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陰陽塾の塾生  作者: スズムラ
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蚤寝晏起

 

 あの災害からもう、数日もたったある日の事だった。もう、風景は秋空になっている。

 ベッドで目を覚ます。「あれ?」と虎我は寝ぼけた眼で辺りを見渡す。

 ――そこは知らない部屋だった。

 公園で黒い妖怪に襲われ、その後靄に飲み込まれた後からの記憶が全く思い出せなかった。と言うよりそれは、白紙の本の様に何一つ記されていない。

 取りあえず、ベッドから起き上がる。

「……ここは何処だ?オレはあの後どうなったんだ?」

 ガラガラと扉が開く音がした。そこから入ってきたのは、桂馬や辰津見が着ていた制服を身にまとった帯刀冬鬼だった。虎我の間抜けそうな顔を見て笑う。その隣にもう一人いた。率直な感想は綺麗で可憐だ。

 その人はグラビアモデルの様に腰の括れがくっきりとして、身長もヒールの高さがあるものの背の高い冬鬼と目線が合う所にある。胸も並のサイズではない。よく言うボン・キュ・ボンをそのまま絵に描いた様なグラマスな体系をしている。世の男子ならイチコロだろう。赤縁のレンズの下部がフレームで縁取られた眼鏡をかけ、その下の目は少し吊り目気味の目をしている。おくれ毛を除く髪を全て一点に集中させ、ゴムでアップにしたポニーテールをしている。膝丈まである、汚れも一切無い真っ白な白衣を着ている。

「えーと、この人は?」

「あら、ようやくお目覚めかしら?」

「えっと……」

「すいませんね。先生(・・)こいつが迷惑を」

「せ、先生?」

「ここは陰陽師育成機関塾よ。そこで、私は教師をしているの」

「お、陰陽師?え、何でオレそんな所に居るんですか?」

 さっぱり状況が掴めずあたふたする虎我を見兼ねたのか冬鬼が解説する。

「俺達あの日、桂馬と辰津見にここまで運ばれたんだよ」

「そうよ。冬鬼君は目が覚めるのは早かったけど、君は一向に目が覚めなくてね。心配したのよ?」

「そ、それはご迷惑を」

「君は悪くないわ。その代わり一つ質問ね」

「はい」

「君()陰陽塾に入学しない?」

「……え?()って、冬鬼もか?」

「そうだぜ」

「でも、オレなんか」

「どうかしら?君には才能がある見たいだし。でも、強制はしないわ。ゆっくり考えてちょうだい」

 初めはわけもわからず戸惑ったが、虎我自身の答えは既に出ていた。

「……オレ、入学します!」

「……!そう、わかったわ」

「ほらよ」

 冬鬼が虎我目がけて何かを投げる。

「え?」

「入学祝だってさ」

 虎我は初め貰ったものに目をやるが、上を向く。先生は何も言わなかったが、何処か微笑んでいた。

「ありがとうございます。でも、そうして?」

「きっと君なら、受けてくれると思ったのよ。でも、その前に病み上がりで申し訳ないんだけど……はい、これね」

 何処から取り出したのかはこの際触れないでおこう。本の山が虎我の手元に置かれた。

「え?なんですかこれ」

 一瞬、嫌な予感が過る。

「え?何って勉強よ。入学試験は一応免除されてるんだから、これくらいはしないと」

「免除?どうしてですか」

 一番嫌な試験の予感は外れたものの、先生の言葉に疑問が残る。

「あら、やりたかったの?」

「いえ、そういうわけではなく」

「君達が特殊(・・)だから、今はここで預からことになってるのよ」

特殊(・・)?」

 すると、急に外が騒がしくなった。バタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。その後聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「……ね、姉さん《・・・》。虎我くんの様子は――!よ、ようやく目が覚めたんだね」

 桂馬は入ってくるなり急に虎我に抱きつく。

「な!だ、抱きつくな!」

「あ、ごめん。嬉しくてつい……だって、虎我くんあれから一週間(・・・)も目を覚まさなかったんだから」

「い。一週間?!」

「うん」

「はいはい、感動のご対面は済んだかしら?」

「ありがとう姉さん(・・・)

「私は何もしてないわよ」

「……さっきから気になってたんだが、その姉さんって……もしかして?」

「うん。血の繋がったボクの姉さんだよ」

「通りで面影か似ていたのか」

 と、驚きもせずに納得する冬鬼とは違い、驚きを隠せず渡された本の山を落とす虎我。

「そ、それはさすがに驚き過ぎだよ」

「本当に失礼ね。私は正真正銘の鍛冶屋敷桂馬の姉の鍛冶屋敷(かでやしき)葛葉(くずは)よ。まあ、今は別居中だけどね」

「いや、さすがに男子寮まで来たら、ボクもどうかと思うよ」

 また、外から来訪者が来る。

「なんだか騒がしいと思ったら。君達か」

「たまたま通りかかっただけだ」とか言いそうな物言いの雰囲気で遣ってきた風祭辰津見だった。

「辰津見貴方も運ばれてきた時凄く心配してたくせして何言ってるのよ。素直に喜びなさい」

「ば、馬鹿言わないでください!?」

 図星を付かれ、焦り激怒する。

「心配してくれてありがとうな」

「……べ、別に君の心配などしていない。まあ、元気そうで良かったな。……そう言えば、君の名前は聞いていなかったな。僕の名前は知ってるだろ?風祭(かざまつり)辰津見(たつみ)って名前ぐらいは」

「まあな、オレは逢坂虎我だ」

「……覚えておいてやる」

 と、それだけ言い残しそそくさと外へ出ていった。

「台風の様な奴だな」

 何故か、冬鬼はニタニタと面白い物を見る様な目だった。

「後で寮に案内するから、その制服に着替えてくれる?私は外に出てるから」

「なら、俺も。色々準備がるからな」

「色々って何だよ!?」

「色々だ色々」

 相変わらず冬鬼の顔はニタニタと笑いが絶えなかった。そのまま、この部屋を後にし、外に出て行った。


 外見は変わった感じだが、構造としては普通の制服と何ら変わりなかった。制服のサイズもピッタリだ。その辺は、冬鬼が知っていたのだろうと考える虎我。

 着替え終わり、外に出る。

「あら、似合うじゃない。サイズもピッタリだし。あの冬鬼君って一体何者なの?幼馴染みなんでしょ?」

「いえ、ちょっと違いますかね。付き合いはそれほど長くは無いんですよ。でも、腐れ縁といいますかね。3年間一緒に居ましたがいまだに謎が多いですよ、あいつは」

「そうなのね。では、男子寮へ行きましょう」

 鍛冶屋敷先生についていく形で男子寮を目指すことになった。

 塾と呼ばれるとなんだか古臭い木造建築を思い浮かべそうだが、設備はしっかりとし、窓から見た景色は爽快でもあり、高すぎて怖い気もした。

 先生の話によると、陰陽師の卵たちが通う学校で、正式名称「陰陽師育成機関塾」略して「陰陽塾」と呼ばれている。だが、正式名称がもっと長いという話もあるらしい。これは陰陽機関から正式に許可を受けた陰陽師育成機関であり、プロの陰陽師を目指す人々が集まっている。塾舎は東京にあり、全国から陰陽師志願者が集まる難関塾である。一科生は座学で基礎を学ぶのが主だが、二科生からは実技が増えていき、講義についてこられない者は切り捨てるのが陰陽塾の方針であり、途中退塾者も多いという。その一方で、プロが受講をしに来るなど、講義のレベルは非常に高い。半世紀近い歴史がある由緒正しき育成機関であり、陰陽塾の卒業生のほとんどはプロの陰陽師になるとのこと。

 塾舎を出て、徒歩15分近くまである。そこで目にしたのは塾舎とは全く反対だった。

「……えーと、ここってそんなにすごい塾なんですよね」

「まあ、仕方ないよね」

「どうして、寮だけは少々年期が入った木造建築なんですか?」

「気にしても何も始まらないよ。見た目はともかく、設備だけは一級品だよ。一部屋だけでも8畳間だからね。まあ、同居人は入るけどね」

「見た目は認めてるんだ」とそんな事を思う虎我。

「そもそも、この見た目は目立たないようにするためのものなんだよ。そのせいで道に迷ったって人はいるらしいけど、あんま気にしないでも大丈夫よ」

「さすがに、それは気にしますよ!?」

 ツッコミを入れる虎我の肩をポンッと叩く鍛冶屋敷先生だった。

「私は今から用事があるから、中に居る冬鬼君に後は聞いてね」

 虎我が「えっ」と疑問と何故か後悔が過る。

 結果的に何も始まらないので、寮の中に入る事にした。



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