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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編小説

おぢかのクマ

作者: きらと

本作はジョークです。

 陸上自衛隊小値賀分屯地。長崎県西方の小値賀島、小値賀空港に隣接する小さな駐屯地で、元々は第16普通科連隊のナンバー中隊が期事に交代で駐屯していたが、書類上、面倒になった陸幕が第5中隊を編成、恒久的な張り付け部隊とした。定期移動の季節、部内移動とは言っても小値賀は僻地で嫌がられた。

 自衛隊には残留要員と言う物があり、長期休暇の場合は交代でとる形になる。小値賀には大規模な演習場は存在しない。その代わりに残留者は駐屯地外柵周辺の草刈りを行っていた。

 2/4期の期末、川村晃司2尉は世間から外れた夏期休暇で、久々に実家に帰る事にした。だが駐屯地を出ようとしたら正門で警衛に呼び止められた。

「川村、戦争が始まったぞ!」

「は?」

 突然だが海の向こうから小値賀島に敵が攻めてきた。敵は世界征服を企む悪のチャンアルー帝国である。

 気がついたときには小値賀島の北西部に大規模な戦車部隊が上陸していた。

 先陣を切ったのはチャンアルー帝国人民解放軍海軍陸戦隊と人民解放空軍空降兵第15軍。陸戦隊は一種の海兵隊で、装備こそ59式戦車、63式水陸戦車、77式水陸装甲車といさか古めかしい物もあるが、歩兵相手には十分な脅威となる。

 悠々と会議をしている時間が惜しい。幹部が打ち合わせをしている間に陸曹の指示で、出発準備を進められた。個人装具は鉄帽、背嚢、雑納、水筒、小銃、銃剣、救急品袋。防弾チョッキは固くて重い。余計な物は省くと言う事で、化学兵器を使えば敵自身も行動が阻害される。無駄だと判断し防護マスクは携行していない。

「敵は小値賀島空港進出を企図している。だが味方は間に合わないだろう」

 駆けつけられるのは自分達の中隊だけだ。九州の連隊本部からは、県道161号線から敵が東に進出するのを阻止しろと言う無茶ぶりだった。

「うちの中隊だけですか……」

 本土にいる連隊の本管中隊と小値賀の基通経由で、つい最近に種子島から打ち上げたばかりの衛星から敵の情報が届けられた。

 敵が上陸地域を橋頭堡として確保し行動開始するのは6時間前後と見積もられた。

 脅威は海以外にもあった。次々と飛来した輸送機の編隊は空降兵を載せている。目標は町役場周辺の制圧だった。

 空降兵は空挺部隊で、第43空挺師団(第127歩兵連隊/第128歩兵連隊/第129砲兵連隊)・第44空挺師団(第130歩兵連隊/第131砲兵連隊)・第45機械化空挺師団(第132砲兵連隊/第133機械化連隊/第134機械化連隊)、武装偵察大隊、教導大隊等から構成されていた。一度に空輸出来る兵力は1個師団が限界だが、こちらには空挺、ヘリボンに対処する余裕さえ無かった。

 空挺より先に上陸した敵の前衛は3個戦車中隊、1個機械化中隊、1個高射中隊。これだけでもうんざりするが、輸送船に乗っている本隊は6個戦車中隊、3個機械化中隊の規模だと言う。

(ここまで正確に分かっていて、なんで上陸を阻止できなかった)

 幸いにして後続の輸送船団や向かってくる航空機はすべて食い止めているので、小値賀に上陸した敵は前記の兵力だけだ。味方は迎撃だけで手一杯で、こちらにまわせる近接航空支援や護衛艦も無い。

「幸いにして敵の空挺は役場の方に降りた。此方は空港さえ確保していれば応援が来てくれる。ここは忍耐だ」

 後方の対空警戒は豪勢にも3個高射特科中隊が来てくれていた。この他に野戦特科の射撃中隊(FH-70×4門)が火力支援に到着していた。応援はそれを最後に来ていない。

「中隊長、それで具体的にどうしたら良いのですか?」

 中隊長は作戦計画の構想を説明した。

「161号線~244号線をFEBAとして1、2、3小隊を第1線に配置する」

 火力急襲地点ウリボウ、ナンキンムシ、プーサンを決定。対戦車、迫撃砲小隊も控えているが分が悪い。方針は死守しかない。戦車相手で具体的な指導要領としては、逃げるなとしか言えない。

「最悪、空港の滑走路さえ無事なら離発着ができる」

 中隊のCPはそれほど離れてはいない場所に開かれた。その他に退去が容易な赤浜海岸を患者集合点とした。

「合言葉はチリンチリン、皿うどんだ」

「了解」

 解散するとそれぞれ部下の元に戻る。

 これから準備出来しだい小隊事に指定された地域の陣地占領に向かう。中隊の内の何人が生きて再会出来るか分からない。そんな事を考えていると外に出た。強い日差しで頭がくらくらする。

 爆音と共に攻撃ヘリコプターの機影が本部隊舎の上に見えた。川村はふいに表情を歪める。見慣れたAH-1やOH-6、ましてやAH-64でも無かったからだ。

(味方ではない!)

 旧東側陣営のロシア製な機体と違った為、油断した。それはWZ-10の名称で知られる最新鋭機だった。

 隊舎に銃撃を浴びせられ外壁と窓ガラスの破片が芝生の上に飛び散った。

「糞っ!」

 僚機がモータープールから隊舎前に移動していた車列を襲っている。次々と破壊される高機動車や73式大型トラックの姿が目に映る。ロケット弾の攻撃で、給油所に積まれたドラム缶が吹き跳ぶ光景が見えた。

 隊舎前に停車していた3トン半の荷台からPSAMが引ずり出した所で射手は構える前に体を粉砕された。仲間の叫び声が聴こえたがどうにもならない。

 生活隊舎横のコンプレッサーや駐輪所の自転車も滅茶苦茶で、弾の続く限り気の済むまで破壊し尽くすと攻撃ヘリコプターの編隊は海の方に飛び去っていった。輸送船に収納されていた機体だ。さすがに航空自衛隊も九州からでは間に合わなかった。

「小隊長!」

 寝具の積載を指示していた部下の栗田隆史2曹が走って来て報告する。中隊長、副中隊長の死亡、川村が最先任で中隊の指揮を取る立場に成ったと言う事を。

「分かりました。他の小隊長には予定通り進めるように伝えてください」

 走って行こうとする栗田2曹を止める。

「それと、頭から血が出ていますよ」



 立花亮太3尉の指揮する第1小隊は総合運動公園から道路を挟んで東側に展開していた。

 ぱっと地図を見た場合、小値賀島は田んぼと畑ばかりに見え防御に向いていない様に思える。小隊OPは露天のままだが偽装網や偽装材料で極力隠蔽する努力はした。

 1Secは若者交流センターの方向、2Secは多目的グラウンドの方向、3Secは駐車場を挟んで右翼にあった。いくら旧式戦車が相手とは言っても84RRぐらいしか対抗手段がなくて不安だった。

(そして暑い。糞暑い。こんな夏場に攻めてくるなよ)

 イラク戦争の最中、Iron Fist作戦でタスクフォース3/6は12号線を中心にI、L、Kの3個中隊を並列配置し前進させた。メインの道路以外にも敵は分進して来ると言う事だが、日本の道路事情は諸外国とは異なる。狭い、そして道路以外を通れば天然の障害物となって行軍を阻害する。監視の重点は道路で事足りた。

 ディーゼルエンジンの騒音を撒き散らしながら戦車が姿を表したのは、配置が終わってしばらくしてからだった。軽油の臭いが草刈り作業を思い出させる。

(なんとか間に合ったと言うべきか)

 59式戦車の縦隊が第1小隊と第2小隊の隣接する交差点に向かってきた。立花達の後方では迫撃砲小隊も準備している。不安と緊張、暑さから汗が滝のように流れる。

 チャンアルー帝国に捕らえられると犬肉やダンボール饅頭を食べさせられ、皇帝に絶対服従の改造人間にされてしまう。

(捕虜になるなんて嫌だ)

 9mm拳銃は小銃の弾も使いきった場合、最後の武器となる。銃剣着けて戦うより一思いに死ねる等とつい楽な方向を考えてしまう。

 爆発音が意識を戻す。84RRが履帯を破壊し先頭の戦車を停車させた。まともな対戦車装備を持たない事を考えれば十分な戦果だ。「でかした!」と射手は称賛されていた。後続する戦車が停車した戦車を脇から退かそうとしている。

 火力運用計画に従って野戦特科の火力支援が始まった。敵機甲部隊の前進に対する突撃破砕射撃だ。

 確かに損害を与えてはいるが、数が多い。高々、1個中隊4門では限度があった。

(やっぱり無理だったか)

 突破の阻止は不可能、撤退を指示しようとした。



 突如、轟音が響き敵の戦車がブリキの玩具の様に次々と吹き飛んでいった。FH-70とは威力が違う。

「な、え……」

 後ろを振り返った立花は言葉を詰まらせた。

 そこには巨大なクマが立っていた。ファンシーにデフォルメされて茶色に塗装されたクマだ。手には戦車砲の様な銃器を持っている。もはや火砲と呼ぶべき大きさだ。

『待たせたな』

 そう言うと、信号機より頭1つ分ほど大きなクマは駆け出すと手に持った正式名称15式105mm小銃を射ちまくった。

「何だ、あれは」

 唖然とする小隊の前で、クマはチャンアルー軍を次々と撃破している。全滅覚悟の悲壮感は完全に吹き飛んだ。

「助かった?」

 陣地内に歓声が沸き起こった。

 それは戦時中に日本が極秘に開発していた人形兵器を基に、改良を重ねて採用された日本防衛の決戦兵器、クマ五郎であった。

 可愛い見た目に反してクマ五郎は、東京大阪間を1時間で走破でき即応能力は高い。その火力も戦車中隊を一蹴し戦果拡張する余力さえあった。燃料も醤油とウイスキーの混合で、ガソリンや軽油よりは手に入れやすい代物だった。

 夕日が傾きかけた頃、小値賀島の沖合いに停泊していたチャンアルー帝国海軍の移動要塞、潜水空母「ペキンダック」は大爆発を起こして沈降している。他の船もクマ五郎の仲間達によって沈められていた。

「おのれ、小日本。今回は引き下がるが次も同じとは思うなよ!」

 小値賀島侵攻の指揮官ヤン暗黒上将は捨て台詞を残すと迎えのヘリコプターに乗って飛び去っていった。こうしてチャンアルー帝国軍は一掃され小値賀島は守られたが、第2、第3のチャンアルー帝国軍が送り込まれクマ五郎の戦いが始まるのであった。

最初は空港まで下がる戦いの予定でしたが、無茶苦茶な展開で落ちをつけました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >醤油とウイスキーの混合 まずそう(小学生並の感想) 発泡酒かチューハイじゃダメ?
[一言] 読ませていただきました。 真面目な乗りかと思ったら、目が点になるような展開に良い意味で開いた口がふさがりませんでした。
2015/08/08 17:21 退会済み
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[一言] ガチミリ小説だとおもったらwwww 僕は好きですよwwwww でもまぁ某サンライズの某MSとかってこういうことですよね―ーーー……
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