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鬼になった同志  作者: マーたん


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9/17

「堕ちゆく花 ― 鬼椿、覚醒」

人はなぜ、鬼になるのか。

この問いに、誰が正しい答えを持っているのだろうか。


古の時代、

鬼とは人に仇なす化生であり、

その存在は憎悪と恐怖の象徴だった。


しかし本当にそうなのか?

鬼とは、果たして生まれながらの怪物なのか。

それとも――人が人でいられなくなった、その果ての姿なのか。


『鬼の掟の巻物』は、鬼と人の契約、

“契り”によって命を繋ぐ者たちの記録である。


己が魂を賭しても、仲間を守りたい。

その強い祈りが、やがて呪いとなり、鬼となる。


この物語は、

正義の仮面を被った契約、

愛という名の犠牲、

そして、鬼となった“同志”たちの記憶である。


読者よ。

血の滴るその巻物を、いま静かに開いてほしい。


そこに刻まれた、**鬼と人の“真実”**を、

どうか目を背けずに受け取ってほしい。


椿の身体に取り憑いた「鬼王の影」は、

夜ごと彼女の精神を削りながら、静かに力を蓄えていた。


夢の中で彼女は、

かつて黒天の鬼王が見た“地獄”を追体験させられる。


焼け落ちる村。

逃げ惑う人々。

そして、鬼と呼ばれ、追われ、虐げられた過去の幻。


「鬼とは何か」

「人に拒まれた存在……それがお前だ」


「私は……鬼じゃない……!」


椿は夢の中で叫んだが、

その叫びは誰にも届かず、ただ虚空に消えていった。



◇ 鬼化の兆し


目覚めた朝。

鏡の中の自分に、椿は言葉を失った。


瞳が赤く染まり、

爪がわずかに黒く変色していた。


(まだ……引き返せる。私は私を保ってる)


そう信じて、彼女は皆の前では平静を装い続けた。


だがその夜、任務中。

突如として襲ってきた魔の群れを前に、彼女の意識が揺らいだ。


悠真が襲われた瞬間――


「やめて……触るなァッ!!」


怒りと共に、椿の中で“鬼の力”が暴走した。


黒い霧が渦を巻き、

無意識のうちに放たれた鬼術が、敵も味方も巻き込んで吹き飛ばす。


その場にいた全員が、息を呑んだ。


「……椿……今の……」


鋼次の声が震えていた。


悠真も、言葉を失っていた。


椿はその場から、逃げるように姿を消した。



◇ 追う者、迷う者


「椿は……俺を守るために……自分の命を、鬼の呪いを背負ったんだ」


悠真はようやく全てを悟った。


あの夜、鎮まったはずの鬼の力。

自分の代わりに椿が“契約”を結んだのだと。


「なら、今度は俺の番だ。俺が椿を救う!」


悠真は決意を胸に、

“掟の巻物”が記す唯一の解除方法を探す旅へ出る。


それは――


椿に「本物の絆」を証明すること。


愛も、信頼も、血の契約も超えて。


彼女がまだ人であるうちに、

その魂を抱きしめることができるのか。



◇ そして物語は――


彷徨う椿。

追いかける悠真。

揺らぐ仲間の絆。


世界に再び、鬼の咆哮が響く日も近い。


「鬼になっても、私は──人を信じたい」


椿が姿を消してから三日。

彼女は“誰もいないはずの廃神殿”の奥にひとり潜んでいた。


胸の刻印は、まるで燃えるように熱を帯び、

そのたびに記憶がにじむ。


笑っていた仲間の顔。

悠真の優しい声。

蓮と鋼次のぶつかり合い、

すべてが遠ざかっていく──


「忘れたくない……でも、私、もう……」


彼女の目は、すでに半分が鬼の紅に染まっていた。

指先から爪が尖り、呼吸のたびに吐く息が黒く濁る。


このままでは、完全に「鬼王の器」となってしまう。

そう、自分でも分かっていた。


だが、彼女の意識の奥で…“誰か”が叫ぶ。


「椿──!」

「オレだ、悠真だ!!そこにいるんだろ!!」


その声に、彼女の瞳が一瞬だけ揺れた。



◇ 愛の契約を超えて


悠真は刻印の力を追い、ついに椿を見つけた。


ボロボロの姿のまま、黒い霧の中心に佇む椿。


「来ちゃダメ……! 私、もう人じゃない……!」


「だったら関係ない!」

悠真は叫びながら駆け寄る。


「誰が鬼だって? 誰がそんなの気にするんだよ!」

「オレが守るって決めた! オレが、お前の手を──」


「もう遅い……悠真、お願い。私を殺して……!」


「黙れ!!」


悠真は椿の頬を叩いた。


彼の手は、鬼の瘴気に焼かれ、血を流す。

それでも彼は彼女の肩を掴み、見つめる。


「契約なんて関係ない。掟も巻物も、鬼の血も──」

「全部、オレたちが壊すんだ!」


その瞬間、悠真の胸に紅い光が灯った。


椿の胸の“黒花の刻印”が反応し、苦しむように脈打つ。


――契り、成立ヲ、拒絶ス。

――純愛ノ光、契約ヲ覆ス。


呪いの契約が、悠真の想いに押し流されていく。


椿の鬼の目が消え、彼女の爪が人のものに戻っていく。



◇ 終焉の花


彼女が目覚めたのは、夜が明ける直前だった。


「悠真……?」


「おはよう。おかえり、椿」


彼女の胸にあった刻印は、

いまや一輪の“黒花”から“白い花”へと変化していた。


呪いは解けた。だが、それはただの奇跡じゃなかった。

悠真の命の灯──彼の魂の一部が、代わりに刻印へと刻まれていたのだ。


「これからは、オレたちふたりで“契り”を選べばいい」

「誰にも決めさせない、オレたち自身で」


椿は涙を流しながら頷いた。



◇ エピローグ


後日、巻物は蒼の柱へと封じ直され、

鬼王の魂も二度と呼ばれぬよう封印された。


椿と悠真は、人と鬼の境界を越えて、

“人の心”で繋がり続けるという選択を選んだ。


誰かが言った。

「鬼になっても、愛を捨てなかった」と。


そして彼らは──

それを“祝福”と呼んだ。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

『鬼の掟の巻物』は、愛、信念、裏切り、そして再生を描く作品として生まれました。


物語に登場する鬼たちは、決して“悪”の象徴ではありません。

彼らは、何かを守るために、何かを奪われてなお、生き残ってしまった者たちです。

人でありたかった彼らが、鬼であることを強いられ、

それでもなお、誰かのために立ち上がる。


“鬼になった同士”という言葉には、

「同じ痛みを知る者たち」への、祈りにも似た思いを込めました。


また、巻物という象徴は、

「記録され、封じられた過去」を意味しています。

それが読み解かれる時、人は過ちと向き合わなければならない。


けれど、その先には必ず希望があります。

鬼になってなお、人であろうとする意思こそが、

この物語を支える“心”でした。


もし、あなたが心に何かを感じてくれたなら、

それはこの巻物が、誰かに読まれることを望んでいた証かもしれません。


契りは終わり、

だが、物語は続きます。


また、どこかの“柱”で、お会いしましょう。


――謹白


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