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4話 復讐と再会

「単刀直入に言おう。お前を呼んだのは……とある男を殺してほしい。」その言葉は酷く冷たい声だった。

 「!!――なぜ?」俺はもう殺し屋をやめた身だ。覚悟はしていたが、やはりその依頼をされると疑問に思ってしまう。

 「俺はその男に恨みを持っている。」

 「なるほど、で、その男っていうのは?」

 「今やこの国を代表する大企業のトップ ブルーだ。」

 「!」

 「お前なら分かるだろう。ブルーの正体を」まるで見透かしているような言い方だった。俺は何も言えずにいた。

 「期日は今度行われるブルー主催のパーティーでだ。」

 「……ああ、分かった……だが、1つだけお願いしたことがある。」

 「なんだ。」

 「俺はブルーに良くも悪くも人生を変えてもらった。それだけは知っておいてほしい。」

 「なるほどな、恩人でもあり仇敵でもあると……俺も同じだ。」

 「俺も元々は組織の人間だった。だが裏切った。」

 組織の裏切り者、組織に居た頃一度だけその噂は聞いたことがあった。とても頭がよく、組織の参謀とも言われていたらしい。恐らくその関係で俺の立場を知っているのだろう。

 「そうか、分かった。依頼は受ける。成功したら金はここに振り込んどいてくれ。」そう言って昔、裏の依頼で使っていた口座をヒデに教えた。

 「ああ、分かった。」

 そう言って何もなかったかのように二人は戻った。

 

 帰りに家の近くのスーパーへ立ち寄った。買い溜めをよくするため、エコバッグ代わりの使い回しのビニール袋はずっしりと重量があり、取っ手がちぎれそうになっている。ビニール袋をバイクの後ろの荷物入れに入れ、買ったものが悪くならないうちに急いでバイクを走らせる。

 「ただいまー」そう言ってもまだカズは帰ってきていないので家の中から返事は来ない。

 買ってきた物を急いで冷蔵庫へ入れるべくダイニングへ向かう。本当はここのシェアハウスは最大4人入居できるらしく、今入居しているのは2人、立地はいいので入った時は人気がないのに驚いた。今考えてみるとよく分かる。同居人が刑事だったらそりゃあある意味怖い、と言う事に気づいたからだ。まあ、俺も犯罪者なんでどっちもどっちだけど、そんなことを思っている間に買ってきた物をしまい終えた。まだカズが帰ってくるのに時間が掛かるので部屋に戻り、仕事の仕上げを行おうと思った。


 「ただいま、」カズが帰ってきた。

 「おう、今日は早いな」俺は丁度夕飯を作っていたのでダイニングに居た。

 「今日は何だ?」

 「ムニエルにしようかなって。丁度魚が安売りだったんだ。」

 「そうか、うまそう。」

 「もうすぐできるから、待ってろ。」

 そう言って、できた料理を机に並べる。

 「「いただきます。」」そう言って少し食べ進め、カズが口を開いた。

 「頼みたいことがあるんだが……」

 「ん?なんだ?」

 「ブルーについて調べてくれ。」

 「!!は?」いきなりのことでビックリした。

 「?知らないのかあの大企業の社長だぞ」

 「いやいや、知ってるけれど。なんで調べなきゃいけないんだ?」

 「……ああ、それはな……」

 「――事件に疑い?」

 「そうだ、最近の麻薬事件でブルーが関与したという話が出たみたいだ。」あいつは犯罪については細心の注意を払っているはずだ。だが、なぜ怪しまれる?

 「なるほど、でもそんな情報ニュースで出ていないけど。」

 「そこなんだ。」

 「?」

 「その情報は、匿名で警察に送られてきた。だがその情報は本当かどうかも分からない。だから、調べてほしいんだ。」匿名――その人物に心当たりがある。ヒデだ。あいつはブルーに相当な恨みを持っているように感じる。復讐をしたいんだろう。

 「わかった。でも、相手は大企業の社長だ。どこに権力があるかわからねぇ……」と苦言を洩らす。

 「それは、分かっている。()()()のできる範囲でいい。」

 「了解。期日は?」

 「来週行われるブルー主催のパーティーまでだ。」

 「!!」これは恐らくヒデが言っていたものと同じだ。まさか日程が来週だったとは。

 「何でその日なんだ?」俺は純粋に疑問を感じた。

 カズは少し黙ってしまった。そして、とある物を机の上に置いた。見たところ封筒のようだ。だがとても派手な赤色が使われている。

 「俺宛のパーティーの招待状だ。」そう言った。

 「まさか、呼ばれたのか。お前が!」

 「ああ、なぜかは分からねぇがな。」

 刑事であるカズがまさか招待されるとは、一体ブルーは何を考えているのか――

 「お前って有名だったんだな。」ずっと驚いた眼でカズを見る。

 「さあな、」面倒くさそうに言う。

 「その日、ブルーに会う確率が高い、だからブルーに追及する。それまで調べてほしいんだ。」

 「わかった。出来る限りやってみせるよ。」

 「ありがとう。」

 いつの間にか二人とも食べ終わっていた。片付ける準備を始める。

 「……一般人か……」そう俺は呟いた。


 今日は夢を見た。少し前の思い出だ。

 「辞めるのか。」と椅子に座ったブルーが言う。恐らく俺が組織を辞めると言ったのだろう。

 「ああ、そろそろ悪い事から足を洗わねぇと、それに就活だからな。」

 「なら、俺のところに入るか。」

 「いいよ、俺の行きたいところは俺が決める。」

 「いいのか、大企業の社長直々に誘われることなんて今後一切ないと思うが。」

 「俺はひっそりとしていてぇんだ。」そう言ったら大きく笑われた。腹痛ぇとまで言われた。

 「そう怒んな、お前らしくていいと思っただけだ。」

 「――そういえばブルーは何で会社とかやろうと?」

 「学生時代、憎んでいた奴が居たんだ。俺は今まで何でもできて欠点なんてない完璧な人間だと思ってたんだ。だがな、とある男が現れた。奴は俺より頭が良くて才能があった。みんな奴に釘付けだったよ。俺はそれが悔しくて悔しくて頑張って追いつこうとした。いや、越そうとしたな。だがそいつの親が海外へ行くことになって転校したんだ。衝撃だったよ、俺の目標、越そうとしていた奴がまんまと抜け駆けしたからな。それから大学の頃進路に悩んでいたとき、あいつがアメリカで会社を立ち上げ社長をしているのを偶然テレビで見かけた。だから、そんな奴の会社を越そうと思って立ち上げたんだ。……結局、俺は何も変わってないってことさ。」

 「そうだったんだ。じゃあ組織の方は?」

 「あれも学生の頃だな。あの時は少人数で不良グループ作っていたからな。組織はその延長線上ってやつだ。」それについては少しはぐらかしているように聞こえた。

 だが、そんな事は気にせず。当時の俺はこういう事を聞けたのが嬉しかった。

 「へーなんかいいこと聞いたな。ありがと。」そう言って椅子から立ち上がる。

 「もう帰るのか、気を付けろ。」今思えばこれが最後の勧誘だったのだろう。

 此処を去るのは少し名残惜しかったが扉を開けた。

 「それじゃ、またな。」

 「ああ、()()。」


 瞼を開ける。長いような夢が終わった。

 

 今日は気分転換にツーリングをした。昨日はいろいろなことがあってうまく頭の中が整理できていなかった。風に当たりながらいろいろなことを考える。

 カズに依頼されたことは結局どうするかまだ悩んでいた。もし全て調べつくしてしまうと俺の正体だって分かってしまう。どこまで情報を流せばいいのかそこの境界線がいまいち分からない。

 それにブルーを殺せという依頼も来てしまっている。これは承諾してしまったんだから引き返す訳にもいかない。だが足を洗った身だ。もう犯罪には手を染めたくないという気持ちがある。

 もうあんな思いはしたくない――初めて人を撃ち殺したとき何の感情も抱かなかった。ただそこにゴミがあるかのように雑居ビルの屋上から倒れた遺体を見ていたのを鮮明に憶えている。あの時は今考えたら怖ろしい、そんな虚無の感情はもう感じたくなかった。

 海沿いの公園に着きここで一息休憩を取る。今日は土曜日なので人が多かった。だがそんな人の多さ関係なしに目立つ人物を見つけた。すれ違う人たちもみんな()()()を見ている。あまり会いたくはなかったが――話しかけずにはいられない。

 「久しぶりだな。」俺が背後から言った時振り向いた。

 振り向いた人物はブルーだった。


 「――まさか、こんな所で合うとはな。」

 「俺も驚いた。」

 「せっかく会ったんだから、少し話そう。」と言って近くのベンチに移動した。

 「元気していたか。」

 「ああ、」

 「そういや最近警察がお前のことについて調べているらしい。」

 「それ、どこからだ。」

 「俺の友人。」

 「お前なんだかんだ言って顔広いよな。」

 「お前には言われたくはねぇ。」そりゃあそうだ、大企業の社長だぞ、俺より顔が広いのは当たり前だろうと思った。

 「そうか、伝えてくれてありがとう。気を付けておく。」

 「話は変わるんだが、お前に言いたいことがある。」ブルーはそう言って、俺はブルーの方へ向く。

 「もう一度言う。俺のところに来ないか。」

 「……じゃあ。」

 「!!」

 「次の仕事次第かな。次の仕事は重大な仕事なんだ。だからその仕事が失敗して会社を辞めたらな。」

 「かなり難易度たけぇな。入る気無いだろう。」と突っ込まれる。顔は完全に呆れている。

 「はは、ばれたか。」俺は笑うしかなかった。

 「まあいい、お前にこれを。」何かを差し出された。そのものに俺は見覚えがあった。

 「俺のパーティーの招待状だ。ぜひ来てくれ。」

 「でも俺、()()()は一般人だぞ。」

 「大丈夫だ。名簿には書かないでおく。」

 「そうか、ありがとな。」

 「ああ、じゃあ俺は帰る。」そう言ってブルーはベンチから立って歩いて行った。手を振っている。

 「おう。」呟くように答えた。

 手には真っ赤な封筒があった。

 「帰るか。」俺もベンチから立って来た道を戻っていった。いつの間にかお昼時になっていたのでコンビニに寄ろうと思った。

 

 コンビニに寄った時、封筒の中身を確認してゴミ箱へ入れる。無造作に捨てられた封筒はもう誰も見ることはないだろう。

 バイクに寄りかかって昼ご飯を食べる。少し北風が強くなった気がした。

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