第十話 鬱蒼とした森の中で
「じゃあ、そろそろ出るか。」
「うん、そうだね。」
修行を終えてから3日目の朝、準備を済ました俺たちは出発しようとして玄関の扉の前にいた。
魔女のいるところまで約2日。そこまでの長旅ではないとしても準備は怠れない。
「サバナさん、行ってきます!」
「ああ、しっかりね。」
「カトレアは?」
「なにやってんだろうねあの子は…カトレアー!シオン達もう出ちまうよ!」
どたばたと上から急いで降りてくる音がする。実にカトレアらしいなと思わず笑いが出てしまう。
「シオン君!ハルちゃん!あ、あのこれ!」
落ちるように階段を降りてきたカトレアが差し出してきたのは小さい布の中に何か入っている巾着袋のようなものだった。
「これはお守り?」
「は、はい!前にシオン君に『持ってる人をまもってくれる』って言ってたんで作ってみたんですけど…」
それは小さい青い袋に何かが入っているといった風に俺たちの知っているお守りと似ていた。
確かに所々縫い目が荒い所はあるんだが、それよりもカトレアのその気持ちが嬉しかった。
「ありがとうな、カトレア。」
「い、いえ!怪我しないように気をつけて下さいね!」
その言葉を背に受けつつ俺たちはお世話になった家を出た。
「シオン君とハルちゃん…大丈夫でしょうか。」
「まぁ、ハルは強くなったし大丈夫だろう。シオンは隕石が降っきてもどうにもならないだろうし、大丈夫だよ。」
ははは、と笑うサバナ。
しかし、一瞬その顔に心配の色が見えたのをカトレアは見逃さなかった。二人の後ろ姿を見る。カトレアには二人の無事を祈ることしかできなかった。
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森の中。
様々な生物たちが暮らしていおり、様々な生態系が形成されている場所でもある。
さらに加えてここはなんでもありな異世界だ。凶暴な動物や毒虫などだけが警戒対象ではない。
この森では木々が生い茂り、それらは魔力を帯びており、冒険者を目的の場所から遠ざけるために様々な妨害行為を仕掛けてくるなんてこともある、らしい。
今回はそこは通らないのでなんら問題はない、はずなのだが。
「迷ったな。」
「あはは…ごめんなさい…」
「まぁ、元々あそこでジャンケンで決めた時点で手遅れ感は出てたし気にすんなって。」
先ほど迷った時にその場の勢いで、じゃんけんで道を決めたことを思い出す。
迷いの森なんてなくても迷うものは迷うのだ、仕方ないね。
「とりあえず今日はどのみち野宿だったし、もう暗くなり始めてるし、準備しよう。」
「うん、そうしよっか。」
「俺はテント張るから、調理と火起こし、よろしく。」
「はーい。」
そう言い少し離れた木陰でテント張る準備を始める。テントを張るのって意外と面倒くさいんだよな。杭やらなんやらを使わないといけない訳で……そんなことにお困りな貴方にこちらの商品がオススメ
「誰が商品よ!失礼しちゃうわね!」
「冗談だって、手伝ってくれよ、サーラ。」
「初めから素直にそういいなさいよ!全く…」
「悪かったって。」
頬をパンパンに膨らませながら作業に取り掛かろうとしたサーラが突然消える、こういう時は大体…
「ねぇ、シオン。ご飯だけどカレーでいい?」
「あぁ、いいんじゃないのか?正直お前の料理はなんでも美味いからな。期待しとくよ。」
「ふふふ、それは嬉しいねぇ。…所でさっきまで話し声が聞こえてたけどもしかして妖精さん?」
「ああ、そうだ。」
「はぁ、僕も会ってみたいなぁ。今度、またお願いしといてよね。」
そう言い残しハルは調理に戻ったようだ。ハルが見えなくなった後にフッと現れるサーラ。
「なんでそんな頑なに会おうとしないわけ?」
「…………」
「おーい?」
「なによ!別に関係ないでしょ!あんな女にヘラヘラしちゃって!シオンはあんなカレー女より私でしょ!?」
「いや、すまん。正直お前がなにを言ってるのかさっぱりわからんしなるべくなら理解したくない。いいから、早くテント手伝ってくれよ。」
「なによ…何も知らないくせに呑気な奴…」
なにやらボソボソ呟いている妖精を横目で
見つつ準備に取り掛かる。
「なぁ、サーラさんや。」
「なにかしら?」
とりあえず呼んだ本当の理由を言うべく本当の理由を話す。
「俺たち今森で迷ってるんだよなぁ。」
「まぁ、そうね。」
「ちょっと飛んで街の場所を確認してきてくれよ。このままじゃいつまでたっても街につかないだろうし。」
「まぁ、そうね。もしかしたら見えるかもね。」
「だろ?なら」
「でもいやですぅー!」
何やら今はご機嫌が斜めならしく、お願いを聞き入れてはもらえないようだ。
「前にも言ったけどシオンはずっとこっちにいればいいのよ!むこうに帰ってもいいことなんてないのに…」
サーラが悲しそうにそう言い放つ。その声は風と梟のような鳥の鳴き声だけが鳴る空間にはよく響き、森の暗さに溶けていった。
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「うん、よく出来て美味しいぞ。」
「フフッ、そうかい?そう言ってもらえるなんて嬉しいね。」
言葉通り嬉しかったのかにぱっと笑うハル。
ハルはこの異世界に来てからよく笑うようになった。前までも笑ってはいたけれとそれはどちらかというと紳士的な微笑みと言った方がしっくりくるようだった。なので言葉を変えると女の子らしくなったと言えばいいのか、まぁ、良かったとは思う。
「どうしたんだい?な、なにか付いてる?」
どうやら顔を見つめていたらしく、恥ずかしそうに頬を掻きながら目をそらされた。
「あぁ、いや悪い。ボーッとしてたわ。」
そう言い謝るとハルはクスッと笑ったのでなぜかと視線で問うと懐かしそうに話し始めた。
「なにか、ここに来る前にも似たようなことをしたような気がしてね。ごめんね。……」
「ああ、あったな、そんなことも」
「…………もうすぐだね。」
「……そうだな。」
「シオンは帰ったら何がしたい?やっぱり甘いもの食べたい?」
「おう、それがいいな。そう言えば結局クレープ食べてねぇな。金かかってもいいから食べてぇなぁ。」
「ふっふーん、大丈夫だよ。僕まだ割引券持ってるから。」
そう言ってゴソゴソとポケットから取り出したのは半年前に見たもうすでにボロボロの割引券だった。
「懐かしいなぁ、それ。そんな小さい物よく無くさずに持ってられたな。」
「お守りみたいに基本いつも持ってたからね。色んな思い出が詰まってるよ。」
「そうか。でも、それだとあれだな、使っちまうのも勿体ないな。ごちそうさまっと。」
「ふふ、そうだね。お粗末さまでした。………ねぇ、シオン。帰ったらなんだ」
「お喋りはそこまでね。」
一瞬にして温度が低下したように場が凍る。しかし声の主は変わらず話し続ける。
「あまりに遅いから向かいに来てあげだんだから感謝してほしいわね。」
その前の少女は見た目は同じぐらいの綺麗な金色の髪の毛の可愛らしい女の子。しかし、違うのはその場を凍らせる禍々しい殺気。そしてまるで生きている星を思い浮かばせるような溢れ出る魔力。
「さて、と、どっちがあの子かしらって聞くまでもないか。」
誰に聞くまでもなく、魔力や魔術を扱う者でもそうでない者もわかる。駄目だ、逃げろと脳が警告出しているのがわかる。これが魔女なのだと。
ただし例外もいるようで
「いや、人違いだって。俺ら普通の冒険者だよ?」
こう言い放ちヘラヘラする者もいるようだ。しかしそれは彼女、いわゆる魔女には何の効果もないようで。
「あんたね。まぁ、一応聞いといてあげる。どうやって死にたい?」
ニコッと笑うのだがその笑みはその容姿からは余りにも冷たすぎる笑みだった。
ちなみに聞かれた男は
「生きていたいな。クレープ食わなきゃいかんし。」
またもやヘラヘラしている。
少女が手を前に構えた瞬間、その少年、シオンが座っていた場所がクレーターのように部分的に凹んだ。
その後にはシオンの姿はなく、シオンが持っていた皿だけがカランと音を立てて落ちた。
お久しぶりです。
前回の登校日が5月18日ということで未来からやってきました、赤白です。
今回、後書きを書かしていただいているのは万が一、待ってくれている人がいた場合に謝罪するためです。
今度からは気をつけます。反省もしてるし、後悔もしまてますんで許してくらはい。