第43話:カイの選択
――合理の極限
中間評価週。
掲示板には、難易度別に並ぶ課題一覧。
A:基礎達成型
B:応用選択型
C:挑戦加点型
Cは高難度。
成功すれば大幅加点。
失敗しても再挑戦は可能。
――挑戦を促す設計。
それがこの制度の誇りだった。
カイは一覧を静かに見上げる。
指先は一瞬、Cの欄で止まる。
そして。
Bを選択。
必要単位は満たす。
評価も安定。
成績上位圏は維持できる。
無傷。
結果発表。
カイの評価は「優」。
危なげなく。
確実に。
教員はうなずく。
「堅実だな」
誰も否定できない。
制度上、完全に正解。
放課後。
王子が廊下で呼び止める。
「なぜ挑まない」
カイは一瞬だけ視線を止める。
「必要がありません」
即答。
迷いはない。
「Cは加点が大きい」
王子は言う。
「挑戦は評価される」
カイは肩をすくめる。
「成功率が六割」
「失敗時の再挑戦で時間消費」
「他教科への影響」
淡々と続ける。
「総合評価はB選択の方が高い」
「期待値が安定します」
王子は黙る。
理屈は正しい。
制度は挑戦を罰しない。
だが。
挑戦しなくても、十分に高評価を得られる設計でもある。
「怖いのか」
王子はあえて問う。
カイは静かに否定する。
「恐怖ではありません」
「最適化です」
翌週。
Cを選んだ生徒の一人が失敗する。
再挑戦。
評価は最終的に「良」。
カイはそれを見て、ただ記録する。
感情の揺れはない。
合理の中で、すべては計算される。
レディアナが王子に言う。
「制度は彼を否定できません」
「合理的判断です」
王子は窓の外を見る。
揺らぎのない空。
「合理は」
彼は低く言う。
「挑戦の衝動を削る」
後日。
特別加点の追加枠が発表される。
C成功者のみ対象。
カイはわずかに眉を動かす。
だが動かない。
もう締切は過ぎた。
選択は確定している。
彼はノートに書く。
次回は条件次第でCを検討。
感情ではない。
次回最適化のための更新。
王子は静かに問い続ける。
制度は、
彼に何を教えているのか。
挑戦は“してもいい”もの。
だが“しなくても困らない”もの。
合理の極限。
傷つかず、
失敗せず、
安定を積み上げる。
その姿は美しい。
だが。
「揺らぎがない」
王子は呟く。
「角が削られている」
夕暮れ。
カイは成績表を受け取る。
完璧に近い数値。
欠点なし。
減点なし。
無傷。
彼は小さく息を吐く。
満足。
それで十分。
挑まない自由。
制度はそれを許容する。
否定できない。
強制もできない。
だからこそ。
王子の胸に、わずかな違和が残る。
挑戦は、
推奨では足りないのではないか。
合理は正しい。
だが。
正しさだけで、
未来は揺れるのか。
カイは歩き去る。
足取りは軽い。
傷一つない選択。
制度は今日も、正しく機能している。
そして、
揺らぎはまた一つ、
静かに削られた。




