5話 別れと闇
まだ、仕事ができそうな時間帯なので期限に余裕のある仕事を進めていたら7時頃に一通のメールが届いた。確認したら仕事用のメールからだった。あの事があったから身構えていたが、仕事用なので少し安堵した。しかし――
「どうして俺が……」
そのメールは仕事の依頼でもなんでもなく、予想をしていない内容だった。
夕食はカズの帰りが遅くなったので深夜0時過ぎに食べた。夕食というよりか夜食だろう。
「なあカズ、」と俺が先に重たい口を開く。
「ん、なんだ。」食べながら言っているのであまり聞き取れなかった。
「俺しばらくしたら引っ越すことになった。」
「!本当か。」
「別の会社に行くことになったからな。しかも大企業。」
「お前、そんな有能だったのか。」驚いたようにこちらを見る。少し失礼だなと思った。
「さあな、人生、何かあるのか分かんねえな。」
「そうか……寂しくなるな……」そう言ってカズは悲しい顔をした。
「でも引っ越すのは一ヶ月後になると思うからまだ時間はある。」
「そうか、じゃあ今度二人でどっか行くか。」
「いいな!どこ行く?」
「気が早ぇよ。」
「いいじゃねぇか。せっかくだしファミレス行かね?」
「そんなんでいいのかよ。もっとましな所でもいいだろ。」と呆れながら聞いてくる。
「そこがいいんだよ。」俺はそう言って笑った。
「そうか。」とカズは呟き微笑んだ。
まだ街の明かりは明るかった。
今日は一日中仕事をしていた。残っている仕事を終わらせるためだ。
カズは今日一日徹夜らしく帰ってこない、ちゃんと休んでいるのか心配だ。と、言うことは今日は俺一人だ。
誰もいないことをいいことに真っ暗な夜の街へ出かける。まだ居酒屋は明かりが灯っており笑い声が聞こえる。もう終電過ぎているのにどうやって帰るのか気になった。外へ出たのは理由がある、現場の下見だ。どこへ撃った方が確実に当たるのか、どこだったら誰にも気付かれないのか、パーティーが行われるホテル付近の地図を確認しながら下見に来た。
見上げた場所は管理者不明の雑居ビルだ。ここは、ホテルのビルよりも若干高さがあり、丁度目立った障害物もなく正面にある。これ以上ない立地である。ただ一つ問題がある。こことホテルの距離は1000ヤード、1km以上離れている。屋上へ上り望遠鏡で覗いてみたが狙う場所は望遠鏡でさえ豆粒のように見えた。一つ大きなため息をついた。そんな音も街の中に飲み込まれ誰も聞く者はいない。静まり返っているようで耳をすませば聞こえてくる声、そんな音を聞きながらただ、ぼんやりと佇んでいた。
夜はまだ終わらない。
俺の引っ越し祝いと言う事で何かあったら入れないと思って、なるべく早めに行うことにした。参加者は俺含め2人という少ない人数、場所はファミレスという所だったが楽しく行われた。
「うんじゃ、料理も来たことだし始めるか。」テーブルの上には男2人で到底食べきれる量ではないピザやパフェ、ステーキにグラタン、その他諸々が並べられていた。
「おう!」俺が元気に言う。
「先ずは、コウ、引っ越しおめでとう。」とカズが言って乾杯した。カランとガラスが当たり中の氷が揺れる。
なぜ今日にしたかというとカズが非番で俺も仕事に空きができていたからだ。この機会はもう片手で数えるほどしかないと思い立ったが吉日ということでこの日にした。
俺は真っ先にピザをかぶりついた。チーズがよく伸びる。
「うんめぇー」思わず大きな声が出てしまった。
「たまにはいいなこういうのも。」カズが呟く。
俺もカズもいつもより食欲があったのかあんなにあった食べ物も完食をしてしまった。少しは残るかと思っていたが意外と食べられてしまって驚いた。お会計はファミレスで見たことのない値段だった。――
「おいしかったな。」腹ごなしに近所の周りを歩く。
「ああ、そうだな。」
「あのさ、」
「なんだ?」
「俺がもし犯罪者だったらどうする?」
「お前犯罪者だったのか。」と睨んでくる。
「もしだよ。もし」まあ本当に犯罪者だが。
「そりゃあ捕まえて牢屋にぶち込むさ。」何の迷いもなく言う。
「はは、だよな。」と俺は乾いた笑いをする。
「でも――」何か言っていたが最後の方が聞こえなかった。
「ん?なんだ?」と聞き返す。
「何でもねぇ。」と素っ気なく返された。
路地裏からのとある視線に俺は目配せをした。
「ちょっとコンビニ行っていいか?先帰ってていいから。」
「おう。」
そう言ってもと来た道を戻る。そうして人気のない路地裏に入る。路地裏は閉店し廃墟と化した居酒屋が誰からも目を付けられずに佇んでいた。
「まさか、警察と面識あるとはな。」とヒデが言った。
「まあ、成り行きで。」
「それならいいが……」
「とういうか、捕まるのは俺の方だろ。」
「確かに、それで計画は。」
「とりあえずブルーを会場の西側右から3番目の窓へ連れてくればあとは大丈夫だ。」
「それだけでいいのか?」
「問題ねぇそれじゃあ行くな。」
「ああ」そう言って二人は人込みへ消えた。
電柱の街灯が光り始め、街が暗くなっていたことに気付いた。