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序章

今別件の小説を描いているので書き途中です。

「どちらがお疲れですか」


 艶のある男声に女性客はうっとりと答えた。


「全身です~」


 彼は微笑み「かしこまりました」と耳元でささやいた。


 彼の名は結城ゆうき むすび


 端正で甘く優しい顔、柔らかな猫毛の髪が更に柔和な印象を醸し出すが、男らしい体格。何よりも人を癒す手を持つ。



 未来・リラクゼーションサロンのリーダーで女性指名率男性指名率ともナンバーワンの27才のカリスマトレーナー。


「かなりお疲れですね、首から肩にかけて硬いですね――デスクワークですか」

「そう…なんですぅあっ、」

「痛いですか?」

「そこ…きもちいぃ」

(変な声ださないでほしいなぁ…)


 結城は苦笑いながら手を動かした。


 母指按捏…手根柔捏…体重移動……手根圧


 だんだんと手に熱が籠り、冷えた身体の血流がよくなる。


(体か楽になるぅ……はうぅ…意識が保てないわぁ)



 ほどなくして女性客は眠りに落ちた。



「お疲れさま、おむすびくん」

「未来さん、そのあだ名やめてー」

「いいじゃない、かわいくて」

「かわいくないです…さらに名字会わせると『おむすびやま』と同じ韻だし、下から読んでも同じって小学生のときからかわれたんだから」

「やまもとやま…みたいな?」

「そう、それっ……て、未来さん幾つなんだ?」

結城の質問には答えないで飛鳥未来(あすかみらい)は笑いながら言う。

「私の名前もスゴいわよ、ちょー前向き」

「ぷっ……」

「こら笑うなっ」


 コツンと額を叩かれた。


 飛鳥未来。


 未来・リラクゼーションサロンのオーナー兼社長。



 若くて明るくユーモアある未来の人気は高い。


 整体師に成り立ての頃はデザイナー業の傍ら、両親を練習台に祖父母や親戚に施術していたが、評判を呼び小さな駅前にて小さなリラクゼーションサロンを立ち上げた。


 店経験のない未来は切磋琢磨して、評判をあげ、二年目でなんとか安定収入を得るようになると同時に、結城 結を雇用した。


 それがきっかけで惹かれあい、結婚前提で付き合うようになり、未来の誕生日の7月に挙式をあげることになっていた。

「でも結婚したら結が飛鳥姓になるよ」

 一応、婿養子になるのでそうなるが…。

「飛鳥結…あすかむすび……あすが結ぶ……名前も変えちゃう?」

「なんか実りある名前になりそう…」

「ふ、ふ、ふ…実は子供の名前も決まってるのよ…」

「まさか」

「ミノルって」

「だじゃれでつけていいの? でも、いい名前だ」


「でしょ~、」と嬉しそうに笑った飛鳥の顔を生涯忘れない、忘れられない。



 だって君はもう……いないのだから……。


 ★


「気を付けて。お腹の赤ちゃんが驚いちゃうよ」


 結は未来の身体をいたわるように支えた。

 少しの段差に気づかすに躓きそうになったからだ。うしろについてなかったらどうなっていただろう。

 彼女は汗ばんだ額を拭いながら微笑む。


「大丈夫大丈夫、お腹の双子ちゃんもお父さんのおかげで無事よ、ありがとうね。――じゃあタクシー待たせてあるから行くね」

「……今日は俺も休もうか?……心配だよ」

「なにバカいってるのッ、今日は指名のお客様が5人も入ってるし、ミホもタケルくんも忙しいのよッ、休めるわけないでしょ!」

「でも…」

「心配しないで。赤ちゃん、無事に産むから――約束」

くいッと襟元を掴んで結の唇に唇をかさねた。


「じゃあね」


 母になるという強く美しい笑みを浮かべてタクシーに乗り込んだ。

「未来さん、大丈夫かな…」


今日はやけに不安でしかたなかった。


 ふと結は空を見上げた。


 黒い霧雲が東からたなびきはじめていた。


 ――――不吉だ……、


 そう呟きかけて頭をふる。

 何もかもはじめてなことで不安なだけだ。

「考えすぎ、か……」


 今日は予約のお客様が終わったら直ぐに未来のもとに駆けつけよう。



「結城先生ってマスオさんだったの?」常連客の香川ユリは驚いて目を瞬いた。今日最後の指名客である。

 40手前の女性だが20代のように若々しい。

 先日第5子を出産したとは思えないほど。

 かといっても結目当てでくる女性客とはちがい落ち着いた会話もできるので、気安い客だった。

 ここ数日は脚の浮腫みをとるために《未来》に通ってくれている。


「結城って名乗ってるからまだ結婚してないかと思ったわ」

「結婚しましたよ、式もあげたし…ただハネムーンは延期ですけど」

「赤ちゃん生まれてから?」

「そうですねぇ」

「なんでまだ結城なの?」

「姓を変えないのは人気を落とさないようにとか…で」


「あー、先生目当てでやってくる女性客多いものねぇ……既婚って知ったらショックかも」


 フフ、と笑い結もつられて笑いながら手は緩めない。


 彼女の脚の浮腫みは来店時はひどかった。


 脚が三倍に腫れて軽く触ってもいたがっていたが今は強めに流しも痛がらないし、ゴリゴリした老廃物も緩和している。


 ふくらはぎに母指を滑らしながら微笑む。

「浮腫みだいぶなくなりましたね」

「ん、先生のおかげよ」

「そんなことないですよ、ちゃんとお風呂でもやっているでしょ、マッサージ」

「でも自分の手でやるより先生にやってもらうのが一番よ、あ・未来先生にもやってあげなさいよ、出産後は辛いんだから」

「はい」


そのあとしばらく談話していると、一本の電話がかかってきた。


「結城先生大変です! 未来先生が……」

「未来さん、僕も子どもたちも相変わらず元気で毎日大変だけれど嬉しいことも楽しいことも同じぐらい巡っているんだ……。そう……もうあの子たちが生まれて10年、君が眠りについて10年だ」

 そっと、未来の手を握って頬にあてる。


 君が事故に会い、それでもお腹の子供は守った……それも二人も…。

 けれど君はこの子らの顔見ることなく眠りについてしまった。

 いわゆる植物状態……。

 目覚めることは難しいと侍医はいったけれど、そんなことはないと僕は信じている。

 きっと、目覚めてくれるよね未来さん……。

 未来さん……。


 後悔の涙があふれる。


 やっぱりあの時僕が君を病院へ送っていれば事故になんてあうことなんてなかった。

 子供たちと楽しい新しい生活がまっていたのに。

 未来さん、未来さん…未来さん!


 抱きしめ頬をなで、くちづける。


 お伽話では姫にくちづけすれば目覚めるというのに、現実ではありえないこと。


 でも、もしかしたらと思い未来の唇を求めてしまう。返してくれることはもちろんないけれど……。


「パパ。もうはいっていい?」

「だめだよ、愛を語らう二人の間に割って入ったら馬に蹴られちゃうだろ?」

「馬なんて病室にはいないもん!」

「あとで蹴られるんだよ、ばーか!」

「うんなことあるかー!」

「こらふたりとも入っていいから病院で喧嘩しない!」

「「はーい」」


 未来が生んだのは双子の姉弟。

 

 実蘭ミラ雲流クル


 二卵性だけれどとてもよく似ていて、ふたりとも父の結より未来によく似ていて目が大きく睫毛が濃くて可愛い。

「もう二人っきりの時間は大丈夫なのパパ?」

「もうすこしラブラブしてていいんだよ?」

 

 結構ませているけれど寂しがり屋で、すぐに未来の手を握って先ほど結はしていたように頬にあてて今日の出来事を未来にかたる。


「今日僕らの誕生日なんだよ。誕生日プレゼント沢山お客さんからもらっちゃった」

「気持ちだけでいいんですって、いったんだけれど受け取ってくれって、嬉しかったけれど」

「でね、僕たちもお店の手伝いしているんだよ、電話番も受付もできるようになったんだよ」

「小遣いもすこしUP! 他のこと遊ぶよりお店の手伝いしていたほうがたのしいの」

「将来はパパの手伝いをするんだよ。ううん、パパの跡を継ぐの」


 結はほろりと嬉し涙が流れた。

 未来さんの前では自分より正直に話しているのがちょっと寂しいけれど成長が嬉しい。

 

「でもね、ママからもいつか誕生日プレゼントがほしいな」

「いつか目覚めてね、絶対だよ」


 心からの願い、心からの欲しい物。


 二人が握る手の強さは切実で……。


 結はぎゅっと胸を掴んで唇を噛んだ。


「きっと目覚めるよママは」

 二人の頭を打きよせて頬ずる。


 そう、きっと、いつか目覚める。


 そして僕たちはいついつまでもその日が現実になる日の夢をみる。


 いつでも、待っているから。





「ミラクル、虹色、カラー、COLORS」

「COLORS、いいねその名前!」


 実蘭と雲流はもうひとつの夢をみる。


 父の店とは別の自分たちの店を。

 いつのことになるかわからないけれど、父に師事し父のように店を持つことを。

 もちろん未来リラクゼーションサロンも継ぎたいけれど。

 

 自分の店を持ちたい、そんな夢がいつしか二人の胸に芽生えていた。

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