7話 赤のパーティ
「ブルー……」ヒデの顔が険しくなる。
「そんな、嫌な顔をするな。」ブルーは何を考えているか読めない笑いをした。
「そんな事じゃねぇ、今日お前に言いたいことがある。」
「どうした。」
「レッド」
「⁉︎」ブルーの反応を見てヒデはにやりと笑った。
「お前は組織では色をコードネームとして扱っていたが、お前が唯一コードネームにしなかった色がある。いやしたくなかったのだろう?」
「ほう、それは?」明らかにブルーは冷や汗を搔いていた。
「レッド、お前の名前とは正反対の色だ。お前とは真逆、そして、血の色だ。――だから付けたくなかったのだろう?」
「フフ、想像力のいいことだ。」
「来るんだろう。ここに」
「そうだが、どうした。会いたくなったか?」
「いや、」
「それとも此処に戻りたいのか、なら今ならお前を戻してやってもいいが。」と手を差し伸べてくる。だが、
ヒデはその手を払いのけた。
「お前とは、縁を切る。じゃあな。」と冷酷な冷たい声で言った。そうして振り返り人込みの中へ消えた。
「これで、終わりだ。」とヒデは呟いた。その声は人の声にかき消され誰も聞いていなかった。
その時だ。ブルーのすぐそばの窓ガラスが割れたのは。
その音に皆、反応した。次の瞬間、ブルーの胸元から血飛沫が出た。一瞬だった。遅れて銃声のような音が聞こえこだまする。誰もがその瞬間を目に焼き付けた。いや、焼き付けられた。まるで見せつけられるかのように、ブルーに天から天罰が下されたように、その時間はどんな瞬間よりも長く永遠と流れていた。
皆が呆然としていた最中、ブルーが大きな音を立て床に倒れた。その途端会場内から悲鳴が響いた。皆平常を保てず混乱している。
その中でも一早く行動したのは、カズだった。カズはブルーに近寄った。
「おい、救急車を呼べ、あとこの会場に医者は居るか?早くしろ!」先程まで敬語で会話をしていたカズだったが、敬語を忘れ鬼の形相で訴えかける。
「俺は、医者だ。内科だがな。一応の処置はできる。」叫ぶカズの後ろから手を挙げ、声を掛けたのはヒデだった。
「それでもいい。頼んだ。」そう言ってカズはブルーのそばから離れ、自身の職場に応援の連絡を掛ける。ヒデは直ぐに処置を行う。
「どうした?」電話越しから同僚の声がする。
「ブルーが銃弾に倒れた。早く来い!」音割れをしているだろうが構わず叫んで応える。
「本当か?」と電話の向こうでは騒いでいるのが聞こえた。
ヒデが処置をしている最中、突然ブルーが目を覚ました。
(まずい、これじゃあ計画が…やはりあいつに頼んだのは失敗だったか……)ヒデは焦っていた。
「……くそ……あいつか……コウか……」ブルーはヒデを睨みながら言った。そう言って最後の力で口角を上げ、目を閉じた。息をしている感じではなかった。ヒデはすぐさま脈を図った。脈がどんどん弱まっていくのが手の中で感じた。
「やったのか、」と呟き密かに笑った。
救急車、警察の到着は10分経てば来ていた。サイレンの音が途切れることなく鳴っている。パーティ会場は先程とは打って変わってどよめきの声が広がっていた。
もう少し経つとメディアが情報を聞きつけカメラをホテルの玄関前に並べていた。今頃生中継でテレビに伝えているのだろう。
騒がしい音を遠くから聞いていたのはコウだった。雑居ビルの屋上から騒然としているホテルを眺めていた。冷えた風が頬に当たり髪が強く揺れる。屋上の縁にはライフルが置かれている。
「終わったか……」息を吐いた。冷たい息が肌に冷える。手をポケットの中に突っ込み突っ立った。
ただ、何も感じなかった。それが日常のように何もなかったかのように、目の前で人を殺したのに。
「来てやったぞ。弾丸として――」その声は誰も聞いてはいなかった。カラスの鳴き声が耳に着いた。
時刻は0時を回っていた。
次の日はテレビや新聞などが騒々しくブルーが暗殺されたことについて報道していた。
パーティーの最中に行われた犯行としてパーティーの参加者は全員取り調べを受けている。インタビューではパーティーに参加していた著名人が事件の一部始終を話している映像がどのニュース番組でも流れていた。事件のショックでとある芸能人が活動中止を発表し、テレビ界は騒がしかった。更には一週間経てば文春がブルーの犯罪組織について取り上げ、ブルーの会社は株価が大暴落し経営破綻、築き上げてきた信頼が一瞬にして崩れ去った。亡くなった時はネットでは殺した犯人を批判していたが、一転して世間はブルーを批判するようになった。死人に口なしとはこういうことだろう。
「ありがとな。色々と。」
「問題ねぇさ、こっちも世話になったし。」
「あ、そうだ。これ」と言ってカバンから書類を渡した。
「?なんだこれ。」
「ブルーの犯罪組織の関係者。いるかなと思って。」
「いつの間に」頼んでもいないことを
「いらねぇか?なら処分するけど。」と言ってカバンに戻そうとする。
「いやいやいるに決まっているだろ。」と焦りながら戻そうとする手を止める。
「冗談だって、あいよ。」
「一体、どこからその情報を?」
「企業秘密ってことで。」コウは口に手を当てる。
「結局最後も教えられねぇのかよ。」カズは勝ち逃げの様で不満そうな顔をしていた。
「まあ、内部告発ってことで。」
「?いやおかしいだろ。」
「まあまあ、」そんな他愛のない話をしていると。
「やべ、もう飛行機が出る時間だ。」時計を見て驚いた。
「もうそんな時間かよ。――気を付けてこいよ。」
「ありがと。」そう言って扉の前に立って振り返る。
「じゃあな。また会おうぜ。」
「おうよ。またな。」
顔を正面に戻し扉を開けた。