異世界召喚編(3)
生徒達が次々と水晶に触れていく。
幸い、ここまで、水晶が赤くなることは無い。
もちろん、一樹は、もう水晶に触れてある。
水晶に触れた時、少し、水晶が黒ずみ、衛兵たちが俺を怪しむ。
というハプニングがあったものの、今まで、水晶は、赤と青にしか光らなかったため、水晶の誤認だろう。
という事で、お咎めなし。
という事になっていた。
しかし、一樹の頭には、一つの疑問が生じる。
このクラスには、不良‥‥つまり、問題児がいるのだ。
万引きや、ものを壊したりするのは日常茶飯事。学校にも来ていなかったのだが、運の悪いことに、今日、偶然来てしまった、生徒がいるのだ。
その不良‥‥赤嶺透吾が水晶に触れた時、クラスの全員が、赤くなると思った。
だが、現実は違ったのだ。
推奨は青く光り、赤嶺は、お咎めなしということだった。
‥‥あと少しで、クラス全員の検査が終わる。
一樹は、そのことに対して、一つの結論を出し終えたのは、クラスの最後のひとり、竜也が水晶に触れる前だった。
(あの衛兵さんは、犯罪を起こした記憶‥‥って言っていた。つまり、自分で、それは犯罪じゃない。と思い込めば、水晶は青く光るんじゃないだろうか?)
現に、赤嶺は、補導されても、全く反省の色が見えず、よく、態度が悪いからと、停学処分になっていた。
(‥‥っ!俺の推論が正しかったら‥‥‥ヤバイ!)
その直後、竜也が水晶に触れた時ーーー
水晶は、赤く輝いた‥‥‥‥
「っ!お前!何か犯罪を犯していたのか!」
「ひっ!」
衛兵が叫んだ。その声に竜也はビックリし、腰を抜かしてしまっていた。
(マズイ!マズイマズイマズイマズイ!
あれは、犯罪を調べる道具じゃない!罪悪感を調べる道具だったんだ!)
「竜也が?」
「ウソだろ‥‥」
他のクラスメイトたちも、同様に驚いている。
一樹だけは知っていた‥‥竜也が罪悪感を持っているわけを。
竜也の家は、父子家庭だ。
母親は、病弱だったらしく、竜也を生む時の負荷で、死んでしまったらしい。
自分が生まれてきたから、母親が死んだんだ。
竜也はそう思い、物心つく時から、ふさぎ込んでいた。
まあ、それから助けたのが、一樹だったのだが‥‥今は、そんな話は関係ないので、省略させてもらおう。
そんな訳で、竜也は、生まれたことに対して、人一倍の罪悪感を持っている。
それに水晶が反応、赤く光ったというわけだ。
「待ってください!えと‥‥」
「‥‥バルムだ。」
「はい、バルムさん。少しお話があるんですが‥‥」
「後にしろ!今はコイツの処分が最優先事項だ!王宮に犯罪者が入り込んでいるんだからな!」
「っ!その子のことでお話があると言ってるんです!」
一樹がガラにもなく、いらだちを含めた声で叫ぶ。
クラスメイトも、驚愕の表情を浮かべるほど、それは、異常な光景だったのだろう。
そして、一樹は、部屋の隅にバルムを連れ、達也に関することを、すべて話した。
クラスメイトから見れば、バルムの表情が、懐疑から、驚愕に変わり、最後には、憐憫の表情に変わっていた。
「‥‥済まなかった。君にそんな過去があるなんて‥‥俺を許してはくれないか?」
「近衛長!」
バルムの部下のひとりが、叫びを上げる。それだけ、バルムが頭を下げる事は、驚愕に値するのだろう。
そして、バルムの役職は、近衛長らしい。かなりの大物だということが、一樹には理解出来た。
「‥‥‥‥(コクリ)」
まだ、竜也は震えていたが、頷き、この事は、水に流されることとなった。
そうして、クラス全員の検査が終了。ハプニングこそあったものの、そこそこ順調にことは進んでいったのだった。