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土を選ぶ悪役令嬢  作者: 南蛇井
第二章 冬

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第2話:種の数だけ未来がある

冬の光は弱い。


生徒会室の長机に、布袋がいくつも並べられていた。

中身は、収穫のあとに乾燥させた種。


トマト。

かぼちゃ。

ハーブ各種。


秋の実りは終わった。

今は、未来の分配である。


セレスティーヌが慎重に袋を開く。


掌にこぼれ落ちる、小さな粒。


「……こんなに」


思わず息を呑む。


一つの実から、これだけ。


かぼちゃの種は白く、平たい。

トマトの種は小さく、薄い。


リシャールは帳面を広げる。


「数量確認」


乾いた声。


「トマト、推定三百二十粒」


「かぼちゃ、八十七」


「ハーブ混合、不明。分別中」


数字が並ぶ。


机の上は、可能性で満ちていた。


「全部植えたい」


セレスティーヌが、ぽつりと言う。


顔は真剣だった。


「空いている区画に、全部」


リシャールが顔を上げる。


「管理できない」


即答。


「水量、日照、温度、労力。冬の中庭は有限だ」


「温室があります」


「収容数は限られている」


数字と現実。


対して、感情と理想。


部屋の空気が、少しだけ張る。


種子学の資料が机に置かれる。


発芽率。


そこに並ぶ数字は、均一ではなかった。


トマト:85%

かぼちゃ:72%

ハーブA:60%

ハーブB:42%


「差があるのですね」


クロエが小さく言う。


セレスティーヌは資料を握りしめる。


「でも、ゼロではない」


42%。


半分以下。


それでも、可能性はある。


リシャールは静かに言う。


「低発芽率の種を優先すれば、空間効率が落ちる」


「効率が全てですか」


「制度は効率で回る」


「命は違います」


一瞬、沈黙。


王子アルフォンスは、机の中央に置かれた種を見つめていた。


粒はどれも似ている。


大きさも色も、ほとんど変わらない。


だが、未来は違う。


「見ただけでは分からぬな」


彼が呟く。


「ええ」


レディアナが穏やかに応じる。


「未来は外見に書かれておりません」


王子は種を一つ摘み上げる。


軽い。


何も約束していない重さ。


「発芽率は、統治できるか」


問いは、誰に向けたものでもない。


リシャールが答える。


「環境で上げることは可能です」


「だが保証はできぬ」


「はい」


セレスティーヌが立ち上がる。


「選びたくありません」


声は震えていない。


「芽が出るかもしれない種を、数字で切り捨てたくない」


リシャールは視線を落とす。


「全てを植えれば、全てが弱くなる可能性もある」


過密。


栄養不足。


共倒れ。


「選ばないことも、選択だ」


彼は言う。


レディアナが、ゆっくりと口を開く。


「全部植えなくても、全部失われるわけではありませんわ」


視線が集まる。


「植える種と、保存する種を分けるのです」


「保存?」


「春まで」


彼女は種袋を丁寧に整える。


「冬は急ぎません。眠らせておけば、可能性は残ります」


セレスティーヌの指先が、少し緩む。


「……捨てないのですね」


「捨てません」


王子が頷く。


「管理できる範囲で植え、残りは保管する」


リシャールは帳面に書き込む。


冬期発芽実験:高発芽率優先

低発芽率種:保存


言葉は冷静だ。


だが決定は、切り捨てではない。


夜。


種は小さな瓶に分けられ、棚へ並ぶ。


光の届かぬ場所。


静かな休眠。


セレスティーヌは最後の瓶を見つめる。


「未来は、ここに入っているのですね」


王子が答える。


「すべてではない」


「え?」


「未来は、土にもある」


レディアナが微笑む。


「種の数だけ未来がありますわ。でも、すべて同時に開く必要はありません」


窓の外、冬の風。


芽はまだない。


だが可能性は消えていない。


選別は敗北ではない。


保存もまた、平等の形。


リシャールは予定表を閉じる。


空白は残る。


だが棚には、種がある。


すべてを同時に抱えなくてもいい。


未来は、一度に芽吹かなくてもいい。


小さな瓶の中で、

無数の可能性が静かに眠っていた。

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