カードゲームについて学ぼう
相原忍は、いつも通り、野島菜々を尋ねに、とある部室へと尋ねた。
歩みをとめ、部室の前に到着すると、かすかな話し声が聞こえてきた。
ドアの隙間がわずかに開いていたため、声が外に漏れ聞こえていたのだ。
話声から、声の主が菜々と一瞬でわかったが、普段の菜々とはまったく様子が違った。
不審に思った忍は、ドアの隙間から室内を覗き込んだ。
「ゆりか先輩!菜々・・・菜々・・・もう我慢できません!」
菜々は火照った顔を隠そうともせず、ゆりかに詰め寄った。
「だめよ、菜々ちゃん。だって、私こういう事・・・その・・・初めてだもの」
軽く身をよじりつつ、後退していくゆりか。
「菜々だって初めてです。でもでも・・・菜々の初めてはゆりか先輩って決めてたから(///」
なおも、菜々はゆりかへと向かう歩みを止める事なく、自分の火照った身体の終着先をゆりかに定めていた。
「・・・やはり変よ。間違ってる。お互い初体験で、しかも女の子同士だなんて・・・」
とうとう壁際に追い込まれたゆりかは、強引に迫る菜々に最後の抵抗をみせる。
「変じゃありません!菜々は・・・ゆりか先輩とがいいんだもん」
ゆりかの利き腕を強引に押さえつけ、お互いの吐息が交差する程に、菜々は距離を詰めた。
「ゆりか先輩・・・」
「菜々ちゃん・・・ダメ・・・」
「ちょーーーーーーーーーーっと!ストップ!ストップ!ストーーーーーップ!!!!!」
勢いよくドアを開けた忍は、慌てた形相で雪崩れ込むように入室した。
「神田ゆりかっ!野島菜々は、あたしの菜々だぞ!手出しは許さん!菜々の純潔はあたしのものだっ!」
忍は菜々を抱きしめると、ガルルルルッ・・・っとゆりかを威嚇した。
「菜々、大丈夫か?しっかりするんだ!」
キッ!と視線をゆりかに向けた忍は、
「お前、まさか菜々に変な薬とかを盛ったんじゃないだろうな?じゃなきゃ、菜々がこんな事する筈が、」
グイッ!
突然抱きとめていた菜々が、忍を押しのけた。
「忍先輩、邪魔しないで下さい!!!」
普段は無邪気で元気いっぱいの菜々が、忍に対してキツイ口調で一喝した。
「ふぇっ・・・」
溺愛してやまない、菜々からの突然の一喝に、呆然とする忍。
忍から開放された菜々は、改めてゆりかに向き直った。
「ふっふっふっ・・・。さぁ、もう止める人はいなくなりました、ゆりか先輩。素直に菜々のカードゲームの初めての練習相手なってもらいますからね」
不敵な笑みを浮かべ、再度ゆりかへにじり寄る菜々。
「ダメよ菜々ちゃん・・・ダメ」
「ガーーン・・・orz。菜々があたしを邪魔って・・・ゆりかと一緒にカードゲームしたいって・・・。ん?カードゲーム?」
忍はあれ?何かおかしいぞっと違和感を覚えた。
「もう、菜々ちゃん。何度も言ったでしょう。私、カードゲームとかよく分からないから、一緒に遊ぶ事は出来ないわ」
「そんな事を言わずにお願いしますよ~。弟にボロ負けしたくないですもん。練習に付き合って下さいよ~」
菜々はゆりかにお願いしますよ~っとじゃれ付く。
「んーー?待て待て待て待て!えっ?何?カードゲームの対戦の話をしてたの?」
「ん?そうですよ?弟が遊んでるのを見て、ちょっとやってみたくなっちゃって。でも、いきなり弟と対戦しても、ボロ負けするのが目に見えてるから。だから、ゆりか先輩にお願いして、こっそり練習付き合ってもらおうと思ったんですよ」
頭上に?を浮かべつつ、忍の問いに菜々は答えた。
「貴女、いったい何を勘違いしていたのよ。大方の想像はつくけれどね・・・はぁ・・・」
大きくため息をつくゆりか。
「ん?勘違い?どんな勘違いなんですか?」
まったく分かっていない菜々は、 (*'ω'*)? っという顔をしている。
ゆりかは、菜々の耳元にスッと顔を寄せ、
「忍ってば、私と菜々ちゃんが、」
「わーーーー!わーーーー!わーーーー!」
大声で誤魔化す忍であった。
見識広稀陽学園、部室棟のとある一角。
長い艶やかな黒髪をした女性が、いつもの挨拶でスタートを切る。
「皆様こんにちは。好きな戦国武将は伊達政宗。『今知る部』部長の神田ゆりかです」
窓から注ぎ込む木漏れ日が、彼女の長い黒髪をキラキラと照らし出し、宝石のように輝かせている。
スラッとした身長、優しく包み込んでくれそうな、豊満なバストの持ち主であり、
大和撫子という言葉がピッタリ当てはまる、和風美人である。
ゆりかは、部室の片隅の戸棚を開け、人数分のお茶の用意し始めた。
部室のテーブルでは、元気が取り柄の活発な女の子であり、あどけなさが残る笑顔が大変可愛らしい菜々と、
ショートヘアーが似合うクールビューティにして、同姓からダントツの支持を得ている、ボーイッシュ系美少女である忍がゆったりと腰掛けている。
「はい、2人ともお待たせしました。」
ゆりかは2人の前にお茶を出した。
「今回は、ベトナムのお茶でロータスティを用意してみたわ」
「ベトナムのお茶か。初めて飲むな」
「んく・・んく・・ふぁぁ、美味しい。すっきりしてるけど、甘い香りのするお茶なんですね」
菜々はお茶の感想をゆりかに伝える。
「今回は、お花のほのかに甘い香りがするタイプをいれてみたわ。ちなみに、ロータスティは別名『美人茶』とも呼ばれていて、美肌効果やダイエット効果なんかも、」
「「もう一杯!」」
菜々と忍は勢いよく、空いたカップを差し出した。
「本日のお題はカードゲームにしましょう!」
勢いよく身を乗り出して、ゆりかに迫る菜々。
「そうねえ、菜々ちゃんがそこまで言うなら、本日はカードゲームについて学びましょう」
「はいはーい!大賛成です!」
元気よく返事をする菜々。
「カードゲームかぁ・・・懐かしいな。小さい頃、アニキと一緒に遊んだ覚えがあるよ」
「へー・・・忍先輩、遊んだ事あるんですか」
「うん。たしかモンハンのヤツだったと思う」
「モンハンのカードゲームなんてあったんですね。ちなみに、菜々の弟がやってたのはバディファイトって名前のカードゲームでした」
「色々種類があるもんなんだな」
関心するように忍が頷いた。
「その程度で驚いては駄目よ。なんたって、国産のトレーディングカードゲーム(※以後TCGと略)だけでも、100種類以上もあるのだから」
「「100種類以上!?」」
菜々と忍は声をハモらせて驚いた。
「まぁ、現在は販売が終了したものが結構数あるので、現在は50種類程かしらね」
それでも多いよな、と2人で話す菜々と忍。
「あと、TCGにも2種類が存在しているわ。菜々ちゃんとと忍の2人が挙げたものは『TCG』。ゲームセンターや百貨店、おもちゃ屋さんの一角なんかに置いてある、ゲーム筐体を使用して遊ぶのが『トレーディングカードアーケードゲーム(以後TCAGと略)』よ」
「あぁ~、うちの妹が、女の子の着せ替えカードみたいなのを持ってたっけな」
「ふぇ~、そんなのもあるんですね。なんかそっちの方が楽しそう」
興味深々といった様子の菜々。
「よし!菜々、どうだろうか。今度2人っきりで一緒にやってみな、」
「ゆりか先輩!今度一緒に、女の子向けのTCAGで遊んでみましょうよ。ねっ?ねっ?」
「ふふっ。菜々ちゃんがどうしてもって言うなら、ゲーム筐体があるお店に連れて行ってあげるわ」
「うわーい!」
「(忍´・ω・`) ショボーン ...。」
ロータスティを味わいつつ、話は続く。
「カードゲームってあれだけ種類があるんだ。きっと企業は儲かってるんだろうな」
「お金の話なんて、意地汚いわよ、忍」
「うるさいなー。気になるモンは気になる。知ってんだろ?教えろよ~」
ゆりかを、つんつん、と突く忍。
「あぁ、もう、うっとおしいわね。教えるから、つっつくのをやめなさい」
嫌がるように身をよじるゆりかだが、だんだんと暗い目付きとなっていく忍は、
「これか!この、デカ乳、牛乳、魔乳が菜々をかどわかすのか!こんなの、こうしてやる!このこのっ!」
忍は腹いせのように、つっつくポイントをゆりかの豊満な胸元に変更すると、つんつん、と突き始めた。
「ちょ、忍!やめ、やめなさい!本当に怒っ・・・ひゃん(///」
ゆりかは甘い声を出したかと思うと、身体の力が抜けたのか、テーブルに突っ伏しそうなった。
寸で所で踏ん張り、ゆりかは両手で胸元を庇うように抱きながら、軽く涙目になりつつも忍を睨んだ。
「ははは。悪かったって。そんなに睨むなよ」
忍はあっけらかんとした様子で謝罪しつつ、ロータスティを味わう。
「忍先輩ずるいです。菜々もゆりか先輩のお胸をつんつんしたいです」
「ちょっと、菜々ちゃん。何てこと言うのよ」
「だってぇ~・・・、ゆりか先輩のお胸ってほわほわのふわふわなんだもん」
「菜々ちゃん。それは理由になってないわよ」
困った子ねえ、と苦笑いしつつ、先ほどの忍の質問に答えた。
「『株式会社メディアクリエイト』の発表によると、2013年度の全TCGの累計販売額は約880億円だったそうよ」
「はっぴゃ・・・そんなにかっ!?」
「驚きよね。最高時は1000億円も売り上げた年があったみたい。しかも、これはTCGだけの数字でTCAGを加えた場合は、もっととんでもない額になるでしょうね」
「ほへぇぇ~~、凄いんですね。今回も、菜々はただただビックリするばっかりです」
「将来はTCG企業への就職が安定かもしれんな」
1人悪い顔をする忍。
「そうでもないわよ」
その忍をばっさりとゆりかは切って捨てた。
「ちょっとまて。ここまでビッグな市場なら、今後勝ち馬に乗れそうな気がするんだが」
負けじと張り合う忍が疑問を口にした。
「確かに市場規模は大きいのだけれど、最高時より販売額は約12%もダウンしているの。これは、新規メーカーの参入により、市場が飽和状態となり、ユーザーが別の娯楽に移動したのでは?っと分析されているわ」
「落ち目になってきたというか、人気がなくなってきたんですか?」
話を聞いていた菜々も質問を投げかけた。
「んー・・・、過渡期と言った方がいいのかしら?ブームで売れる時代が終わって、現在は企業努力が明暗を分ける時代に入ったんだと思うわよ」
「結局私も専門家じゃないし、ハッキリとは分からないわ」っとゆりかは付け加えた。
「さてと。本当はプロカードゲーマーの話とか、各社が出しているカードゲームの特徴とかの解説もしたかったのだけれど、そろそろ下校時刻ね。今回はこの辺にしましょうか」
「何ぃ!カードゲームにプロとかいるのか!?」
「菜々は、女の子向けの着せ替えカードの解説を聞きたかったですぅ」
2人は不満の声を口々にあげた。
「校則を破る訳にはいかないわ。生活指導の斎京先生に怒られたくないでしょう?」
「あぅあぅ・・・」
トラウマがある菜々はイヤイヤと顔を横に振った。
「だいたい、忍が変な誤解をしたり、私にちょっかい出したりするから、時間がなくなったんでしょう」
「・・・まぁ・・・そうじゃない事もない事もないかも」
歯切れが悪くなる忍であった。
「今回は「カードゲームについて学ぼう」と題しながら、横道にそれまくってしまったけれど、まったく興味がなかった人に『TCGやTCAGって凄いんだな』っと思ってもらえただけでも収穫だと思うわ」
「そうですね。各社のHPを見てみたり、コンビニとかで実際に現物を購入してみるのもありですね」
「菜々の言う通りだな。TCAGだったら1人でも楽しめるしな。・・・・・あたしみたいにね、ふふ」
菜々に対しての誘いを、華麗にスルーされた事を思い出し、感傷に浸る忍。
「では、『○○について広く浅く学ぼう』第3回はここでお開き。では、皆様ご機嫌よう。また会いましょう」




