第十一話 敵もまた突然現れ消えるものである
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
大地の悲鳴とも聞こえる音が響き渡り、樹々が揺れる。
シオンにいたところに撃たれて出来たその穴は大きく広がり周囲の木々を飲み込んでいく。
そして揺れが止まった時には深さは5メートル直径10メートルほどのクレーターが出来ていた。
その穴は小さな隕石が降ってきたと思わせるほどもので、これは本当にあの娘がやったことなのかとハルは思った。
ひと一人を殺すには余りにも大き過ぎる威力だった。
その中心に、月に照らされて綺麗な金色の髪の毛が、どこか幻想的にキラキラと光っている少女がゆっくり、そして何食わぬ顔で優雅に降り立つ。
先程の攻撃をとっさに身を引いてこれをかわしたハルは草陰に潜みながら身を震わせていた。
ダメだ、逃げちゃ、そう、頭の中ではわかっているのだが体、指先から五臓六腑、毛の一本一本までもが警告を告げてくる。
"逃げろ"と。
少女は何者なんて考える必要など皆無だった。
そう、あの自分達に向けられる恐ろしいほどの禍々しい殺気、そして凍えてしまいそうなほど冷たい瞳、何よりもここにいる者を全てを飲み込んでしまいそうな魔力。それらが物語っていた。
『彼女こそ魔女だ』と。
たった7人が同時に存在するというだけで、世界の魔力のバランスを歪めてしまう、それこそバケモノのような常軌を逸した存在。
これに恐怖せず、嘆く事のない人間など存在するはずもないのだ。なぜなら、明け透けに言ってしまえば世界の7分の1を目の前にして、それが牙を剥いてくると言うのだから。
「うわ、半端ねえな。流石ってところか」
そうたった一人を除いては。
ハルは声が聞こえ思い出したかのように草陰からシオンを探す。
時刻は夜。常人なら数メートル先も見えないはずだが、暗闇になれる特訓をしていれば数十メートル先まで見えるようになる。しかし、今は周りの木々がなくなり星や月が明かりを灯してくれているため目視でも探せるだろう。
シオンは丁度ハルと反対側のこのでかい穴の瀬戸際に立っていた。
自分も出て行かなきゃ、立とうとしたがその瞬間シオンと目があった。その目は確かにこう語っていた。
"出てくるな"
これだけの力を見せられたら、仕方ないのかもしれないが、半年頑張ってもまったく差が縮まってないんだなと気落ちしてしまうのも仕方がない。
まぁ、とにかく行方を見守るために気配を消し、近くの草陰に移動し静かに潜み、様子を伺う。
さて、一方のシオンだったがハルが気配を殺し、潜むのを確認してから穴の下へと降り、魔女と対面していた。
「よぉ、まさか出向いてくるとは思わなかったぜ」
「あら、話しかけないでもらえる?気持ち悪いから」
「俺が何かしたかねぇ…てか別に俺はお前とは闘う気は」
言い切る前に少女による魔法。
《炎の槍》
この魔法は炎の形状を変化させ槍のような形を作るという一見シンプルな魔法。だが、それが難しく、高威力の魔法として知られており、この世界でも使えることのできる者はそう多くはないだろう。
しかもそれを無詠唱で出してきた。それだけなら、まだできる者もいるだろう。しかし驚く場所は他にある。
その数だ。
その数およそ100。やはりすごいなと改めて思い、苦笑してしまう。
「いつまで笑っていられるかしら」
それが癪にさわったのか冷たい声と共に、一斉に100もの炎の槍が向かってくる。
シオンのいた所に炎がたつ。そしてそれは周りの木々に燃え移り、いっそう、炎の勢いが強まる。
通常の人間ならば塵の一つも残らず燃やされるだろう。
「《水の槍》」
100以上の今度は槍の形をした水が現れ、次々に火を消していく。
「ふー、危なかった……っと!」
消火によって立ち込める煙の中、少女の拳が蹴りが次々に飛んでくる。
(この動きにこの素早さ………魔力強化してやがる、一発一発が重過ぎる!受けきるのは無理だ!サーラ!)
(わかってるわよ!任せて!)
魔力は何も魔法だけで使うものではなく、肉体を強化したりすることもできる。そのため、何メートルも飛んだり、物凄く早くなったり、力が増したりする。そしてその強化は魔力量に依存する。
ましてや、魔女レベルになるとその強化は洒落にならない。
ただの少女の蹴りがドラゴンの本気の尻尾の薙ぎ払い並だ。
ただそれを強化なしで全ては無理とはいえある程度、対処できるシオン自身もどうかとは思うが。
乱撃を防ぎ、受け流しつつ、一旦距離を開けた。立ち込めていた煙は風圧によりなくなっていた。
「待て待て」
「話しかけないで言ったわよね」
「俺はお前と闘う気はない」
「そんなの関係ないわ。私は貴方を殺したいの。わかったらさっさと本気を出しなさい」
やっぱり本気じゃないのばれてるか、ていうか俺が一体何をしたのだ。
思わず心の中で突っ込んでしまったが、本当に身に覚えがなく、なぜなのかさっぱりだ。
「俺はお前が建てた塔を崩してほしいだけだ」
「………」
無言で構える少女。
それを見て手を挙げ、フリフリと振り、ヘラヘラ笑うシオン。
すると少女がふっと消えて、耳元で囁かれる。
「あらそう、なら本気を出せるようにしてあげるわ」
そうして、魔女の気配は消えた。ハルの気配共に。
「………やられたわね」
サーラが呟く。おそらく仲間を連れていけば取り戻すために本気を出すと思ったのだろう。
そう、それは間違っていない。間違っていないのだが。
「サーラ仕事が増えたぞ」
そう。塔を探す以外の仕事が出来てしまったサーラとしては嫌な限りだった。
「……じゃあ、いくわよ」
ふわふわ飛ぶサーラはシオンの人差し指をその小さな手で持つと噛み付く、そして血を飲んでいる。
サーラ曰く、妖精の力を本当に全て使おうとした時にはシオンの体液が必要と言う事らしいのだ。よく漫画などで見かける悪魔などとの契約に血が必要になる的な事なのかなと納得したシオンはそれを受け入れた。
最初は唾液と精液を要求されたが頑なとしてシオンが断ったために血液に落ち着いたわけである。
「………んっ、終わったわよ」
「おう、じゃあ行くか」
「まったく、あのカレーにも困ったものね。護身ぐらいしてもらわなきゃ。こっちの身がもたないっての。とりあえずこっちね」
数十キロ離れているだろう魔力をさがし当てるのは恐らく世界でシオンペアだけだろう。
「おーし、とりあえず急ぐぞ。走るか」
急ぐべく走り出したシオン。こんな時にのために瞬間移動もできるようにしとくんだったなぁ、とぼんやり思いながら月を見た。
その月はいつもと変わらずシオン達を照らしていた。
前回投稿が約一カ月。。。今回の少なさ。。。
今回は早かったですね!褒めてもいいんですよ!
遅れてすいませんでした。
今回から本編も大きく動き出しますね!よければこれからも応援・コメント・評価よろしくお願いします
そして僕の方も新しい作品を投稿していく予定なのでそちらの方もよろしくお願いします。
ではでは!