第35話:落葉
――継続と別れ
朝の空は、透明だった。
中庭の木々はすでに色を落とし、
石畳の上に黄金の葉が重なっている。
一期生――卒業の日。
咲いた者も、
咲かなかった者も、
同じ門をくぐる。
違う未来へ。
同じ学院から。
講堂は満席だった。
成功者と呼ばれた者は前列に座る。
目に見える成果を持ち、
名を知られ、
進路を祝福される者たち。
だがその後方には、
未達と分類された者たちもいる。
静かだ。
恥ではない。
敗北でもない。
ただ、違う時間を歩む者たち。
王子は壇上に立つ。
拍手は穏やかだ。
彼はゆっくりと会場を見渡す。
ここには、
完成した者はいない。
途中の者だけがいる。
「諸君」
声は低く、よく通る。
「本日、諸君は学院を去る」
一拍。
「だが制度は残る」
ざわめきは起こらない。
それは彼らがすでに理解していることだから。
「成功した者もいる」
「望んだ成果を得た者もいる」
「だが」
視線が後方へ向く。
「間に合わなかった者もいる」
沈黙。
否定はしない。
慰めもしない。
事実を置く。
「ここでの時間が、
未来の成果を保証することはない」
「しかし」
声がわずかに柔らぐ。
「ここでの時間は、消えない」
式が終わる。
帽子が空に舞うこともない。
ただ静かに、
名前が呼ばれ、
証書が渡される。
成功者の手は固く握られる。
未達者の手も、同じ温度で握られる。
差はない。
評価はある。
差別はない。
中庭。
落葉が舞う。
ある卒業生がレディアナに言う。
「私は、咲きませんでした」
彼女は微笑む。
「あなたは根を張りました」
彼は笑う。
「根は、見えませんね」
「見えなくても、無意味ではありません」
風が吹く。
葉が一枚、彼の肩に落ちる。
彼はそれを払い、門へ向かう。
振り返らない。
それでいい。
夕方。
門の外へ、最後の一人が出る。
王子は一人、中庭に残る。
落葉の音だけがする。
静かな音。
終わりの音ではない。
移ろいの音。
王子は独り言のように呟く。
「守るとは、残すことではない」
葉を一枚拾う。
乾いた音。
「残そうとすれば、固定になる」
「固定は、腐る」
彼は空を見上げる。
枝はほとんど裸だ。
だが、死んではいない。
「守るとは、続けることだ」
「人が去っても」
「思想が変わらなくとも」
「制度が呼吸し続けることだ」
風が強く吹く。
葉が一斉に舞い上がる。
一期生は去った。
学院は静かになる。
だが教室は閉じない。
評価は止まらない。
揺らぎも止まらない。
制度は続く。
人は去る。
去るからこそ、制度は残る。
残るからこそ、去れる。
日が沈む。
塔の影が長く伸びる。
王子は歩き出す。
冬が来る。
新しい生徒が来る。
同じ問いが繰り返される。
同じではない形で。
落葉は終わりではない。
地に還り、土となる。
春を支えるために。
継続とは、
別れを含む構造だ。
鐘は鳴らない。
だが学院は、静かに呼吸している。




