第五話 師との出会い
嘘という言葉がある。
これを説明してみろと言われると俺は間違いなく人を騙すこと、と答えるだろう。
なら、騙すこととはなんだと聞かれると俺は人に嘘をついたりすること、と答える。
他にも似たような言葉もある。
偽りとか虚偽とかな。
偽りとかかっこいいよな。
だって、人の為だぜ。なんか人の為に偽る。みたいでかっこいい。
とりあえず、このなんら意味のなさそうな考えの至る所はつまり
「ギャォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎」
嘘はいけないよねってことだ。
「わー!!シオン!考え事してる暇じゃないって!逃げないと!」
ハルがなにやら慌てている。
何を慌ててるんだ。たかが全長何十メートルはありそうなトカゲ、俗に言うドラゴンとやらが俺たちを食べようと先ほどから俺たちを攻撃してくるだけじゃないか!何も慌てることなんてないさ!あの自称神様。今度会ったら文句言ってやる。
「大丈夫だって、こういう異世界とかのドラゴンは頭がいいから、言葉が理解できるっていうのがお決まりなんだよ。」
そういうと走って逃げ回るのをやめ、俺はドラゴンの頭を見上げた。
どうやらここは奴の巣かなにからしい。そのに上から落ちてきた俺たちが奴の上に落ちて寝ている所起こしてしまった。
地形は全て岩ので囲まれているが上だけは空いていて空が見える。どうやら外は晴れているようだ。
「あー、えっとーですねー、俺たちは別にあなたの上にわざとおちたわけじゃないんです。事故だったんですよ。ですので勘弁してください。」
俺はドラゴン見つめた。
すると数秒後、誠意が伝わったのかドラゴンは口を開け、なにやら炎の塊を作り始めた。
「ねぇ…シオン…そのお決まりってどこから仕入れた情報なの?」
「えっと、最近読んだ本だな。」
「ばかー!シオンのばかー!」
ハルに怒られているとドラゴンは炎を吐き出した。
俺はハルを抱えて大きく横に飛んでそれを避ける。
そして岩陰に入り込み岩を盾にして炎を防ぐ。
「今のは危なかったな。」
もうちょっと遅かったら当たってた。俺は死なないかもしれないが、ハルが危ないし、もしかしたら俺も死ぬかもしれない。
なにより、傷は治るからといって何度もしていいものじゃない。
「あの…」
おっと、ハルを抱き上げたままだった。しかし、女の子って軽いもんだな。
「悪い悪い、さてどうするかな。ってハル、大丈夫か?顔赤いぞ?」
「へ!?いや!全っ然平気だよ!!!うん!なにも変じゃないよ!!」
もしかすると、岩を壁にしてるとはいえ炎が暑いのかもしれない。
ならば事は急を要する。急いでなんとかしなければならない。
俺は少し考えた後にこう言った。
「うん、こうしよう。俺がアイツを引きつけるから、その隙に逃げてくれ。」
「逃げるってどこに?」
「あそこの穴が見えるか?」
俺はちょうど正面にある岩の裂け目を指差した。
「あそこは風が通ってる音がさっき聞こえたんだ。だから外に繋がってると思う。あそこに先に行ってくれ。俺は後から追いかける。」
「で、でも、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だって!死にはしないよ。…じゃあ、3カンウトで俺が飛び出してあいつの注意を引くからその隙に逃げてくれ。いいな。」
「……うん。でも、絶対追いかけてきてね。」
「…じゃあいくぞ。1、2、3!」
俺はドラゴンの前に飛び出し、ハルは穴へと向かって走り出した。
幸いドラゴンは俺の方をターゲットにしてくれたようだ。次々と攻撃が繰り出される。
俺はそれをギリギリのところで全て避けた。
ハルは足が速いのでもうそろそろ穴に入っただろうかと、確認するともう姿はなかった。つまり中に入ったということだろう。
俺はドラゴンの攻撃をかわし、大きく飛び、正面に立った。
このままあの穴に向かうとあの穴に炎を吐かれてしまう。すると間違いなくダメージを受けるし、最悪の場合死んでしまう。更にハルが近くにいた場合は二人とも死んでしまう。
そうならないためにはこのドラゴンをどうにかしなければならないのだ。
「…じゃあ、そろそろかんばりますか。」
俺は一歩前に踏み出す。そしてポキポキと指を鳴らしながら歩いていく。ドラゴンはまだこちらの様子を伺っているようだった。
最後に頭を掻き、ドラゴンの目を見つめる。
「ふ----」
その瞬間だった。少し暗くなった。雲とかではなくなにかで上を塞がれたような感じだった。俺は上を向いた。ドラゴンの頭上に巨大な岩が現れた。その岩は何十メートルあろうドラゴンに匹敵する大きさの岩だった。
それを認識した途端ものすごい衝撃が起きた。砂煙が舞い上がり、地がゆれ、壁がひび割れた。
煙が晴れるとそこには岩に下敷きになって潰れたドラゴンの死骸があった。
俺は辺りを見渡した。このドラゴンの巣は天井がなかった。つまり岩が崩れて降ってくるわけがない。
そうすると、新しい何かが来てドラゴンを殺したか、たまたまの何かの自然災害かどちらかしかないのだが、自然災害というのも無理があるような気がする。
俺は更に辺りを見渡す。するとハルが入った穴とは逆方向の穴から人影がこちらに向かってくるのが見えた。
俺は身構える。
「おやおや、珍しい。お客さんが居たんだねぇ。」
ゆっくりと現れたその声の主は見かけは60代ぐらいのおばあさんで杖をつきながら歩いている。
「ふーむ、珍しいカッコしてるねぇ。」
「あの、助けていただきありがとうございます。」
「ああ、気にしないでおくれ。私もたまたま用事があっただけなんだ。」
そういうとこの老人は何かを探し始めたようだ。
俺はこの人物に心当たりがあった。
自称神様が言っていた冒名のある冒険者。この人のことじゃないだろうか。
ドラゴンといえばどの物語でも相当な上位のモンスターのはずだ。それを一撃でなんて普通ではありえない。
それに出てくるタイミング的にもそういうことだろう。
つまりここで俺がする行動は決まっている。
「あの、すいません。お話したいんですが、ちょっとだけ待ってていただけますか?連れを呼びに行ってくるんで。」
「ああ、別に大丈夫だよ。」
俺は急いでハルを呼びにハルが入った穴に入っていった。
もしかしたらさっきの揺れで埋もれているかもしれない。中は一本道だった。
だがそんな心配もなく無事に行き止まりの前に座っていた。
「あ!シオン!さっきの揺れ大丈夫だったの!?」
「ああ、大丈夫だった。ある老人が助けてくれてな。そんで多分その人が俺たちの師匠ってやつだ。」
「え?師匠?」
「ほら、あいつが言ってた名のある冒険者ってヤツだよ。」
「あ!え!?本当に!?よかった〜。まさかドラゴンが師匠なんてことになったらどうしようかと思ったよ。」
さすがにそれはないだろ。
俺は苦笑いを浮かべるとハルは恥ずかしそうに下を向いてしまった。
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俺たちは穴から出てきた。
「あの人が言ってた人?」
ああ、そうだと答えつつ俺は老人の方を見る。
老人は砕けた石の上に座り微笑みながら俺たちを見ていた。
「すいません。長くなりました。」
「大丈夫だよ。で、そちらは彼女さんかい?」
ハルは顔を真っ赤にしてモジモジしながら手をブンブン振っている。
「ちがいますよ!ちがいます!友達ですよ!」
そんな否定せんでもええないか。思わず関西弁になってもうたがな。
とりあえず、俺は話を切り出すことにした。
「あの、単刀直入に言います。俺たちを弟子にしてください。」
そう。この人こそがあの自称神様が言ってた冒険者って人だろう。ドラゴンを一撃で倒すことのできる人間だってそんなにいないはずだしな。
老人は少し考える仕草を見せこう言った。
「弟子になりたいなら名前ぐらい名乗ったらどうだい?」
それもそうだな。名前も知らない奴を弟子にしたい奴なんていないだろう。
「すいません。俺はシオンと言います。」
「ぼ、僕はハルっていいます。」
「シオンにハルね。別に弟子にしてやっても構わない。あんたたちは見た感じものすごい素質があるみたいだしね。でもその前にテストをやる。」
「テスト、ですか。」
テストとはなんだろうか。厳しいものなんだろうか。そんな不安な気持ちが大きくなる。
「なーに、そんなに難しいもんじゃないさ。たった一つの質問に答えるだけでいい。」
「その質問ってなんですか?」
「それはね、相手を倒すとなった時相手にトドメを刺せるかい?」
トドメを刺す。相手を殺せるか否かということらしい。ハルの方を見る。ハルも動揺しているようだ。こちらを向き目があった。
確かに重要なことだ。その甘さを捨てれるかどうかということらしい。
「さあ、どうなんだい?」
甘さが命取りになる。実際にそうだ。俺もそういう人間を見たことがある。ここは受かるためにできるといったほうがいいのだろう。
「俺は---動物なら恐らくいけると思いますが同じ人間となると多分無理です…すいません。」
だが、無理だった。俺はその甘さを捨てることは出来ない。ここで嘘をついてしまえば全てが無意味になるような気がした。
「すいません…僕も無理だと思います…」
ハルもそういった。当たり前だろう。普段そんな意図的に殺生することなんてないんだから。
これは新しい師匠探さないとダメだな、そう思っていたのだが、返ってきた言葉は意外なものだった。
「うん。いいよ。シオン、ハル。あんた達今日から明日の弟子だ。」
俺は思わず口が開いた。甘さが残っているなど本来ならあっていいはずがないことなのだ。それなのになぜ。
「なに間抜けた顔してんだい。別にトドメをを刺すか刺さないかが重要なポイントじゃないんだよ。」
そこじゃない。ならどこなのかと聞こうとすると老人は俺の顔を見て言葉を遮った。
「今のテストのポイントはね、嘘をつくかつかないかのテストなんだよ。私は嘘をつく人間が嫌いなもんでね。」
ぼーっとしている俺たちの肩を老人はにっこりと笑って掴んだ。
「私の名前はサバナ・アーリタ。サバナって呼びな!私の教えは少々厳しいよ!頑張りな!!」
「「よ、よろしくお願いします!」」
「で、もう一つ聞きたいことがあったんだけどいいかい?」
「は、はい。なんですか?」
「あんた達ここ人間じゃないだろ?」
息が詰まった。
どう答えたらいいのか。嘘をつかず正直に答えたほうがいいのだろう。だが異世界人だと知られていいものなんだろうか。
「話せないことなのかい?」
「すいません。今はまだ…」
少なくともこの人がどんな人間でこちらの世界で異世界人がどんな立場なのかわかるまで喋るわけにはいかなかった。
「まぁ、いいさ。秘密はあっても。
そのうち話してくれればいいさ。」
「はい。」
「じゃあ、さっさとここを出て家に行こうか。どうせ帰る家もないんだろう?住み込みで修行させてやるよ。」
「…はい。すいません。ありがとうございます。」
ここで断わるのもなんだかいけないような気がして遠慮なくご好意に甘えさせてもらう。
するとサバナは嬉しそうに笑いこう言った。
「じゃあ、まずこれを運んで貰おうか。」
そう言って差し出したのははなにやら籠のようなものだった。取っ手が付いていて背負えるようになっている。
これを背負えということらしい。
俺は背負ってみて衝撃を受けた。
重い!ナニコレ!重スギィ!
「こいつはドラゴンの卵。相手の強さによって重さが変わるんだよ。そいつが重いと感じる重さにね。まぁ、シオンほどとなると恐らくすごい重さになってるんじゃないかい?」
ニヤニヤしながらこっちを見ている。やられた!敵の罠だ!
「だ、大丈夫かい?代わろうか?」
ハルが心配そうに声をかけてきた。しかし女の子に荷物を持たせるのはいかがなものだろうか。
紳士としてそれはできない!
どうでもいいけど紳士とか自分で言う奴は大概ダメな奴が多い気がする。
「い、いや、大丈夫さ。持っていくから。」
俺は垂れる汗を拭きつつサバナについていった。
どんな修行が待っているんだろうか。素質があるとサバナは言っていたがなんの素質だろうか。
不安はあるがとりあえず卵を運ぶことに集中するか。
瀬田川 春 (セタガワ ハル)
好きな物:あったかいもの、甘いもの
嫌いな物:怖いもの
趣味:料理、散歩
好きな人は?:い、今は一人…
生まれ変わったら?:もう一回自分でいいかな