1話 元殺し屋の日常
此処は雑居ビルの屋上
冷えた風が頬に当たり髪が強く揺れる。屋上の縁にはライフルが置かれている。
目線の先には此処とは正反対の光に包まれたパーティ会場があった。
過去の因縁に決着を着けるために彼は引き金を引いたーー
朝日の光が眩しい、少し空いたカーテンから窓際のベットに日差しが入ってくる。あまり朝は好きではない方だ。若い頃は寝起きが良い方で親よりも早く起き朝食の準備もしていたぐらいだ。だが、その必要は無くなった。中学卒業と同時に母親が交通事故で亡くなり、高校入学直後に父親が職を失い夜逃げをした。それでも、同級生にからかわれ、パワハラ気味のバイト先で働く日々を誰にも言わず我慢して何とか大学に入るまでの努力はした。
しかし、高校時代に父親の夜逃げの影響で少しぐれていた俺は暴走族に所属していたダチとつるんでいた。そこの親組織である所から目をつけられてしまった。そこは表向きでは大企業の皮をかぶった犯罪組織であった。俺はそこで“殺し屋”の役割を任された。
殺し屋を任された理由としてはこの辺では珍しかった射撃部で俺はエースだった。それが巡り巡って組織の人間の耳に入ってしまったのだ。正直裏側とはあまり関わりたくなかったが大学の奨学金を免除するという契約で俺は犯罪の道へ一歩進んだ。
それから人生は180度変わった。上から依頼された事を何も感じずなんとなくこなしていた。人を殺している感覚など無いに等しくただただ、無感情だったと振り返る。俺は一度も仕事を失敗したことがなく射撃も外したことが無かったため随分気に入られ、遂には幹部までに上り詰めた。代わりに“仕事”は毎回深夜だったため、朝が苦手になってしまった。おかげで目の下には隈ができ、朝一番の講義は休み休みになった。周りの人達には心配されたが別に自分は気にしていなかった。
何が気に入ったのか、会社の社長いや組織の№1である、ブルー直々の依頼も来るようになった。ブルーは外国人のハーフらしく目が奇麗な金色の目をしている。本人はその目を気に入っていないようであまり人前で顔を見せないらしい。とある日大学へ行く途中ブルーにぶつかってしまいそれからよくでかいビルの社長室に呼ばれたり時には俺の家にも来たりする仲になった。
大学を2年留年してやっとのことで卒業して就職が決まったことを理由にこの組織をやめた、いつかはやめようと思っていたことだ、早めに辞められて良かったとあの頃は思っていた。
そんな事を遠い昔のように思い出しながら、生ぬるいベットから出る。そして、パソコン前の椅子に座る。今はWEBプログラマーを生業にしている。オフィスに行ってわざわざ仕事するのも酷だから、家でやっている。
「おい、朝食食べないのか?」と扉を開けてきて入ってきたのはカズ、シェアハウスの同居人だ。捜査一課の刑事である。人相は悪いが意外にマメだ。
「さんきゅ、いただくね。」そう言って椅子から立ち上がり自分の部屋の扉の先へ行く、いい匂いだ、恐らくバターだろう。今日はトースターだなと思いながら駆け足で共同ダイニングへ向かう。
シェアハウスに住むことを決めたのはいたって単純、安かったからだ。都内でこんなにいい家賃はなかなか見当たらない優良物件だった。だが、一つ問題があるとするならば同居人のカズが刑事という所だ。
俺は元々殺し屋をやっていたから刑事と殺し屋が同じ屋根の下で暮らしている恐ろしい状態だということだ。
「今日非番なんだな。」そうトースターをかじりながら言う。
「ああ、だからゆっくりできそうだ。」ゆっくりできそうと言っているが実際はそうでもない、もしどこかで事件が起きたらどんな状況でも出勤しなければならないからだ。ブラック企業とはまさにこのことを指す。と思いながらもう一口トースターをかじった。
「コウ、それで話は変わるのだが、」何やら真剣な眼差しで見つめてくる。あ、これは、と思いながら「なんだ?」と聞く。
「これの捜査をしてほしい。」カズはそう告げたーー