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陰陽塾の塾生  作者: スズムラ
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相縁奇縁

「あっちは、公園だったな」

「……え、まだ行くのかよ」

「……ちょ、ちょっと待ってよ!」

 と、聞き覚えのある声が遠くの方から聞こえた。

「お前、また来たのか……」

「そんな、めんどくさそうな目で見なくても……」

「で、何の様だ?俺達は急いでるんだが?お前と取り合ってる時間は無いんだが」

「キミたちどうやって妖怪たちと応戦するつもりなの?元凶は大量の妖怪の住処なんだよ?」

「知ってる。3年前に体験したからな」

「オレは体験してねーぞ」

「なら、ボクも一緒に行くよ!そこに行けば辰津見君と会えるかもしれないし」

「勝手にしろ」

 ほっと、胸を撫で下ろす少年。

「そうそう、名前まだ聞いてなかったな。オレは逢坂虎我。で、こっちの目付きが悪いのは――」

 「まあ事実だが」と少し愚痴をもらし、

「帯刀冬鬼だ」

「ボクは桂馬。鍛冶屋敷(かでやしき)桂馬(けいま)だよ」

「外見の割に大層な名前だな。ここまで名前負けしてる奴初めて見たぜ」

「そ、それは言わないでよ……」

 面白がっていじる冬鬼に対し、よく言われるのだろうか桂馬は少しどんよりとした表情を浮かべた。

「…で。その、辰津見って奴は何もんなんだ?」

「風祭家本家の次期当主にして天才と称えられ、豊かな才能と見知はボクらの遙か先を行く皆の憧れの存在だよ」

「へーそんなお偉いさんなのか?」

「うん、そうだね」


「……おい、お前らあんま悠長な事言ってる暇ねえぞ。そろそろ妖怪達のお出迎えだ」

「ボクの出番だ!『影なる姿を成し陰を祓う者よここに参らん!急々如律令!』おいで!〈天々(てんてん)〉!」

 桂馬の掛け声と共に一体の人型をした天狗と思われるものが出現した。虎我は驚きを隠せないが、相変わらず慣れているような雰囲気の冬鬼だった。

「〈傀儡〉か」

「正確には天狗の(・・)だけどね。そもそも、今はそんな呼び方しないと思うよ」

「あ、ワリい。〈式神〉だったな」

「『〈天々〉!我が鍛冶屋敷桂馬が命じる!陰なる邪気を祓い討て!』」

 そのまま、その式神は主命である命令に従いこちらに向かってくる妖怪達を次々と倒していく。

「す、すげー」


「感心してる場合じゃないよ!」

 冬鬼は舌打ちをした。

「囲まれたか」

「……複数使うのはあんまり得意じゃないんだけどな……この際仕方ないよね」

 腰に付けてある札がしまってあるケースに手を出し、札を無造作にばらまく。

「『…急々如律令!』」

 と、また唱える。そこからまた、式神と呼ばれるものを召喚した。今度は武者の様な案山子の姿をしていた。

「『主命だよ!邪を祓い討ち消滅させろ!』」

 一斉に式神達が妖怪達に向かっていき、応戦する。

「さあ、今のうちだよ。行こう!」

 戦陣を駈ける兵士の如く虎我達はその場を離れた。


 森林まで駆け込み、一休みする。だが、桂馬の疲労が尋常ではなかった。

「……こ、ここまでくればさすがに……追い駆けてこないよね?……ぐっ!」

 と、膝を付いた。

「おい、大丈夫か!?」

「あはは……一度に使いすぎたみたいだな……」

「あんな、無茶するからだ。こんな所に置いていくわけにもいかねえぜ」

「あはは……以外と(・・・)キミ優しいんだね」

「以外とは余計だ」

 冬鬼は珍しく失礼そうな表情を浮かべる。

「……それは、よかった。……ボクは大丈夫だからさ……〈簡易結界(かんいけっかい)〉で身を守る術はあるから……」

 一つ溜め息をもらした冬鬼は、

「……それ使うのにも体力必要なんだろ?」

「あはは……そんな事も知ってるのか……」

「じゃあ、ますますここに置いておくのは危険なんじゃないのか」

「担いで行くしかないだろ」

「んなもん誰がやるんだよ」

「俺しか居ないだろ?それじゃあ、お前がやるか?」

「さすがに無理じゃないかな……人一人担ぐのは……」

「なら、いいな」

 軽々、桂馬を担ぎおんぶする。「意外に男が男を担ぐのはシュールな絵図だ」とそう思うかのような目の虎我だった。

「……ご、ごめんね……」

「そんなこと言ってる暇あるなら、まず休め」

「……そうさせてもらうよ」

 桂馬は目を閉じる。そのまま、桂馬を担いで虎我達は走り出した。

「急ぐぞ。ああ、言っとくが、妖怪と接触したらまず、逃げることが優先だからな。絶対に応戦するなよ」

「わかってるって」

「お前の事だからわかんねーんだろ」

「それって遠まわしに酷くない!」

「静かにしろ。起きるだろ」

「わ、悪い」


 目の前から明るい光が差し込む。

「ここを抜けた先が公園だ」

「……っ!これはやばいな……」

「な、なんだこれ!?」

 地面は無数のひびが入り、しかも、土は溶岩の様にゴポゴポと湧きしてきた。

 遠くから声が聞こえる。誰かが応戦している様な声だった。

 「邪魔をするな!」とブンッと槍を振りまわす。応戦していたのはさっき屋上で出会った辰津見と言う少年だった。一段落したようで、一つ溜め息をもらす。駆け寄るこちらに築いた辰津見は何事もなかったかのように平然としていた。

「また君たちか。よく解除出来たな」

「まあ、こいつのお陰だ」

 さすがに辰津見でも、どう対処すべきか見当つかず苦笑いをしながら溜め息をつく。

「……桂馬起きろ、起きろって」

 ぺちぺちと何度も桂馬の頬を平手打ちする。ギロリと目付きが凶悪化する。手に持つ槍を桂馬の近くまで思ってくる。

「起きないと殺すぞ」

 またもや脅迫染みた――と言うより完全に脅迫だ。虎我の背筋が凍る。

「……へっ?!」

「お、ようやく起きたか」

「へ、え?え?え?」

 いまいち状況がつかめおらず、焦り困り果てていた。

「おい、そろそろ。復帰できるだろ?」

 冬鬼の背中から降りると、さっきまでとは見違えるほど、元気になっていた。

「……ふぁ~あ。よく寝た」

「もう大丈夫なのかよ?」

「ああ、こいつ数分寝ればすぐに回復するんだよ。その変わり、減るのが早いんだ」

「面目ない……」

 少し照れて、頭をかく。

「別に褒めてないぞ」

「うん、知ってる……」

 が、すぐに落ち込んだ。

 一瞬で目付きを切り替え、さっきまでの穏やかなムードが一瞬にして戦闘モードになる辰津見と桂馬。

「と。まあ、長話してる場合じゃないぞ」

「うん、そうだね」


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