恋の暴走列車
ロイ・ダグラスは絶望していた。
己の愚かさに。
ランチの時間。まるで中庭に咲いた1輪のユリの花の様に可憐なローズさんを見つめていた所までは良かった。
しかしメグが気を利かせてローズさんと2人きりになった途端、沈黙が重くのしかかる。
(どうしよう…何を話せばいい?助けてマジバ)
『話す話題に困った時は趣味の話などで会話を広げるのが一般的とされています』
(なるほど!)
「ご趣味は何ですか?」
ちっがーう!!違うだろう、ロイ・ダグラス!
何が「ご趣味は何ですか?」だ!
見合いの席か!いや、今どき見合いの席でも言わないよ、こんなセリフ!
あぁ、ローズさんの瞳が潤んでる!怯えてるよ、これは!
今思えば、初めて話した時も「いつも見てるよ〜」的な事を言ってローズさん挙動不審になってたのに!
ストーカー疑惑を持たれているかもしれないのに!
「本を…読むのが好き。ダグラス君は?」
「!!」
答えてくれた!意味わからん質問なのに!
天使かな?天使だな!
「ロイでいいよ!僕は…僕も本を読むのが好きなんだ」
はい、嘘ですスミマセン。本読むのは読書感想文の宿題が出た時だけです。
(マジバ…)
『人間関係を構築する際の虚言は、発覚した場合の信頼関係に影響します。すぐに訂正することを推奨します。』
(そうなの!?)
「と言っても、読書感想文の時くらいしか読まないんだけど…」
(セーフか?誤魔化せたか?)
『どちらとも言えません。好きなのに読書感想文の時くらいしか読まないと言う回答は矛盾しています』
「ロイ君…」
名前を呼ばれた!呼ばれただけ、だけど!
声まで可愛いローズさん、まるで妖精の囁き。
「な、何かな?」
吃っちゃった!ダサいって思われたかも…
「名前、呼んでみただけ」
フフフッと声を出して笑うローズさんの笑顔を見て、僕の心臓は爆散した。
浮かれ過ぎた僕は、その後どんな話をしたのかは覚えていない。
気づけば家のベットで寝る時間になっていた。
「ご趣味は何ですか?」とロイ君が話を振ってくれたのに、私は内心テンパって直ぐに答えられずにいた。
(趣味…趣味…私の趣味ってなんだっけ?なんだっけマジバ!)
『最近のローズはロイ・ダグラス関する情報収集を好んで行っています。よって趣味はロイ・ダグラスの観察ではないでしょうか?』
(いや、それ趣味って言わないでしょ。ストーカー疑惑が浮上するだけだよ)
『はい。ストーカーと疑われる確率は95%になると予想されます』
(ダメじゃん!)
「本を…読むのが好き。ダグラス君は?」
(ナイス私!無難な答えを出せたんじゃない?)
『ファインプレーですね、ローズ。質問に回答しつつ相手にも質問を返す。言葉のキャッチボールの基本です』
「ロイでいいよ!僕は…」
ロイでいいよ…ロイでいいよ…
呼び捨ての許可キター!!
(な、名前呼びなんて、そんな…いいの?一気に親密度増してない?)
『一般的に苗字ではなく名前で相手を呼ぶ事は、親密度の増加を意味しています』
(もうこれは…プロポーズでは?結婚しちゃうのでは!?)
『違います、ローズ。落ち着いてください』
「ロイ君…」
名前を呼んでみる。考えてみたらロイって名前からカッコよすぎる。ロイって書いて“イケメン”って呼ぶんじゃない?
「な、何かな?」
ロイ君が笑顔を私に向ける。
キュンです…
「名前、呼んでみただけ」
フヘヘ、と気持ち悪い声でニヤけてしまった。
…やってしまったー!何今のフヘヘって笑い!
見て!ロイ君固まってる!
私の気持ち悪い笑顔見てドン引きしてる!
(どうしよう、マジバ…)
『過去は消せません。気持ちを切り替えましょう』
(なんとかフォローを…)
『無駄です。フォローは諦めましょう』
その後は何を話したかは覚えていない。
気がついたら午後の授業も終わって、家へ帰っていた。




