アミーキティア
俺には生まれてきてから高校卒業までずっと一緒だった腐れ縁の奴がいる。
同じ病院で生まれ、誕生日は2日しか変わらない。親同士が仲が良く、お互いの家にはよく行き来していた。
幼稚園•小学校•中学•高校、学校が同じどころか、クラスまで同じだった。
もうここまで来たら、腐れ縁としか言いようがない。
そして、今日。
俺は7年ぶりにその腐れ縁の奴と再会する。
「久しぶりだな」
「なんだよ。英語じゃねえの。アメリカ帰りのくせに」
「ここは日本だよ」
そんなたわいもない会話をしながら、俺の新居へそいつを案内する。
今日は俺と俺の嫁さんと腐れ縁野郎と3人で晩ご飯を食べる予定だ。
晩ご飯を食べた後、俺はこいつに聞かなければいけないことがある。
それが、今日の本来の目的だ。
「私、軽いおつまみでも用意しますねー」
少し酒を飲んだ後、そう言って、俺の自慢の嫁が席を外す。
いつもはあまり空気を読まないのに、こういう時はちゃんと悟ってくれる。いい妻だ。
「いい奥さんだな。ごめんな。結婚式に出席出来なくて」
「まあ、それはいいよ。仕事の都合もあるだろ」
「ああ。丁度帰国が決まって、手続きでバタバタしてたからさ」
「へぇー。あのさ、俺、お前に伝言頼まれてんだ。吉野から」
ピクッとあいつの体が反応した。
「…内容は?」
「『いい加減、あの子に返事してあげて』だってさ」
あの子が一体誰を指すのか。俺もこいつも知っている。
あの子とこいつが相思相愛なのも知ってる。
何故かこいつがあの子を高3の時から避けてるのも。
それは、こいつがアメリカへ留学するからだと思ったいたのだけれど。
「お前、告白されてたの?いつ?」
こいつが他人に必要以上に干渉されたくないのは知ってる。だからこそ、他人に関心を持たないのも知ってる。
だけど、今は。干渉するべきだ。
「卒業式の時…」
「ふーん。で、何で返事しなかったんだよ?好きなくせに。アメリカ行くから、じゃないよな?いい加減、話せよ」
そして、あいつはポツリと話し始めた。
両親の離婚から考え出した答え。
『始まらなければ終わらない』理論。
「お前さ、実は馬鹿だったんだな」
「は?」
「既婚者として言うぞ。俺は華と結婚しようと思ったのは、この先の人生、華と隣にいることを確かなものにしたかったからだ。もしかしたら、何かが原因で、何十年後、俺達は離婚するかもしれない。だけど、今はそんなつもり全くない!!俺は、どちらかが死ぬまで隣にいるつもりだ!!」
「…そうだよな。でも、俺はどうしてもそのもしもが怖い」
「知るか。そんなこと。今度はお前の大親友として言うから、耳かっぽじってよく聞いとけ!お前なあ、始まらなければ終わらないっていうけど、お前とあの子の物語は、お前が入学式で一目惚れした時から始まってんだよ!馬鹿!!」
あいつがハッとした表情になる。
本当、気付くのが遅いんだよ。馬鹿。
「あの子は、告白して、片思いを終わらせようとしたんだろうが!本当に始まらなければ終わらないっていうんだなら、さっさとあの子のことフッて、お前らの片思い物語終わらせろ!!!それが嫌なら覚悟きめろ!!」
あいつが俯く。
流石に言い過ぎたか…
「おつまみでーす」
妻がお気楽にあたりめを出す。
このタイミングには驚いたのか、思わずあいつが頭をあげて妻をみた。
「私も正ちゃんと同じで、どちらかが死ぬまで正ちゃんの隣にいるつもりです。2人ともそう思っている間は絶対大丈夫です。ね、正ちゃん?」
「ああ」
こういう時、本当に彼女が妻で良かったと思う。
彼女に出会えてよかったと。
天然で空気はあまり読めないけれど、ホワホワしていてちょっと心配になるけれど。
それでも、彼女の笑顔は、彼女が紡ぐ言葉は、いつだって俺を救うんだ。
「…本当にいい奥さんだな」
「だろ」
あいつが笑う。ずっと前から変わらない無邪気な笑顔で。
「…君が僕のことを大親友というとはね。ありがとう。あの子の気持ちはもう変わったのかも知れないけれど、僕は…」
「その続きは本人に言えよ」
「ありがとう。大親友よ」
「うるさい」
俺が大親友であるお前の背中を押したことによって、あの子との物語がどう動くかわからない。
だけど、お前とあの子の物語が重なる未来を。
俺は願うよ。




