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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

村人A×幽霊(仮)

作者: 朝登 優

村人A×幽霊(もどき)



 俺が生まれた時から住んでいる村はいつも平和だ。

 山に囲まれた、たんぼばかりが広がるこの村は大して人もいなければ子供もいない。が、言っておく。この21世紀。どんな田舎だろうが電気もガスも水道も通っている。

 小学校は一クラスですべてまとまっているし、中学、高校と山を一つ越えた隣町までいかないとないし、コンビニなんて隣の町にも一軒しかないけど(この村にはコンビニではなく商店がある)決してクマと戦うことも、風呂が薪なこともないんだ…っと話がそれた

 そんな平和な村の中で最近妙な噂が広がっている。


 月夜の晩に幽霊がでるというのだ。


 そんな話をいちいち信じてるのはこの村いちのバカ代表、幼馴染の勘吉だけだが。


「んなバカな話があるかよ」

「でも隣のおばばが夜中に見たっていうんだぜ」

「なんで隣のおばばが夜中に幽霊みるんだ。あのひと九時にはもう床についてるじゃないか」

「だって村長が言ってたんだよ」

「バカたれ、村長の家の隣はお前んちだろうが。お前んち、おじさんと二人だろ」


 高校の帰りに寄った商店で菓子パン買って食べながらバイクを押す帰り道が定番。

 しかし俺はできることなら総菜パンが食べたい。なぜかここにはいつも甘いパンしか置いていないのだ。


「えー?うちにおばばはいないなあ…俺また騙されたん?」

「そうだろ、村長昔からお前からかうの好きだもんな」

「ムギーなんだよーあのおじじすぐ俺にうそいう」

「ほいほい騙されるからだろ。っていうか村長若いんだからおじじとか言ってやるなよ」

「ふん。いいんだよ、俺に嘘つくのが悪いんだ」

「それだけど…あながち全部嘘ってわけじゃないみたいだぞ」


 最後の一口を口に放り込んで咀嚼していると、でっかい目をさらに見開いてぐりんとこっちを見つめてきた。

 あーあ、目キラキラさせて…こんなところ村長に見られたらまた俺がにらまれる。


 今の村長は数年前に代わったばかりの俺たちより8歳年上の幼馴染だ。

 昔から勘吉がお気に入りなのだ。つつけばすぐ泣き、騙される。そうして泣きつく先はいつも俺なのだ。勘弁してほしい。はやく収まるところに収まればよいのだ。


 正直、男同士だろうが何だろうが俺はどうでもいい。二人が幼馴染で友達なのは変わらないのだから。また話がそれた。


「俺もその噂聞いた。月夜の晩にあの使われてない古井戸に出るんだろ」

「えー?俺が聞いたのは夜中にトイレに出るって聞いたぞ?」

「お前が夜中に古井戸にいくの心配だったんだろ、落ちかねないし」

「落ちねえよ!あそこ蓋してあるじゃん!」

「開けかねないだろ、お前」

「怖いから無理」

「お前、怖い話向いてないよ」


 ため息をついたところで勘吉の家の前についた。そこでエンジンをかける。

 俺の家はここから三軒先なのだが、田舎の三軒をなめちゃいけない。原付を押しながらの三軒は地味に遠いのだ。


「今日は寄っていかねーの?」

「…お前回覧板見てないな?」

「なんよ」

「今日から見回りだよ…結構ひろがってるみたいだぜ、噂」

「見回りィ?」

「隣町のやつとか何回かうろうろしてるの見かけたんだと。悪さしないように大人たちで見回るんだよ」


 大人があまり多くないので、高校生の俺たちももれなく数に入れられてるのだ。


「ああ…放火なんかあったら洒落にならないもんなぁ」

「そういうこと。俺んちのほうから一週間おきに交代らしいぞ。村長が回るリスト持ってるだろ、あとで確認しとけ」

「わかった、サンキュ」


 まあ、一時間もあれば回れてしまうような村だ。食後の運動とでも思うことにしよう。





 田舎の夜は暗い。

 まず街灯が少ない。お店というお店もないので明かりもない。家のカギは基本かけないが夏でもない限り雨戸も閉めるから家の光はまずもれない。人もいなければ野犬もいない。だからこそ、よその光はすぐ見つかるのだ。


「今日は静かだなぁ…さくっと二手に分かれてみてくっか」

「わかったよ…まっすぐ帰って来いよ、親父」

「へいへい、そいつぁどうかな!」


 タッと走り出してしまう親父を見送り気を取り直して歩きだす。

 ありゃだめだ。今夜は麻雀仲間と夜更かしだ。いそいそしてるなあとは思ったんだあのクソ親父


「っていうかせめて古井戸あたり確認してから行けよ!結局ひとりじゃねえか!」


 自慢じゃないが俺は生まれてこのかた殴り合いの喧嘩なんてしたことないぞ。平和主義だからな。


「まったく…ん?」


 光源なんてどこにもないが、なにか気配がする。動物か?

 よく目を凝らしてみると、古井戸のふちに腰かけている人影がいた。まじか。話し合いで解決すっかなあ


 ちなみに俺は幽霊を見たことはないので基本信じてはいない。


「すみません、この村のものですが、夜中にたまるのはやめてくださー…い?」


 近づいていくと、懐中電灯の光が届いた。古井戸のふちに座っていたのはすごい美人なお


「え?あ…すみません」

「男か…」

「え?」


 いや、少し低めなテノールな女子じゃないか?美人だし低いけど


「あ、いや最近ここらへんで変な噂があって…不審火とか困るんで見回りしてるんですよ」

「えっあ、ごめんなさい、それ俺のせいかも」


 俺って言った。

 地味に傷ついた俺の純情を気にしている暇はなかった。こいつは今、自分のせいかも、といったのだから


「…あんたは?」

「俺?俺は、その…月の妖精?的な?」

「は?」

「そんな真顔しなくてもいいだろ!俺、顔はいいし。妖精でも通りそうじゃない?」

「いや、お前幽霊で通ってるんだけど」

「えっ」


 とりあえずご同行お願いしていった先は村長の家でした。




「こっここどこ?!俺どうされちゃうの?」

「いや詳しい話するだけだから。あんたあそこにいただけでなんもしてないだろ?」

「してない」

「うん、なら大丈夫。なんで最近あそこにいるのか村長まじえて聞くだけだから」

「そっ村長?」


 チャイムを鳴らして引き戸をひくと、奥から勘吉がでてきた。もうなにもいうまい


「あれ?どうしたん?」

「幽霊連れてきた」

「えっ?!まじで?初めて見た!初めまして!俺、勘吉!」

「えっはじめまして?幽霊です」

「村人Aです」


 玄関で自己紹介を済ませたところで村長がひょっこり顔を出した


「…君たちバカなことやってないで早く入りなよ」


 そんな冷ややかな目で見ないでほしい。




「えー?なんだ、あんた男の人間なの?」


 心底がっかりした勘吉の様子にどうも場が締まらない。

 居間に通された俺たちは、時計回りに俺、幽霊(仮)、勘吉、村長でソファに腰かけていた。村長の家は改築したばかりで、外観は純日本家屋だが、中は洋風なちんぷんかんぷんな家だ。ハイカラだなあ。


「勘吉、ちょっと静かにしてようか」


 村長が頭を押さえながらため息をつく。そりゃそうだ。


「で?ここ数日なんであの古井戸にいたんだ」

「あー…俺、一週間前くらいにここに越してきたんだ」

「越してきた?」


 村長が俺に知ってるか?と目配せする。あんたが知らないものを知るわけないだろう、と首を横に振る。


「……さっきの古井戸の山の上に、小さい洋館があって」

「洋館?ああ、あの幽霊屋敷か?ずっと誰も住んでなかったよな?」


 小さいころよく探検ごっこした記憶がある


「うん、多分そう。で、ここに来る前は俺、全寮制の高校に行ってて、親とは別に暮らしてたんだけど…」


 だんだん気が重くなってきたのかだんだん背中が丸くなりながらため息が増えていく様子を三人で見つめていると、観念したように続きを話し始めた。


「…だからさ、間違えたんだ、入居日」

「「「は?」」」



 それはそれは見事にそろった、は?でした。



「一か月まちがえたと」

「うん」

「親に連絡しないのか?」

「した…したら笑われてとりあえず先に暮らしとけって…無茶じゃない?まだ業者もはいってない廃墟同然の洋館だよ?この村に知り合いなんていないし、日中は学校だからいいけどあの洋館による一人?!無理無理超怖いじゃん」

「……じゃあこの一週間は…」

「…風呂は高校近くの銭湯にはいって…夜はあの古井戸あたりで時間つぶしてみたり木の下で寝てみたり…」

「サバイバルだなー!」

「人に話聞こうにもここに帰り着くころにはひとっこひとりいないし…」

「ここらは日が昇り始めると活動を開始して日が落ちると眠りにつくじじばばが多いからな」

「古井戸あたりは人が通りかかることも少ないからそりゃ誰も会えないわな…」


 そら村長も知らないわけだ。


「両親は共働きで忙しい人たちだから基本放置なんだよな…あーあの廃墟に帰りたくない!」

「じゃあうちに来る?」

「え?」


 勘吉がケロッとはいた言葉に正面から冷気を感じたのはきっと気のせいじゃないと思う。


「そういうことなら、うちに下宿すればいい」


 冷たい冷気を感じながら有無を言わせないその感じ。俺はあなたのそれが嫌いです。言わないけど。怖いし。

 基本的にはいい人なんだ、勘吉が絡まなきゃ。


「お前んち汚いじゃん!俺が一日一回顔出さなきゃ飯も食べないし」

「でも俺以外いないから気は使わないぞ」

「他人と暮らせるたまか!」


 ぎゃんぎゃん言い争いが始まると長いんだよな、こいつら


「あ、あの」

「幽霊もどき」

「せめて幽霊でとどめてくれない…?あと俺的おすすめは妖精なんだけど…」

「俺んちくるか?」

「え?」

「うちは両親健在だし、外犬のシロは人が好きでよく吠えるけど。風呂は親父こだわりのヒノキ風呂で、俺の部屋の隣は空いてるし。この夫婦喧嘩に巻き込まれるより精神的には楽だと思うぞ」

「でも、そんな一存で決められないだろ…」

「ちょっとまってろ」


 席を立って縁側に移動する。別に電波が悪いわけじゃない…一本が二本になるだけだ。圏外じゃないだけましだ。

 不安げに見つめている幽霊(仮)に手招きして呼び寄せる。呼び出し音をスピーカーにして…


『はぁい、あら?どうしたの~?』

「引っ越してきた幽霊をつかまえたんだが」

『まあ、幽霊?』

「引っ越した先がまだ使えないんだ。一か月ほど家に住まわせたいんだが」

『あらあらまあまあ~そうね、それがいいわ~今から来るの?』

「ああ」

『まあ、どうしましょう?幽霊さんのごはんあまりものになっちゃうわ』

「なにか適当に作るから。とりあえず今から帰る」

『本当~?助かるわ、じゃあ気を付けてね~』


 電話を切ると、幽霊(仮)が固まっていた。頭をなでると思いのほか柔らかいことに気付く。


「大丈夫だ。帰るぞ」

「…なあ、あんたの母親って…」

「天然なんだ。こういう時に話がはやくて助かる」

「でも父親は」

「大丈夫だ。親父の弱みはこういう時に使える」


 まだぎゃんぎゃんやってる二人を放って家を出る。


「なあ、あんたなんでそこまでしてくれるの?名前も知らないのに」

「…まあ、顔が好みだったんだろ」

「はあ?」


 深く考えるなよ。俺もまだ、これがなんなのかわかってないんだから。

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