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土を選ぶ悪役令嬢  作者: 南蛇井
第一章 秋

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第12話:育っただけ

空は高く、風は澄んでいる。


王立リュミエール高等学院の中庭には、長机が並んでいた。

白布の上に、赤いトマト、橙のかぼちゃ、束ねられたハーブ。


掲示板には、簡素な文字。


収穫祭


装飾はない。

演台もない。

観衆席も設けられていない。


ただ、全員がいる。


全員参加


王子アルフォンスは袖をまくっている。


令嬢も平民も、教師も、区別なく区画に散っていた。


セレスティーヌは収穫用の籠を抱え、

クロエはかぼちゃの蔓を慎重に切り、

リシャールは収量を淡々と記録する。


「予定通りです」


「いや、少し多い」


「誤差の範囲だ」


小さな応酬。


笑い声。


だが劇的な出来事は起きない。


誰も倒れない。

誰も糾弾されない。

誰も告発しない。


ただ、実をもぎ取る音が続く。


ぷつり、と。


歪な実


王子は一つのトマトの前で止まる。


形が、少し歪だ。


丸ではなく、片側がへこんでいる。


色も均一ではない。


彼はそれを両手で包み、静かに摘み取った。


「……成功か?」


問いは、かつての彼らしい響きを帯びていた。


結果を測り、評価を求める声音。


レディアナが隣に立つ。


彼女はトマトを見つめ、微笑む。


「育っただけです」


風が吹く。


王子はその言葉を反芻する。


成功でも失敗でもない。


育った。


それだけ。


彼は歪な実を籠に入れた。


断罪広場


かつて演台が設えられるはずだった中央の広場。


今は、大きなかぼちゃが並んでいる。


丸いもの、縦に伸びたもの、少し傷のあるもの。


子どもたちがその周りを歩く。


「重い!」


「持てますわよ」


笑い声。


糾弾の代わりに、重さを量る。


断罪の予定日だったその日は、

静かな収穫の日になった。


誰も“変更”を宣言していない。


ただ、必要がなくなった。


物語補正


かつてこの学園には、目に見えない力が働いていた。


悪役と被害者。

緊張と断罪。

必ず訪れる劇的な転換。


だが今、何も起きない。


それでも物語は進んでいる。


物語補正は消えたのではない。


劇的な装置が、必要なくなったのだ。


土は循環し、

制度は輪作し、

失敗は養分になった。


だから、無理に波を立てる理由がない。


夕暮れの花壇


祭りの後。


机は片づけられ、実りは配られた。


中庭の隅、冬支度を始めた花壇。


土は整えられ、枯れ枝は刈られている。


レディアナがしゃがみ、土を撫でる。


「春になれば芽が出ます」


王子が隣に立つ。


「確定か?」


彼はもう、断定を急がない。


レディアナは顔を上げ、やわらかく笑う。


「可能性ですわ」


確約ではない。


保証でもない。


だが、確かにある。


王子は静かに頷く。


「悪くない」


夜気が降りる。


断罪広場には、かぼちゃの残り香。

花壇には、眠る土。


成功ではない。

勝利でもない。


ただ――


育った。


それだけで、十分だった。


冬は来る。


だが土は痩せていない。


そして春は、確定ではないが、

確かに、可能性としてそこにあるのだった。

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