掟守襲撃戦
廃寺に潜んでいたザガンとカエデの元へ、ついに掟守の刃が迫る。
かつての仲間、そして今は鬼狩りとして立ちはだかる者たち。
生き延びるための戦いが始まるが、その中でザガンは「鬼を人に還す唯一の条件」を試す決意を固める。
命を賭して守るべき弱者を救えるのか――血と月光に染まる夜が幕を開ける。
燃え落ちた紅楼街を背に、ザガンは郊外の廃寺へ辿り着いた。
月明かりの下、彼を待っていたのは同じく鬼と化した同志・カエデだった。
その肌は蒼白く、瞳は紅く光っている。
それでも、彼女の声は人だった頃のままだ。
「……持ってきたのね、例のもの」
「ああ。だが、問題は中身だ」
ザガンは巻物を開く。
そこには細かく刻まれた古文があり、中央に一行だけ朱文字で記されていた。
『一命一還』
一人の命を捧げれば、一人は人に還る。
カエデの手が震える。
「つまり、私を戻すには……あなたが死ぬってこと?」
「そうだ。逆もまた然りだ」
二人の間に、長い沈黙が落ちる。
外では虫の音が響き、寺の屋根から瓦が一つ落ちた。
「……ふざけてるわけじゃないのよね」
「俺は本気だ。お前を戻せるなら、俺は――」
「やめて」
カエデの声が震えた。
「そんなことしたら、私……生きてても意味ないじゃない。
あなたがいない世界なんて、何のために戻るのよ」
その瞬間、廃寺の外から足音が近づく。
闇の中から現れたのは、掟守の一団だった。
巻物を奪い返すため、そして掟破りを処刑するために――。
ザガンは刀を握り直す。
「話はあとだ。今は……生き延びるぞ」
「ええ、一緒に」
そして、月明かりの中、二人は肩を並べ、迫り来る刃の群れに飛び込んだ。
廃寺の門を押し開けた瞬間、夜風が血と鉄の匂いを運んできた。
月光の下、掟守の一団が列を組み、刃を構えて立っている。
その先頭には、かつてザガンと同じ戦場を駆けた元友軍の隊長――カンロがいた。
「……ザガン。カエデ。お前たちは鬼だ。情けをかける理由はない」
「なら来いよ。俺たちも退くつもりはない」
カンロが腕を振り下ろすと、掟守たちが一斉に突進してきた。
ザガンはその動きを読み、低く構えて足元を狙う。
一人の膝を斬り払うと同時に、背後から迫る刃をカエデの爪が弾いた。
爪が火花を散らし、相手の胸鎧を裂く。
「お前、相変わらず容赦ないな!」
「鬼の力、無駄にできないでしょ!」
だが数は多い。
廃寺の境内は瞬く間に血煙で満ち、瓦礫の上に倒れる掟守が増えていく。
その中に、まだ息のある若い掟守がいた。
腕を押さえ、恐怖に目を見開いて後ずさっている。
――命を賭して、弱き者を救え。
ザガンは僧の言葉を思い出し、迷わずカエデに叫んだ。
「この子を守れ! 俺が囮になる!」
カエデが驚く間もなく、ザガンは刃の群れへと飛び込み、鬼の力を全開に解き放った。
掟守たちが後退し、その間にカエデは少年兵を抱えて廃寺の外へ走る。
月明かりの中、ザガンの背は紅く揺らめく鬼炎に包まれていた。
その姿は、まるで自らを犠牲にして道を開く鬼神のようだった。
掟守との戦いの中で、ザガンは鬼の力を惜しみなく解放し、弱き者を守るという試練に挑んだ。
しかし、それは同時に命を削る行為でもある。
この一戦が彼を人に戻す一歩となるのか、それとも鬼としての最期を早めるのか。
次章では、戦いの果てに残された者たちが下す、残酷な選択が描かれることになる。




