恋のアドバイス
「あの席、誰の席だと思う?」
隣の席の友人に聞かれて、ロイは自分の2つ前の席に目をやった。
入学から1週間、その席は未だに主が不在のままだ。
「先生は風邪で欠席が続いているだけと言っていたけど」
ロイが答えると別の席の友人が
「噂だと可愛い女子らしいぜ!その子と中等学園同じやつが言ってた!」
と情報をくれた。
(女の子なんだ…)
とロイは思ったが、その後もその席に座るはずの女生徒は姿を現さず、ロイも他の生徒も新生活と新しい友人関係の構築に忙しく、その存在をすっかり忘れてしまっていた。
ある日ガラリと教室の扉が開かれ、そこに妖精が現れた。
淡水色のストレートヘアに髪と同じくらい透き通った水色の瞳の、泉の妖精。
教室が、シーンと静まり返った。
「あっ、ウィステリアさん…」
と誰かが呟いた。
それは、長らく空席だったあの席の主の名前のはず。
ローズ・ウィステリア、それがあの妖精の名前。
ウィステリアさんは教室前でしばらく立ちすくんでいたが、すぐ後に来た担任に席を教えられ静かに席に座った。
ロイの2つ前の席。
前の席のクラスメイトの肩越しに見える細い肩とキラキラした髪から、ロイは目が離せなかった。
(マジバ、胸がキュゥッとなるんだ)
『急な胸の締め付け感は、狭心症などの心疾患の前兆の疑いがあります。医療機関への受診を勧めます。』
(彼女ローズ・ウィステリアさんって言うんだ。まるで泉の妖精みたいに綺麗な子なんだよ)
『そうなんですね。ローズ・ウィステリアさんは心疾患の可能性があります。心臓外科への受診を勧めてください』
(頭が彼女の事でいっぱいなんだ…)
『脳神経外科の方がいいですか?』
あの日からロイはローズ・ウィステリアの事を目で追っていた。
入学式から1ヶ月ほどたって初登校した彼女は、クラスで少し孤立気味で、休み時間の度に姿を消していた。
クラスの女子達も彼女を気にかけているが、話すタイミングや話題に迷っているらしい。
「同じクラスに、彼女と同じ中等学園に通ってた子がいれば話しかけやすいのになぁ…」
などと話していたが、そんなに深く考えていないで声をかけてあげればいいのに。
そんな男子の言葉に
「じゃあ、アンタが話しかけなさいよ!それで私たちとの橋渡しして頂戴!」
などと言い返されタジタジになっていた。
黙って話を聞いているだけで良かったとロイは思った。
そんなある日、休み時間に図書室で課題の調べ物をしようと歩いていると、すぐ前にウィステリアさんがいた。
ヒラリと彼女の腕から1枚のプリントが落ちる。
さっき配られた課題の紙だ。
(どうしよう、マジバ!ウィステリアさんがプリントを落とした!)
『落としたものを返却してあげましょう』
(そうだね!うん、そうだ!そうしよう!)
『早くしましょう』
「これ、落としたよ」
綺麗な淡水色の髪が揺れて、彼女が僕のほうを向く。
僕が差し出したプリントを受け取りお礼を言う彼女。
「同じクラスのロイ・ダグラスだよ」
澄んだ泉のような瞳が僕を見つめる。
それだけで胸が張り裂けそうに早鐘をうった。
(次なんて話せばいいんだ…?マジバ)
思わずマジバに話しかけてしまった。
『初めて話す相手とは、今日の天気や季節の話題を話すのが定番です』
(了解!)
「いつも教室にいないから気になってたんだ。図書室に向かってたの?本、好きなんだね」
違うだろ!ロイ・ダグラス!
季節の話題でいいんだよ!それか今渡したプリントの課題について話せば良かったんだろ!
なんだ、いつも教室にいないから〜って!いつも見てます宣言!?気持ち悪っ!
あっ、ほら!ウィステリアさんの目が泳いでる!不審者扱いだよ!
「はい…それでは図書室へ行くので…」
「あっ、うん…」
そう言ってウィステリアさんは足早にロイの前から立ち去っていった。
(いつも教室にいないから気になってたんだ…ってキモくね?)
『はい、そうですね。ストーカーの相談でしょうか?』
(恋の相談だよ…)
『了解しました。ローズ・ウィステリアさんは、現在あなたをストーカーだと考えている可能性が高いです。』
(もう詰んでる…)




