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もう終わったこと  作者: ミカン♬


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7/9

7 後悔の始まり

 私がレリアーナを拒絶すると、会場には不穏な空気が漂った。


 それを感じ取ったのだろう。

 小さな声が、私を呼ぶ。


「パパ?」


 ……ニーナ。


「私はパパではない」


 ニーナの頭を撫でて──これで終わりだ。

 歪な家族ごっこは、もう続けるべきではない。


 なのに、レリアーナはまだ私に希望を抱いていた。


「カミーユ、ニーナも貴方を慕っているわ。私達、本当に終わりなの?」

「君が裏切った時点で、私達は終わっている」


「お願いよ! 許して……」

「私は君達に同情しただけだ」


「カミーユ……愛しているの……」

 泣き崩れるレリアーナ。


 彼女は私よりも恋人を選んだ。私への愛などあるはずもない。

 今は贅沢な暮らしを望んでいるだけなのだ。

 

 やがてローグ伯爵家の者たちは屋敷を後にした。


 すべてが終わり、長年抱えていた重荷を下ろした気分だった。


 ……もっとも。


 レリアーナは、購入させた品々をしっかりと抱えて帰っていった。

 そのしたたかさに、もはや苦笑すら忘れるほどだ。



 レリアーナ。

 あの高価な品々を見るたび、己の過ちを後悔するがいい。



 メイベルの横顔が、脳裏に浮かんだ。

 戻ってきた時、妻にはもっと相応しいものを贈ろう。

 ——私の想いが伝わるものを。


 屋敷は静寂に包まれる。

 ようやく訪れたはずの静けさが、なぜか寂しい。


 メイベルならこんな時、何も言わず、ただ静かに寄り添ってくれただろう。


 早く会いたいと、心から思った。



 ◇



 両親が屋敷に戻ってきた。


 居間には、穏やかな時間が流れていた。土産話に耳を傾けながら、私はぼんやりと思う。こんな日常が、これからも続けばいい――と。


 あとは、妻が帰ってくるだけだった。


 屋敷に子どもの声が響けば、きっと賑やかになるだろう。両親も孫ができれば、どれほど喜ぶか分からない。


 ……そのためにも、

 夫婦の在り方を、もう一度きちんと話し合おう。


 ──そう思っていた。


 だが、その願いは、無残にも打ち砕かれる。


 メイベルの兄、キリウスが我が家を訪れたのだ。



「メイベルとの離婚はどうなりましたか? 連絡が無いので心配で」


 挨拶もそこそこに彼は私に尋ねた。


「離婚などしていない。メイベルはセシリーに会いに行ったんだ」


 するとキリウスは首を振って「アイツ、どういうつもりだ」と呟いた。


 そして知った。メイベルに離婚されたことを。



 神殿から封書は届いていたが、どうせ寄付の要求だと思い放置していた。


 ──白い結婚による破綻。


「うそだ……」


 視界がぐらりと揺れる。


 隣では母が顔色を失い、そのまま崩れ落ちた。慌てて使用人たちが駆け寄る。


 私は……一歩も、動けなかった。


 そして思い出す。


 初夜に、私は彼女に言ったのだ。


 『いつでも離婚してくれて構わない』と。



 メイベル……。


 いつから、決断していた?


 どうして、相談してくれなかったんだ……こんな、大切なことを。



「一体、留守中に何があったのだ。セバス、報告しろ!」


 報告を聞き終えた父の視線が、まっすぐに私を射抜いた。


「メイベルは素晴らしい嫁だった。だからいつかお前も受け入れて、良い夫婦になると信じていたのだが。まさかレリアーナを優遇して、メイベルを軟禁するなど、お前は何を考えていたんだ!」


 胸が、ずきりと痛む。


 分かっている。あれが愚かだったことくらい。


 それでも――言い訳が、喉元までせり上がってきた。


「軟禁などと……メイベルには部屋で待機してもらっただけです。レリアーナには後悔させたかった。それだけなんです」


「後悔させるなら、門前で追い払えばよかっただろう! 招き入れた時点でお前は、あの裏切者に未練があったのだ!」


 ──未練?


「ち、違います。レリアーナを後悔させて、追い出せばそれで……」


「それでこの結果なのか。馬鹿者め! ああ、メイベルには申し訳ない。どう償えばいいのか」


 父の声は、怒りよりも――深い失望に満ちていた。


 胸にじくじくと、鈍い痛みが広がる。


 ……私はまた、間違えたのか。


 いや、最初からずっと、間違い続けていたのかもしれない。


「話し合えば、メイベルはきっと分かってくれます」


「何を話し合うと言うのだ。メイベルはお前に、もう愛想が尽きたに違いない」


 父は頭を抱え、深くため息をついた。


 ……本当に、私は。

 どうしようもない男だ。


 嫡男としての責任も、夫としての在り方も、何一つまともに果たせていない。

 悩みばかり抱えて、肝心なところで誤る。


 それでも――


「セシリーの所に行ってきます。メイベルを連れ戻します」


 きっと、メイベルは分かってくれる。


 ……今までだって、そうだった。


 どんな時も、彼女は微笑んで受け止めてくれた。


 レリアーナに未練などなかった。

 誤解を解けば――許してくれるはずだ。



 震える手で身支度を整え、私は逃げるように屋敷を飛び出した。


 転がり込むように馬車へ乗り込み、強く扉を閉める。


 早く、早く──


 メイベルの元へ急がなくては。



読んでいただいて、ありがとうございました。

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