恋の等価交換
ロイ・ダグラスに恋をしたローズは、学園へ通うのが少し楽しみになった。
(ねぇ、マジバ。今日こそロイ君に話しかけてみせるわ!)
『おはようございます、ローズ。その宣言を聞くのは10回目ですが、未だに成功報告を聞いていません』
そう、あの日ロイに話しかけられて恋に落ちてから10日。ロイとの間には特に何も進展はなかった。
しかし、ローズの行動は少しだけ変化した。
授業中以外はいつも俯いていた顔を上にあげただけ。
休み時間に教室を出る前に少しロイの姿を見つけるだけ。
その少しだけの変化で、ローズは教室で話しかけられる事が増えた。
「ローズさんって、話してみると普通の女の子なのね」
次の移動教室の事を話していた時クラスメイトのメグからそう言われて、ローズは首を傾げた。
「?私はいつも普通だよ?」
「それはわかってたんだけどね。初めてローズさんを見た時、天使かな?って思ったの」
「あっ、それわかるー!」
メグの横からもう一人話に参加した。
確かサイラス君だ。
「俺も女神降臨かと思ったもん。ロイなんか、口をポカーンと開けてさ!イケメン台無しでウケた!」
「それ!ロイ君、絶対ローズさんの事意識してると思う!」
ドキンとローズの胸が高鳴る。
ロイが?まさか!
あれから話なんで出来てないし、こっちが一方的に見てるだけなのに…?
「そんな、気のせいだよ〜」などと言いながら話を終え、ローズは図書室へと向かった。
(マジバ、さっきの話聞いてた?)
『申し訳ありません。魔力を通していない時間の会話は記録されません』
(ロイ君が、私のこと意識してるって!クラスメイトの子が!)
『データを整理します。ロイ・ダグラス、ローズと同じクラスの男子。黒髪に新緑の瞳の長身。笑うと目元が三日月の様な弓形になる左の目元にホクロのある大人びた顔立ちの美男子』
(どう思う?意識されてるかな?)
『プリントを渡された日から1週間以上接触がないと確認しています。恋愛的な意味での好意を抱いている可能性は低いです。』
(えっ、やっぱり…)
『一般的に男性は好意を持つ女性へは積極的に関わりを持つ傾向があります。残念ですが、今のところ恋愛へ発展する可能性は低いと思われます』
風船のように膨らんでいたハッピーな感情がみるみる萎んでいく。
『ローズ、今日こそはロイ君に話しかけるという目標はどうなりましたか?』
(うん…それはまた今度)
図書室へ続く扉が、今日は少しだけ重く感じた。
「ロイ君、ローズさんなら図書室に行ったわよ」
ニヤニヤと擬音の付きそうな笑顔でクラスの女子に言われた。
「ふーん、そうなんだ」
なんでもないように答えたが、内心でガクッと落胆する。今日こそ彼女と話をしようと思ったのに。
「おい、バレバレだぜ、ロイ君よぅ!」
女子と一緒にいたサイラスも一緒にニヤニヤとこちらを見る。
「さっきメグと俺とでローズさんと話してたんだけどさー」
「えっ、話してたの!」
僕も話したかったのに!と口から出る直前で止めたが、2人はニヤニヤをさらに強めて
「一緒に話したかったよねー?」
「ごめんね俺らだけー」
と煽ってくる。
「へーそうなんだ」
ちょっとイラッとしながら返事するとメグが話し出した。
「ローズさんね、最近教室を出る前に軽く教室を見回すの」
知ってる。僕もローズさんを見てるから。
「何か確認してるのかな?って思ってたんだけど、今日気づいたの。ローズさん、いつもロイ君見てから教室を出るって!」
「マジでか!?俺のこと見てるんだと思ってたー」
ガビーンとアホみたいな擬音を出してサイラスが大げさによろめく。
ドキドキドキドキ。心臓がうるさい。
えっ、マジで!?いや、僕もローズさんが教室を出る前に目が合うなーと思ってたけど!それは僕が見てるからだと思ってたし、何ならサイラスも目が合ってたみたいだし!?気のせいだと思ってたけど!
……えっマジで!?
「…たまたま、そう見えただけじゃね?」
「あらーそんな事言っちゃって〜」
「俺たちだって鬼じゃないぜ?認めるなら、協力してやらんこともない」
「………そうなの?」
「お礼は学食のマウンテンパフェでいいわよ」
「俺はスペシャルランチで!」
「交渉成立だ」
パンッと3人でハイタッチをした。




