第六話 特別な者
「さぁ、着いたよ。ここが私の家だ。」
それはまるで西洋のおとぎ話に出てくるような一軒家だった。特徴は屋根の煙突だろうか。
「わぁ、素敵な家ですね!」
ハルは興奮気味にそういった。まあ、確かにいい家だった。しかし同時に疑問も生まれた。
「いつまで卵背負ってんだい。卵は庭に置いていていいから。家に入りな。」
「あっ、はい。」
そう言われ、素直に従って家の中に招き入れられた。
家の中はものすごくアンティークな雰囲気が出ていて、暖炉もあればゆらゆら揺れるあの椅子まである。
密かに将来こんな家に住みたいと思いつつ家の中を見ていると、サバナに声をかけられた。
「ウチにはあんた達と同じ歳ぐらいの娘がいてね。まあ私が拾った子供なんだけど、今はどこかに出かけたみたいだね。帰ってきたら紹介するよ。内気な子だけど仲良くしてやっておくれよ。」
「は、はい。」
まあ、ハルがいるからな。なんとかなるはずさ、たぶん。
「じゃあ、あんた達は二階の右の部屋つかっておくれ。」
「えっ!?」
声を上げたのはハルだった。サバナはどうしたんだい?と顔をかしげた。
「あ、あの、一緒の、部屋ですか。」
「ああ、そうさ。何か問題でもあるかい?あっ、でも夜中にすることしてもいいけど静かにしておくれよ。」
「……え!?い、いや!その…」
ハルは顔が真っ赤になっていた。対するサバナはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべていた。
「悪いね。一部屋しか空きがないんだ。」
まぁ、そういうことなら仕方ないだろう。というか弟子にしてもらえて住むところを提供してもらえるだけ でもありがたいんだからな。
ここは俺が一つ犠牲になればいい話だろう。
「大丈夫だって、ハル。おれが外で寝るから心配すんな。」
まぁ、男と女は違うからな。一緒の部屋だと色々と都合が悪いのだろう。するとハルは、ハッとした表情でこちらを向いた。
「え!いやいやいや!そんな外でなくてもいいよ!大丈夫だって!一緒に寝るって聞いてちょっと驚いただけだし!それに全然いやじゃないし!!むしろ嬉しいし…」
「いや、だがなぁ」
俺が渋っているとハルは畳み掛けるように言葉を繋いだ。
「それにほら!修学旅行でも一緒に寝たじゃん!だから大丈夫だよ!」
むっ、そう言われればそうか。あの時も2人部屋だったな。
「本当にいいのか?」
「うん!全然いいよ!」
そこまで言ってくれてるのに断るのは申し訳ないのでお言葉に甘えるとしよう。
「じゃあ、俺たちはとりあえず部屋見にいくか。」
まあ、部屋は普通の部屋だった。ベットは二つ。窓は一つ。豪華ではないがいい部屋だった。
そして今俺たちは再び一階のリビングでサバナと話していた。
「あんた達は魔法については知っているね。」
「はい。まぁ、一応は。」
確か自称神様が言ってたやつだろう。魔力を使うとできるとかなんとか。詳しいことはこっちで聞けとか言ってたな。
「よろしい。じゃあ、あんた達が使える魔法の属性を調べるよ。」
そういうとサバナは後ろの戸棚から水晶のようなものを取り出してきた。
「魔法って魔力を使えばなんでも使えるんじゃないんですか?」
ハルがそういった。するとサバナは手を動かしながら答えた。
「なんでも使えるさ。でもね、向き不向きってのがあるんだよ。
魔法には五つの属性あってね。炎、水、風、土、雷。これらを合わせて使うともっと種類があるね。あと稀に光とか闇とかいう魔法を使うのもいるらしいね。
あとはそうだね、初代国王しか使えなかったっていう精霊魔法ってやつだね。
まぁつまり、自分の得意な魔法からやっていったほうがいいだろう。でそれをこの水晶でたしかめるのさ。」
なるほど。自分の得意なやつでコツを掴むっていうことか。自分がどれなのかなんだかワクワクしてきた。
「じゃあまずハルからいこうかね。
この水晶にさわって。」
「は、はい。」
ハルは緊張しているようだった。
そしてハルが水晶に触れると水晶は眩しく輝いた後、その水晶の中に小さな旋風を起こしていた。
「ほお、ハルは風が得意みたいだね。じゃあ、明日からは風の魔法の練習だ。」
「は、はい!わかりました!」
「じゃあ次はシオンだね。さあ。」
俺は右手でその水晶にさわった。するとハルと同じように光始めた。
光がやむと出てきたの小さな光だった。それはまるで蛍のような光だった。
するとその光は水晶の中から出てきて俺の顔の周りをぐるぐる回っている。
「サバナさん、これは光魔法ですか?」
サバナの方を見ると驚愕の表情を浮かべていた。なんなんだろうか。もう一度名前を呼んでみた。
「サバナさん?」
「…あっ、いや!すまないね。それは精霊魔法だよ。珍しいからちょっと驚いちまってね。」
精霊魔法って初代国王しか使える人がいないとか言ってたやつか。
珍しいものを引いてしまったのはやはり俺がこことは違う世界から来たことと関係しているのか
「あの、ちなみにどんな魔法何ですか?」
「それは、すまないね。わからないんだ。初代国王が精霊魔法を使えたっていう言い伝えはあるんだけどどんな魔法かは一切伝えられてないんだ。だから私じゃあんたの修業はつけられないね。というか誰もあんたの修業をつけられないと思うよ。」
それは中々やっかいなものを引いてしまった。まぁ、しかし別に魔法が使える使えないはどちらでもいい。
俺は魔法よりこの世界についての知っておきたい。
「はぁ、そうですか。まぁ、僕は魔法は使う気はあんまりないですし、別に大丈夫ですよ。」
「そうかい?すまないねぇ。」
サバナは申し訳なさそうにした。
「それよりもですね。さっき言ってた初代国王とかのお話とかを聞きたいんですが、いいですか?」
「ああ、じゃあ長くなるしそこに座ってお茶でも飲みながら話そうかね。」
そういうとサバナはお茶を入れに向かった。
「あっ、なにか手伝います。」
ハルも行ってしまった。
一人になった俺は椅子に腰掛けこれからどうするかと一人窓の外を見ていた。
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この国の名はアルベニア。人々の歴史は約7651年。最初の千年の間は人々は領地の取り合いで戦争ばかりしていたという。
しかしそんな世を変えたのが初代国王アーサー・アルベニア。
又の名を妖精王アーサー。その絶大な力と人望から史上最高の王と称えられており、その力は魔女をも配下に置くほどのものだったという。
彼は千年の続いていた戦争を終わらせ、一つの王国を作り、平安の時代を作った。
しかしその力については一切語り継がれおらず、秘密が多い王でもある。
アーサー王について聞いたのをまとめたものだ。
「その国王と俺が一緒の魔法…」
「そうだね、私も初めてその妖精の魔力を持つ人を見たよ。まあ、他の魔法からならなんとかなるかもしれないから明日は他の魔法やってみようか。」
「はい、わかりました。」
まぁ、他のが使えるなら何とかして使いたものだな。使う気は無いなどと言ったが、折角なら使いたいし、何より戦力が上がるに越したことはない。
「すっかり日が暮れちまったね。とりあえず風呂にでも入ってきておいで。その間にご飯を作っておくから。」
…風呂?風呂がある?え?ほんとに?
「え?風呂あるんですか?」
「当たり前だろう。なかったらどうやって体洗うんだい。」
……神様ありがとう。大好き!
「…じゃあハルから入るか?」
そう聞くとハルは苦笑いをしながら立ち上がった。
「いや、シオンが先に入っていいよ。僕はサバナさんのお手伝いするからさ。」
「おぉ、そうかい。そりゃあ助かるね。」
なるほど。これは仕方ない。仕方なく俺は一番風呂を楽しむとしようかな!仕方なく!
「風呂は廊下出て右側だからね。」
「わかりました。では先に失礼します。」
俺は廊下を出て右側に向かいとドアが三つあったので順番に開けていくと二番目を開けた時に一瞬止まった。
そこには俺たちが慣れ親しんだ風呂と似たような作りがあったそこにあった。思わず帰ってきたのかと思ったほどだ。
脱衣所があり、扉を一枚挟んで浴槽があった。お湯はいつ間に貼ったのかわからないが貼られていて、湯気が立っていた。
蛇口はないがおそらく下からお湯が出ているのだろう。これは魔法をつかっているのだろうか。
まぁ、難しい事は後だ。俺は今猛烈にババンババンバンバンしたい気分なのだ。
木でできた洗面器でお湯を汲み、石鹸的なもので体や髪を洗う。
最高ですね。素晴らしいです。
そして俺は風呂に浸かった。
今日の疲れが吹き飛ぶような感覚だった。
さて、今の状況は、悪くない状況だろう。ハルも魔法を使えるらしいし、俺も他の魔法を使えるらしい。
魔女については聞けなかったが、まぁそれも少しずつ聞いていけばいいだろう。なによりサバナが優しいのが大きい。
しかしここまで上手く行くのも違和感がある。気は抜かないようにしなければ。
すると不意にドアが開かれた。
そこには俺と歳も変わらぬだろう女の子がいた。
黒い髪でその髪は背中辺りまで伸びており長いて綺麗にまっすぐ伸びていた。
目があった。恐らくどちらも何が起こったかわからないと言った状況だろう。
まぁ普段ならなんら問題はないのだ。しかし場所が風呂というのはお互いに裸なのだ。よくない!
沈黙が数秒流れた後女の子は顔を真っ赤にして息すった。
あっこれ、俺終わった。
「きゃあああああああああ!」
何事かとバタバタやってくる足音の主達に、この後説明するのにめちゃ時間かかった。
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「え、えと、さっきは確かめもせず申し訳ありませんでした…」
説明し終わり今はリビングのテーブルに座っていた。
どうやら前に座っている頬をほんのりと紅潮させているこの子はサバナの言っていた娘さんらしい。
名前はカトレア。風呂で見たとおり綺麗な長い黒髪が印象的な女の子である。
そして落ち着いて顔を見て改めて思うのはものすごく美人ってことだった。流石、異世界クオリティ!
「あっ、いや、こっちこそごめん。鍵ついてるの知らなくて…」
とりあえず互いに謝ったのだがなんというかこれで終わりというわけにはいかなかった。
俺は別にいいのだが女の子といえばそうはいかないだろう。
男と女では裸の価値は違う。
なので、はい!もう終わり!水に流そう!風呂だけに!なんて言い出せないわけで。
するとサバナがカトレアの肩に手を置いた。
「まぁ、事故だったんだし、もういいじゃないか。それにカトレア。シオンは妖精魔法の魔力の持ち主だから色々と研究の手伝いでもしてもらいな。」
すると、カトレアは驚いた顔をした。まぁ、初代国王しか使えなかった魔法を使えるんだ。それはそうなるだろう。
「あ、あの、本当ですか?」
「ああ、そうらしい。」
すると、カトレアはテーブルに体を乗り出して顔を近づけてきた。ほんとに近い!
「あ、あの!妖精王魔法とか色々研究してて…それでその…また色々と協力して頂けると嬉しいかなって…」
「あ、ああ、全然構わないよ。」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、そういうことでそろそろご飯にしようか。」
そして俺はご飯を食べ始めた。
……1人の怒りを解けないまま。
「なあ、いつまで怒ってんだよ。」
「別に怒ってないよ。」
時は流れ、今はご飯を食べ終わり、もう寝るため寝室に入っていた。そしてハルをなだめている最中だった。
「今度から気をつけるからさ。許してくれよ。」
「……今度から気をつけてよ。もういいよ、僕はもう眠たいから寝るよ。」
どうやら渋々許してくれたみたいだった。
静かな部屋の中。
俺は1人窓の外から星空を眺めていた。
静かな空間はあまり好きじゃない。変なことまで思い出しそうだ。そうして俺も寝るため目を閉じた。
「ねぇ…ちょっと…」
俺は目を開けた。
するとそこに広がっていたのは、先ほどまでいた部屋ではなく、忌々しいあの蝋燭一本だけの部屋だった。
「やぁぁぁあっと!会えた!」
ただ一つ違うのは目の前に羽の生えた小人のようなが飛んでいるということだ。
静かな空間は変なことまで思い出させる。おまけにこんな変なことまで起こる。
好きになれそうにないな。
サバナ・カサトレア
好きなもの:昼寝、面白そうなもの
嫌いなもの:嘘をつく人
趣味:読書、魔法開発
特技:アップルパイを作ること
性格:温厚
生まれ変わったら?:雲とか良さそうだね
今回改行の感覚を変えております。
どんな感じになるのか試しておりますので、読みにくかったらお詫びお申し上げます。