオレの得意とする黄色で挑むとは愚かなりっ! 《アルム・ランケア》!!」


 ログは目を見張る。ストリーゴが生み出した岩槍、その数はログの倍、十二本だった。

 

「――こりゃ、まずい」


 二人同時に岩槍が射出される。ログが作り出した岩槍はストリーゴの岩槍に相殺され、残り六本の岩槍がログの体を目掛け、風を切る速さで迫ってくる。


 ――壁を作って防ぐか、いや間に合わない!


 魔術の属性、基礎四色の内、黄色は他の色とは違い大量の質量があるのが特徴だ。生半可な炎の壁等ではストリーゴの岩槍に貫かれてしまう。緑の風や、青の水も同じ結果になるだろう。なので、ここは同じ属性の黄、すなわち土壁を出すのが正解とも言えるのだが、迫りくる岩槍が目前に迫る中、六本全てを防ぐほどの魔術を作り上げることができるのか。

 しかし迷っている暇は無い。少しでもダメージを少なくできるように尚且つ素早く、魔力を練り上げ、魔術を発動させようとしたところで、横から近づいてくる影があった。


 「【時限を謳いし者(クロノス)】!!」


 セフィラが苦し気な顔をしながらも、手をかざしログに迫っていた岩槍を減速させる。次々と止まっていく中、しかし一本だけセフィラの異能が届かない岩槍があった。今、セフィラが異能を解除させるとせっかく止めた岩槍はまた動き出す。故にもう一人がその危機を救った。


 「こんっ、のぉぉおおお!!!」


 クロアが岩槍の横っ腹を剣で叩きつけ、軌道をそらす。それを見たログは、素早く岩槍の射線上から離れ、セフィラは異能を解除する。速さを取り戻した岩槍は地面に深々と突き刺さり、轟音を上げ、砂塵を巻き上げる。

 

 「いやはや、まさかあなたの異能が魔術にまで効くとは……予想外! それに私の魔術をはじくとは見掛けによらず、意外と力があるんですねぇ、ク・ロ・ア君」


 「……お前なんかに名前で呼ばれたくない」


 ストリーゴのニヤニヤした顔に鳥肌が立つ。クロアは自分でも理由が分からないが、時間が経つにつれて苛立ちを感じていた。今すぐに暴れだしたいほどに。


 「手の内を見せたくはなかったんだけど……いや、もうほとんど見られてたのよね。――これからどうしよっか?」


 「とりあえず……一時撤退だ!!《ベリル・ニンブス》」


 ログは狭い洞窟の中で嵐を発生させる。巻き上がる風は通路いっぱいの大きさでクロア達とストリーゴの間に入り、その猛威を振るう。少しでも触れればその風の鋭さに身が切り裂かれるほどの威力だ。


 「今の内だ! 走れ!」


 三人は一斉に駆け出す。しかし元来た道はストリーゴに阻まれ、ダンジョンの奥へ進むしか選択肢は無かった。


 「おやおや、行ってしまった。だが逃しませんよ……ギャハ、ギャハハハ、ギャハハハハハハハハハハハハハ!!!」


 狂気は奥へ走り去っていった三人を嘲笑で送り出していた。






 ===============




 「ちょっとログ! こっちの道で合ってるの!? こっちって逆方向なんじゃ……」

 

 セフィラはキッと睨みつけ、ログに詰問する。ログはセフィラの方を向かず、ただ淡々とダンジョンの奥を見ながら、全速力で走る。


 「……少し前にダンジョン製作者は本人の魔力に反応する非常用の出入り口があるはずって言ったよな。それを探す」


 「でも、本人の魔力にしか反応しないんじゃ僕たちが試しても意味ないよ!」


 「……一か八か、本人の魔力じゃなくても作動できるか試してみるしかない」


 それは賭けだった。ダンジョンは今まで見つかった中ではほとんどは製作者の魔力にしか反応しない仕組みだ。極まれに一般の魔力でも作動できるが、今見つかってるダンジョンの中では圧倒的に少ない。そしてここ、グリュプス・ダンジョンは未だその専用通路は見つかっていない(・・・・・・・・)

 しばらくログを先頭にダンジョン内を駆け巡ったところで、鉄で作られた人二人分の高さある大きな扉の前にたどり着く。


 「これが製作者の部屋だ、開けるぞ」


 ギギギと鈍い音を立てて鉄の扉が開いていく。ログが片手で押し開いていることから、見かけによらずそこまで重さは無いようだ。

 扉の先には広間、と呼べる程に広い空間が広がっており、四方は本がぎっしりと詰まれている棚がズラズラと並べられていた。


 「この部屋のどこかに専用出口が在るはずなんだが……」


 「早くしないと、あの男が追いつくわ。急がないと」


 しかしこの部屋にあるのは棚に収納された本のみ、クロアとセフィラは適当な本を手に取り、中を閲覧する。しかしその中身は……


 「何だこれ? 白紙……?」


 中を開いて確認するも何も書かれていなかった。これ一冊だけかと思い、他の本を確認するもその全てが白紙という異様な結果だった。


 「どういうこと? 全部白紙なら、この本の意味は――」


 セフィラが疑問を感じたところでクロア達が入ってきた鉄の扉が弾け飛ぶ。宙を舞った扉はクロア達の前に音を立てて落ちてくる。

 クロアが、セフィラが、ログが、今最も会いたくない人に、狂人に望まぬ再会を果たしてしまう。狂人は三人を見るなり、この日何度も見た、見てるほうが気持ち悪くなるような喜色満面の笑みで言葉を紡ぐ。はっきりと、耳にこびりつくかように。














 「見ぃぃーつけったぁぁぁぁああああ!!!」


 


 


 

 

 





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